再び
「すいません、場の空気を読まず、泣いてしまって」
「あ、い、いえ、お気になさらないでください」
「母上~」
「もぅ、夜煌ったら、お客様の前で甘えてぇ~」
う~ん、いや~ほんっと、あんな光景を見たらさ、泣いちゃうよね……俺って普段はこんな風にもらい泣きするような男じゃないんだけどさ、その、みなさんの夜煌に対する気持ちが俺にすっごい伝わりまして、夜煌のためにみなさん穢れに抗っていたんですもん。
みなさん、すっごい精神力の持ち主ばかりなんだと感心していたら、夜煌の泣きじゃくる姿を見たらもう……耐えられんでしょう。
「迅人様、我々を助けていただき、本当にありがとうございました」
「いえ、みなさんが自我を失わず、頑張ってくれていたおかげです。もし、みなさんが最後まで抗ってくれていなければ、俺にはどうしようもできませんでしたから」
「そう言っていただけると、我々も抗った甲斐がありました。通常だと、穢れに飲まれたらお終いなのですが、まさか、助かるとは……」
夜煌のお父さんはそう言うと、母親に甘えている夜煌たちの方を向く。
「またこのような光景が見れるとは思いませんでした。我々夜猿一族一同、長である夜峩が再度、感謝申し上げます」
夜峩さんは俺に向き直り、頭を下げ、再度お礼を言う。
下を向き、震えている夜峩さん……
「みなさんを助けられて、ほんとによかったです」
「本当に、本当に、ありがとう――」
「おいおいおいっ⁈ こりゃ一体どういうことだ⁈」
一難去って、また一難とは言ったもんで、上を見上げると、不気味な仮面の模様をした男が片膝をついた状態でこちらを見下ろしていた。
「き、きさぁまああああああああ――」
夜峩さんはその男を見るや否や、耳をつんざく程の大きさで叫び出す。
その叫び声に、相当の怒りが込められているのが感じ取れた。
夜峩さんのこの怒り様を見たら、あいつが首謀者に間違いない。
「あぁあ、うるさいうるさい! 俺が聞いているのは、な、ん、で、穢れが消えているのか不思議でしょうがないんだ。うん?」
どうやら俺に気づいたみたいだ。
「……お前が穢れを消したのか?」
「そうだって言ったらどうするよ?」
「ふむ、興味深いな……穢れを纏った者は、元の姿には戻れない……ましてや、瘴気を当てさせたのだから、尚さら……実に興味深いねぇ~」
最後の言葉に俺は鳥肌が立つ。
こいつ、絶対にやばい事を考えているに違いない。
それも毎日ヤバい事を考えてそうな感じがバンバン伝わってくる。
「お前、名前は?」
「名乗りたくないんだけど……」
「そりゃ~ないだろう。これから長~い付き合いになると思うしよぉ~」
「いや、それもお断りで」
「くっくっく……ますます面白いじゃねぇかよ」
「迅人様、どうかここは私めにお任せくだされ」
夜峩さんはそう言うが、先程まで穢れた者になっていたせいで、体力も気力も擦り切れ状態のはず……現に今も叫んだだけで、息を切らせている状態だ。
「父上……」
「あなた……」
二人は夜峩さんを心配そうに見つめる。
周りを見渡しても、みな同じで体力も気力もギリギリだ。
「長、俺達も戦いますよ」
「お前達……すまない」
仲間のみなさんも戦いに加勢する意思を見せ出す。
「おいおい、そんな状態で俺に挑むつもりかよ~? くっくっく……今一度穢れを纏わせるのもいいかもな~? なぜお前達が穢れから解放されたのかも気になるしな……」
虚ろわざる者がそう言うと、殺気と共に瘴気が周囲に広がりだす。
「くっ⁈」
夜猿のみなさんは瘴気に当てられ、膝をつき、顔色が悪くなる。
俺も一緒で、瘴気に当てあられ、膝をつき、気分が悪くなる。
「猿共もそうだが、人間だって例外じゃないんだよ。瘴気に当てられればほとんどの種族は立ってもいられないし、正気を保ってはいられないんだ」
「くっ、そ……」
夜峩さんは悔しそう表情を浮かべながら、下唇を噛み、血が滴り落ちる。
「さて、うるさい猿共は大人しくなった。次はお前の番だ。この猿共が自力で穢れを解放したとは到底思えん。お前がやったんだろう?」
「だったら何だって言うんだよ?」
俺がそう言うと、虚ろわざる者は俺の前にしゃがむ。
「そうだな……お前を俺のコレクションに追加しよう」
「コレクション?」
「そう、コレクション! 俺のコレクションに選ばれた者は死ぬ事のできない、いわば、俺の永遠の実験体として生き長らえる事を許される特権をお前にやると言っているんだ! 光栄に思うといい!」
「お前、そんな事を言われて、はいありがとうございますと言う奴なんかいると思うのか?」
「俺の目の前にいるじゃないか?」
「思わねー! 絶対に思わねー!」
「思う思わないは関係ない。俺がそう言っているんだから、これはもう決まった事なんだよ」
俺が嫌そう言うと、虚ろわざる者が瘴気の濃さを強くする。
「は、迅人殿……」
「あ、あな、た……」
瘴気が強くなったせいで、夜猿のみなさんは一層苦しそうな表情になる。
小さな子どもたちも苦しそうだ。
これは早く終わらせた方がいいな。
「そうだ……良い事を考え付いた。お前が自ら俺に懇願すればこいつらを助けてやらなくもない」
「なんだと?」
聞こえていたけどあえてもう一度聞き直す。
「聞き分けのない奴だ。もう一度言おう。お前が俺にこん――」
「時間切れだ」
ドゴォォォンッ⁈
「ガ―――ンッ⁈」
虚ろわざる者が俺の拳を顎に食らい、空高々に吹っ飛ぶ。
ドサッ
「グヘッ⁈ な、何でお前は⁈ 何でお前は動けるんだ⁈」
仮面が外れると、想像通りの顔が露わになる。
想像通りっていうのは、人それぞれの感想はあると思うけど、サイコパスっぽい顔をしていた。
見た目は至って普通の人間の姿だ……見た目は。
虚ろわざる者は、口から血を流しながら、なぜ俺が動けるのか不思議がっている。
誰が教えるかっての!
「へぇ……仮面の内側はどんなもんかと思ったが、想像通りのバケモンだな」
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