3つの思い
巌樹さんの発した言葉に俺は驚くことなく、どことなくラグナさんと知り合いだろうなと感じていたのだが、それよりも、巌樹さんを見て懐かしさを感じていた。
まぁ、巌樹さんの方から口にしてくれたおかげで話は進みそうだ。
「はい。俺はラグナさんから『龍の心』を譲り受けました」
俺は聞かれた通り、ラグナさんから『龍の心』を譲り受けた事を素直に言う。
「……そうか……ラグナは安らかに逝けたか?」
「安らかに逝けたかは分かりませんが、最後は俺をからかい、笑いながら消えていきました」
「はっはっは! あやつらしいのぅ……あやつは、ラグナは少し、いたずら好きな奴ではあったからな。最後の最後に迅人に出会えて嬉しかったのであろうな」
「はは、は……そうならいいんですけどね」
「そなたに『龍の心』を譲った事が何よりの証拠であろう」
巌樹さんから優しい眼差しが俺に注がれているのを感じる。
「ラグナは、わしら古代種の中で、一際人間が大好きだった。だが、その大好きな人間に裏切られたと分かってもなお、あ奴は人間を最後の最後まで恨んだりはしなかった」
「はい。ラグナさんは最後まで人間を思い、そして心配されてました」
「そうであろう……わしらとの連絡も断ったあ奴は、わしらに迷惑をかけんために人知れず孤独を耐え抜こうとしたのであろうが、そこに迅人、お主が現れたことで、その運命が変わったのであろうな」
「運命ですか?」
「迅人になら、自身の力を譲ってもよいと、自分が大好きだった人間に託したいと思ったのであろう」
そう言うと、巌樹さんは俺の胸に人差し指を置く。
「ラグナの力は、この世界に必要なもの……だが、その力を託す相手を間違えると、世界は混沌へと変わり果ててしまう……わしもそうじゃが、迅人にラグナの力が授かった事はとても幸運だった、いや、これも運命だったんじゃろうな」
巌樹さんは上を向き、しばし、何も発する事無く、時間が過ぎる。
「お師匠はラグナ先生とはとても仲が良かったのであります」
「え、そうなんだ」
横から夜煌が話しかけてくる。
「あ奴は嬉しそうに自身が育てていた人間、いや、息子をそれはそれは嬉しそうにわしに話しておった。だが、人間というものは自身の保身のために動く……そして、そこに付け入り、人間を洗脳し、自分の事を父と慕う者に殺めさせ、息子を思い自分から消えた馬鹿者……その裏には虚ろわざる者……奴らのせいで多くの仲間が……力を失った」
巌樹さんの話声から悲しみが込められているのが感じられる。
「我々古代種の中でもっとも強く、優しく、いたずら好きで……なぜ、なぜ、わしに何も言わずに消えおった……バカラグが……」
「が、巌樹さん……」
巌樹さんとラグナさん……巌樹さんの気持ちと、ラグナさんの気持ちが痛いほど分かる。
俺の中にある『龍の心』が、俺を伝い、古き友に会い嬉しがっているのと、最後の言葉を言えなかった事を後悔しているのが俺にひしひしと伝わってくる。
「お師匠! 悲観に暮れるのは後であります! 今は迅人殿に穢れた者達をどうにかしてもらった方がよいと思うであります!」
「……わしの弟子はどうしてこうも師匠に厳しいのであろうか……」
「お師匠は長い間、虚ろわざる者達からの攻撃に対し、しっかりと対処しておりましたが、今回だけは、お師匠には対処できないのであります!」
「それは穢れた者達のせい?」
「そうであります」
ラグナさんの記録と記憶を見るが、穢れた者達に関して情報はない。
「迅人よ……ここでもし、穢れた者達の事を知ったら、お主はきっと奴らが待っている場所には行こうとはしない……だから、わしの願いは無理して聞かなくともよい」
「お師匠っ⁈」
夜煌が声を荒げ、巌樹さんに怒鳴る。
「それってどういう意味……いや、俺がショックを受ける様な事なんですね」
「……」
「……」
俺の問いに対し、2人は何も答えないし、表情はとても暗い。
だが、たぶん、いや、俺にしか対処できないのが穢れた者達なのだろうって事は分かる。
夜煌を見ると、下を向き、今にも泣き出しそうな表情だ。
それと、同時に、巌樹さんからは俺に無理強いをさせようとはしない雰囲気が感じられる。
はぁ……この二人は似ている……ラグナさんに……
俺に穢れた者達の対処をさせたくない巌樹さんに、俺に穢れた者達を対処させたくはないが、しなければ自分の大切な人が着々と弱っていく姿を見るのを耐えられない者……
そして、ラグナさん……
「巌樹さん、夜煌……俺は、俺にできる事は全てやろうと決めたんです」
「ふえっ⁈」
「迅人よ……」
二人の表情はまだ曇っている。
穢れた者達がいったいどの様な者達なのか、俺には分からない。
けれども、俺には早い内に知っておかなければいけない気がする。
「行かせてください。これは俺にしかできない事なんでしょうから」
「グスッ……迅人殿……申し訳ないですあります。申し訳ないであります」
夜煌は今まで堪えていた気持ちが、涙として流れる。
俺はその涙の意味を知っているから、無視はできない。
「わ、吾輩が、迅人殿をお連れするであります!」
「あぁ、頼むよ」
俺は夜煌と一緒に現れた魔法陣へと足を踏み入れ、穢れた者達がいるフロアへと移動したのであった。
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