GANJU
巌樹様のその姿は、元通りになっていた。
そして、見て分かる……
巌樹様は怒っているのが見て分かる。
巌樹様は夜峩さん達がいる方へと視線を向ける。
「夜峩よ……すまぬな」
「が、巌樹様⁈」
巌樹様が夜峩さん達に一言謝る。
夜峩さんはその言葉と同時に片膝を着き、頭を下げる。
「皆もすまなかった」
巌樹様の発した言葉で、意識を取り戻した人たちも片膝を着きながら頭を下げ、涙ぐんでいた。
「いや~、まったく涙ぐましく、感動的な場面に立ち会えて嬉しい限りですな~」
だが、その空気をぶち壊す一人の男。
ロキの言葉で先ほどと、いや、それ以上に殺伐とした空気へと変化した。
「いや~、こんな感動的な場所に私めの様な輩はいない方がいい。 むしろ消えさせていただきますね」
「き、貴様ぁ、よくもぬけぬけと……生きて返すわけな――」
「消えろ」
「なっ⁈」
周りにいる人達も巌樹様のお言葉に耳を疑う反応を示す。
「ははあっ! それではお言葉に甘えさせて――」
「だが、次はこんなまどろっこしい真似はせず、直接ワシの元に来い」
「が、巌樹様っ⁈」
「よいのだ」
巌樹様は体を起こそうとした夜峩さんを手で静止させる。
そして、またロキの方へと視線を向ける。
「お主たちの思想は変わらぬのか?」
巌樹様はそう呟く。
その言葉にロキが何故か黙りこくる。
いつもなら軽口を叩くぐらいのノリのはずなんだが?
「……あぁ、俺達の考えは変わらない。 あれからずっと」
「そうか……」
なんだ?
何の話をしているのか俺には分からなかった。
巌樹様とロキとの間に何があるのか?
話を聞いていると、この二人は昔からお互いを知っている様な感じがした。
「さて、間が空いてしまいましたが、私めはこれにてドロンさせていただきますわ。 あ、あと――」
「うん?」
ロキは俺へと視線を向ける。
「迅人君、また会おう」
「いや、俺は遠慮したい」
「はははっ! 相変わらずつれないねぇ~、君って男わ」
「危なっかしい奴とはつるむなと小さい頃から教えられているもので」
「親の教育がしっかりしてるんだねぇ~」
「あ、いや、氷歌の教えです。 その後に親から教わりました」
「なっ⁈」
俺がそう言うとロキはガクッとした態度を見せ、ロキが被っている仮面が少しずれる。
「いや~、氷帝さんか~。 なるべく彼女には会いたくはないな~」
「嫌われてますもんね」
「最初の印象が大事とは言ったもので、出会いは最悪だったからね」
ロキは頭をポリポリと掻く仕草をし、こちらに視線を向けなおす。
「知ってるかい? 人生の大半は後悔と、自分自身でチャンスを掴み損ねる事の方が大半なんだって事を……だから、その数少ないチャンスを掴むために、み~んな死に物狂いになって、必死になって生きているんだよ」
「なんだよ急に?」
いきなり真面目な事を言い出すロキに対し、俺は少し動揺してしまう。
どの面下げてそんな事を言えるのかと徐々にだが怒りが込み上げてくる。
「俺達も君たちと変わらないってことさ」
「人に迷惑をかけているのにか?」
「大義には多少の迷惑と嘘は必要なもんさ。 政治家もそうだろ? 自分が当選するのに公約を口にするが、いざ、当選し、自身が公約した事をちゃんと実践した奴なんか数える程だ」
ロキは、ロキが言いたい事が俺には分からない。
「何が言いたいんだお前は?」
「分からないかい?」
俺が聞き直すと、ロキは天に人差し指を向ける。
「俺は必ず、やり遂げ、そして――」
「おい、いつまでやってんだ馬鹿っ!」
バチンッ
「あいた――っ⁈」
この前ロキを助けに来た仮面を被った女性だ。
その女性がロキの頭を引っ叩いたのだ。
「また道草でもしてんだろうと思ったら、とんでもねぇ~ことを口走りそうになってたからヒヤヒヤしたぞ」
「い、今、かっこいい事をビシッと言うところだったのにっ!」
「バ~カ! あたしが止めていなければ、またお前はじじぃ共に痛い目にあってたんだぞ」
「これぐらいど~ってこと――」
バチ――ンッ
「お、同じとこをっ⁈」
「じじぃ共はお前をとくに見てるんだ。 やめとけ」
「俺はどうってことない!」
「お前はよくてもあいつらはどうするんだ?」
「うっ⁈」
女性がそう言うとロキは口籠る。
「あたしたちはじじぃ共の命令をクリアしたんだ。 もう帰る……うん? お前は……あの時の?」
女性は俺に視線を向ける。
あの時、あそこにいた俺の事を思い出したみたいだ。
「へぇ~、そうかい。 ロキ……あいつは殺したほ――」
「はい、そう言う事だから、帰るね。 バイバイ」
「あ、ちょ、待てロ――」
ロキは自身の前にゲートらしき物を開け、強引に女性を入れ込んだ。
そして、ロキは俺に視線を向けながら、ゲートの中へと消えていった。
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