願い
「来たか……蒼炎を纏いし者よ」
「なっ⁈」
「驚かせてすまない。蒼炎を纏いし者よ」
「あ、あなたは?」
大きな岩の上で胡坐をかいている白く大きな猿が、俺に話しかけてきた。
うわ~、ラグナさんと同じぐらい大きいな。
「わしか? わしは古代白大猩々である。名を巌樹という」
「あ、初めまして、自分は市原迅人といいます」
うん?
今古代って言わなかったか?
いや、言ったな。
「迅人と言うのか……お主は我が配下たちから相当手応えがない者だと言われておるぞ」
「お、俺が?」
「そう、お主は世にも珍しい蒼い炎を纏い、素知らぬ顔で我が配下たちを倒していると聞いている」
「え、えぇ~……」
俺ってここのモンスターにそう思われてるんだ……
いや、たしかに蒼炎を纏って、ただ普通に歩き、モンスターを倒しているのは間違いではない……モンスター達からしたら、全然手応えを感じないつまらないハンターだと思われても仕方がないぞ俺……ここのダンジョンでの俺の評価は嫌~な奴確定じゃない――
「お師匠! そういう言い方をされたら迅人殿が気まずくなるであります!」
「むぅぅ……そういうつもりで言ったのではないのだが……」
「お師匠は少し棘のある言い方をするところがあるであります! そう言ったところを直さなければ、変な誤解を招くでありますぞ!」
「むぅぅ……そんな気はないのだが……迅人よ、気を悪くしたのなら許してくれんか?」
「あ、いや、俺は別に何とも……俺もそう言われたら楽をし過ぎたのかなぁって思う所もあったと思いますし」
「迅人殿は真にお優しいでありますな~」
「いや、俺は……」
俺が自己嫌悪している最中に横から声が飛ぶ。
横を向くと、俺をここまで連れてきてくれた黒い子猿が俺をフォローしてくれたのだ。
黒い子猿に言われ言い淀む巌樹さん。
おかげで助かった。
ぶっちゃけ、気まずかったんだわ……ほんと助かったよ~ほんっとありが、と……うん?
う~ん……自然とお互いに喋ってはいるけど、いきなり俺の頭の中に『?』が現れる。
「え、喋れるの?」
「はいでありますが?」
「はいでありますがって?」
「ああ、先程はダンジョン内であったため喋る事を控えていたのでありますよ」
「控えていたんだ……」
「はいであります」
その辺はしっかりとしているんだな。
まぁ、ダンジョン内でも稀に喋るモンスターもいるとは聞く。
喋らずあの様なジェスチャーを使い、俺をここまで連れて来たんだ。
この子はすごく頭の回転が良いのと、人を惹きつける力を持っている。
それと見た目がすごく可愛いいんだよな。
「申し遅れましたであります。吾輩は夜煌と言うであります。どうかよろしくであります」
「あ、これはご丁寧に。しかし、見た目とは裏腹に、しっかりしてますね夜煌さんは」
「いやいや、吾輩などまだまだでありますよ。それよりも、迅人殿、吾輩の事は夜煌とお呼びくださいでありますよ。それと、吾輩に対して敬語も不要であります」
「そう言ってくれるのなら、俺も迅人って呼んでくれて構わないし、敬語は無しで構わないよ」
「それは遠慮させていただくであります」
「え、なんで?」
「迅人殿は吾輩よりもと~っても強いお方に対し、吾輩みたいな若輩者が、その様な事をしたら父と母に怒られてしまうであります」
「あ、そうなんだ、ね……」
「で、ありますから、迅人殿は気兼ねなく吾輩に対し敬語はお使いにならなくて大丈夫でありますよ」
「わかった。そこまで言うのなら、そうさせてもらうよ」
「はいであります」
俺と夜煌はお互いに納得した上で、このようになりました。
「あ、あの~、わしの話を聞いてくれんかのぅ~?」
「あ、すいません⁈ あ! な、なんで俺をここにお呼びになったんですか?」
「その事で話をしようと思っていたのだが、夜煌と親しげに話しとるもんだから、中々話を切り出せずにおったのだ」
巌樹さんはそう言うと、寂しそうな素振りを見せる。
「すいませんでした巌樹さん」
「申し訳ありませんでしたお師匠!」
「ふ、まぁよい。 それよりも、迅人よ。お主をここに呼んだのはお願いがあっての事なのだ」
「お願い、ですか?」
「そう。最近、我がダンジョンによからぬ者が忍び込んでな」
「よからぬ、者ですか?」
「そう……そ奴らがわしのダンジョンに穢れた者達を放ちおってな」
「フィルス?」
「フィルスとは穢れた者達の事を言うのであります」
「穢れた者達?」
「人間の世界で言うとだな、わしのダンジョンにウィルスを放ちおったのだ」
「ウィルスをですか?」
「そのせいもあって、お師匠の体がウィルスに蝕まれてしまい、本来の力が発揮できないのであります」
夜煌がそう言うと、巌樹さんは手を俺に見せる。
巌樹さんの手は見るからに痛々しい感じに膿んでおり、普通の人間なら耐えられそうにない様な痛みのはずが、やはり、ラグナさんと同じ古代種と言うだけ、平然としている巌樹さんはすごいなと思った。
「このダンジョンは、わしの神聖力を使い作られたダンジョンなのだ」
「作られた⁈ えっ⁈ ダンジョンって作る事が可能なんですか?」
「天然の物もあるが、わしぐらいになると作る事は可能だ」
「強いて言うと、このダンジョンは、お師匠の体の一部でもあるのであります」
「体の一部?」
「お師匠の力を使い、このダンジョンは作られたのです。いわばお師匠の体の一部と言っても過言ではないであります」
「夜煌の言う通り、わしの体の一部に穢れた者というウィルスを放たれたわしは、先程も言うた通り、本来の力を出せぬ状態になっておる。人間に例えると、体にウィルスという異物が入れば風邪を引き、体に支障をきたすのと同じで、わしの体に穢れた者を入れ、わしの体を弱らせるのが魂胆なのだろうが……」
「誰がそんな事を?」
「奴らは昔からこういった事をして、わしらの力を手に入れようと企んでおるのだ」
「それってもしかして?」
「むむっ⁈ その反応を見ると、もしや迅人殿はそ奴らの事を存じておられるのでありますか?」
「虚ろわざる者……」
「やはりな……」
「えっ、ちょ、ちょっと⁈」
ドオオオオォォォォン
俺が虚ろわざる者の名を言うと、巌樹さんは立ち上がり、大きな岩から勢いよく飛び降りてきた。
そして巌樹さんは大きな顔を俺に近づけてくる。
「迅人よ……お主、やはりラグナから力を譲り受けたのだな」
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