獣
「へぇ……仮面の下はバケモンかと思ったが、想像通りのバケモンだな」
「なっ⁈ 貴様、我々を知っているのか⁈」
「いんや、知りません」
「嘘をつくなああああああああ!」
俺の嘘を見破り、怒声で俺を威嚇する。
うん?
ロキは俺の事を言っていないのか?
そこまで仲が良くないのか?
まぁ、頷けるっちゃ頷けるんだけどな。
こんな奴とは関わり合いにはなりたかないわな……
「貴様あああ! 今失礼な事を考えていただろう⁈」
「うえっ⁈ その通りだから否定はしない」
「していたのか⁈ しかも否定しないとかサラッと言いやがって! これでもくらえ!」
虚ろわざる者は瘴気を寄り濃くし、俺めがけ瘴気を放とうとしている。
「瘴毒」
「は、迅人様⁈」
「迅人殿⁈」
俺はその攻撃を避けずにもろに食らう。
「は、はあ―――はっはっは! こいつ避けようともせずに、もろに食らいやがった! いや、瘴気をより濃くしたせいで、体が動けねかった? そ、そりゃそうだ! 先程よりも濃くしたんだ! 動けるわけがね―わな!」
「くっ⁈ 瘴気の濃さが先程よりも強い⁈ こんなの食らってしまったら……迅人様……」
「体さえ……父上の体が動きさえすれば迅人殿は――」
「おいおい、俺は死んでないぞ」
「「「えっ⁈」」」
瘴気の煙が薄れていくと、みんな驚いた顔が見えてくる。
まぁ、無理はないはな……俺が直撃を食らったのにも関わらず無傷なんだから。
「な、なんで、なんでお前は無事なんだ⁈」
「だから、聞かれても答えないって言ったんだろ」
「な、なら力づくで吐かせてやろうじゃないか」
虚ろわざる者は夜峩いさん達のいる方へと走り出す。
なるほど、人質を取って、この状況を何とかしようって魂胆か……夜峩さん達は瘴気のせいで動けない。
まぁ、悪役がやる常套手段だな。
だが、そう上手くいくと思うなよ。
「貴様みたいな奴は、こいつらを人質に取ったら何もできなくなるんだ!」
「き、貴様、どこまで汚い手を使う気だ⁈」
「うるさいっ! これが終わったらお前を先に穢れにまた戻し、お前の家族、そしてお前の仲間達を、お前の手で殺させてやるから覚悟しとけ!」
虚ろわざる者は夜峩さんに向け、汚い手を伸ばす。
「そうは問屋が卸さないって言葉を知っているか?」
「な、なんだと?」
俺は心の中で、夜峩さんを仲間と認識する。
そうすることで、この状況を何とかする事ができるからである。
そう、俺の【順応】がこの状況を打破してくれる。
「貴様が何を企んでいようが、俺が瘴気を流し続けていればこいつらは動くこともできないのだ!」
「はたしてそうだろうか?」
「自分が不利な状況に陥り、頭がおかしくなったのか?」
「は、迅人様、それは一体どうゆう? うん? これは⁈」
夜峩さんは気付いたみたいだ。
「なっ⁈ き、貴様、一体何をしたっ⁈」
それとこいつも何か違和感に気付いたみたいやね。
でもこの質問に対して俺が言う事言ったら――
「だから、何度も言わせんなよ。言うわけがないだろうが」
「き、貴様あああああああああああ⁈」
俺が少しおちょくると、虚ろわざる者は叫びながら俺に向かって襲いかかってくる。
ドンッ
「なっ⁈」
俺に振り下ろそうとした拳は止められる。
「その汚い拳は、迅人様には届かん」
「き、貴様、猿の分際で何故動ける⁈」
俺に振り下ろされた拳を、拳でキャッチしして防いでくれたのは、先程まで瘴気のせいで身動きが取れないでいた夜峩さんだ。
虚ろわざる者はキャッチされた拳を振り払うと、後ろへと後退する。
「もう大丈夫そうですか?」
俺がそう聞くと夜峩さんは頷く。
「えぇ、これも迅人様のおかげでしょうか? 感謝申し上げます」
「気にしないでください。それよりも――」
「あやつは私にお任せいただけないでしょうか?」
「そのつもりです」
「かたじけない」
夜峩さんはそう言うと、ゆっくりと虚ろわざる者の方へと歩き始める。
「はっ⁈ 猿如きが俺に叶うとでも思っているのか⁈」
そう言うと、体中から瘴気が噴き出しだす。
だが、夜峩さんは先程までと打って変わり、歩みを止めない。
「な、なんでお前まで動けるんだよ⁈」
「先程まで、確かに瘴気により身動きが取れなかったが、今は何ともなく動くことができる」
夜峩さんはそう言いながら、1m程しかなかった身長がみるみるうちに大きくなっていく。
「な、なんなんだ、その体は⁈」
夜峩さんの変貌に対し驚きを隠せない虚ろわざる者。
正直俺も驚いている。
「我々夜猿一族は、常に体に超負荷をかけながら生活を送っている」
「ちょ、超負荷だと⁈」
「そう……その超負荷というのは、自身の体を圧縮し、常に体に負荷をかけ続け、たゆまぬ苦痛、そして研鑽を積んでいる状態……いわば、この姿は偽りの姿なり」
「な、何が言いたい⁈ そ、そんな姿になったからと言って、お、俺に勝てるわけが――」
「確かに、先程までの私なら貴様には何も出来ずに、また穢れた者となり、巌樹様にご迷惑をかけていたであろう……だが――」
夜峩さんは虚ろわざる者が喋り終える前に間に入って遮る。
夜峩さんの姿は先程まで愛くるしかった姿とは打って変わり、いや、変わり過ぎって言う程、厳つくなっているんですけど!
それに、まだ大きくなっている。
「この姿になったからには、貴様如きが私に勝つ事など、無きものだと思うがいいっ!!」
「ひぃぃぃ⁈」
虚ろわざる者の目の前で止まり、耳をつんざく程のけたたましい雄叫びを浴びせ、それと同時に、とてつもない程の殺気をぶつける夜峩さん。
そこには、先程まで愛くるしかった姿はなく、そこには、怒り狂う黒き野獣の姿があった。
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