落選
「おぉ……そうか……」
どうやら俺はハンターズ・ロアの選考会に落ちた。
これで、日本代表として出場はできなくなった。
「まぁ、これは仕方がないか……だって俺はFクラスだからな」
氷歌からのメールには、Fランクハンターである事と、実績、その辺がネックになり、上層部が信頼できないという声が出た事で、俺が出場した選考会からの日本代表者は無しという形で終わる事になったらしい。
「あの事件からすぐに結果が公表されるとは……しかも炎帝である夏乃子も選ばれないとなると、やはり俺が問題だったんだろうな……」
「いや、迅人よ! お前の戦いっぷりは素晴らしかったぞ」
「え、マスター⁈」
急に後ろから声をかけられ、ビクッとなる俺。
「上層部があまり良い顔をしなかったのだろうな」
「上層部がですか?」
「Fランクが炎帝を倒したのだ。日本という国では『帝』を持つ者は特別な存在だと聞く。その特別な存在がFランクである君に倒されたのだ。それは良い顔はせんだろうな」
「まぁ、そういうもんでしょうね」
「君の国はそういった差別的な所が強いと聞く。だが、おしいな……そうだ! 我が星に移住を考えてみてはどうだろうか?」
「あ、それは無理っぽいです」
「なぜだ? 考えてもみろ。こんなおいしい話はないぞ」
「これを見ていただけますか?」
「なんだ? ふむふむ……なっ⁈」
俺は携帯の画面をマスターに見せる。
そこに書かれていたメールの内容はこうだ。
『今回の件で、異世界の上層部が迅人を我が国に迎えるとか言いに来るはず。もし、他の世界からスカウトあった場合、その者の名前を直ちに報告する事! そいつは私が直々に消しに行くわ』
氷歌からのメールにはまだ続きがあったのだ。
どうやら俺は優良物件みたいで、日本は『帝』を持つ者を倒したことで、俺は腫物扱いらしく、そんな俺に異世界の上層部は俺に目を付け始めているらしい。
今のご時世、そう言った海外移住みたいに、異世界に移住をする事は別に珍しくはなく、こういった感じの異世界スカウトは日常茶飯事である。
しかし、まさかこの俺がそういったスカウトを受けるとは……
「このメールの相手は氷帝である氷歌君からか……そうか、君は氷歌君の推薦で選考会に出場したんだったな……私は先程の言葉と、今のメールは見なかった事にするとしよう」
「そうした方が賢明かと思います」
お互いに顔を青ざめ、俺とマスターはみんなの元に戻る。
「お、もういいのか?」
「もう大丈夫だ。抜けてしまって申し訳ない」
「気にする事はない。私たちは迅人が凄腕のハンターである事がわかったのだからな」
「そ~そ~! Fランクだというのに日本の炎帝を倒し、さらには鋼糸をこんなに集めてきたんだもん!」
「あぁ、もうこれは疑い様もない。迅人の実力だという事が証明されたのだ」
「しっかし、炎帝を倒したハンターが私たちの目の前にいるんだもんね~」
「そう……あまり実感が湧かないかなぁ……」
この数分で5人の評価がガラリと変わる。
マスターの秘書であるティファさんが俺の情報を言った事でこうも評価が変わるとは……
「迅人はハンターズ・ロアの選考会で炎帝を倒したのであろう。これは確実に日本の代表に選ばれたであろうな」
焔が興奮しながら俺に詰め寄る。
「そうだ! これも何かの縁だ! ハンターズ・ロアに出場する迅人を応援しに行こうではないか!」
「いいねいいね~! それ大賛成だよ~!」
おいおい……何か言い辛い雰囲気になってきたぞ。
みんなしていきなり盛り上がり始めやがって……
「おい、何か言い辛い雰囲気になってきたな……これ以上盛り上がらない内に早く言った方がいいぞ」
そう俺にアドバイスをするマスターのロックさん。
俺もそれが良いと思い、すぐに盛り上がっている場にグッと割り込む。
「あ、あのさ、盛り上がっているところ悪いんだけどさ――」
「どうしたんですか迅人さん?」
「うっ⁈」
フィールのウルッとした瞳を見てしまい、一瞬だが怖気づきそうになる。
「じ、実は、今その選考会の結果が来たとこだったんだ……」
「そうだったのか⁈」
「それでそれで!」
「炎帝を倒したんですから、確実に代表になれたんですよね?」
そんなキラキラした目で俺を見るな……それとみんなしてグイグイと押してくるな。
俺は後ろにいるロックさんに向け視線を送り、助けを求める。
仕方がないと言わんばかりにロックさんはこちらに歩みを進める。
「ほら、君たち、迅人君がまだ話してる途中であろう。少し落ち着きたまえ」
「あ、迅人すまない! つい興奮してしまった」
「ごめんね~はやと~」
ロックさんが間に入ってくれた事で、やっと話ができるようになった。
「いや、気にするな。それと、俺は今回選ばれなかった」
「「「「「「⁈」」」」」」
俺がそう言うと、みんな、さっきまで賑やかだったのが、一瞬で静かになる。
え、ティファさんまで何でショックを受けてるんだ?
「す、すまない……そうとは知らず、私達だけで盛り上がってしまって」
「ごめんよ~はやとぉ~」
みんな申し訳なさそうに謝ってくる。
「いや、気にすることはないさ。俺がもっと早く言っていればこうはならなかったわけだし」
「いや、そうは言うが――」
「そうだよ~! なんで炎帝に勝ったのに代表に選ばれなかったんだよ~!」
「クララ、そう言った込み入った話はよくある話だ」
「そうだよ~クララ。大人の汚~い事情が絡みに絡み合ってこんがらがっちゃてるんだわ」
「でもでもでも……」
クララは俺以上に納得がいかないと言わんばかりの表情を見せる。
だがそんなクララのおかげか、俺の気持ちはだいぶ楽になった。
「みんなほんと気を遣わせて悪い。けど、俺はみんなが思うより、そんなに凹んではいないから」
「そうだぞ。迅人君はまだ若い! これからもっと実力をつけ、上が無視できない程の結果をぶつけてやるのだ!」
「そうですね。そのつもりで頑張ります」
ロックさんは白い歯を見せ、俺を励ましてくれる。
その後、みんなもそうだそうだと、俺を応援してくれた。
だが、1人だけ、暗い表情を見せるティファさん。
結局、なぜそこまで表情が暗いのか分からず、その日は過ぎて行った。
次の日、俺は早朝からダンジョンに潜っていた。
ポータルを使い、俺は4階に移動し、また蒼炎を纏いながら進む。
すんなり進んで行き、俺は5階のボス部屋の前まで来ていた。
ボス部屋の扉を開くと40匹のスレッドワームが待ち受けていた。
だが、俺の纏っている蒼炎を見るや否や、すぐには襲ってこず、むしろ後退っていた様にも見えた。
『キュウキュウ⁈』
『キュキュウ!』
何やら仲間同士で喋りだし始めたぞ……
『えっ?こいつ最初から炎を纏ってるやん』
『ヤメヤメ! 最初から炎を纏っている奴と争ったところで時間の無駄無駄!』
そんな感じに聞こえなくもない様な……
「うん? どうしたんだ?」
スレッドワームが襲ってくる訳でもなく、なぜか俺が通れる様に道を作りだし始めたぞ⁈
こ、こんな事ってあるのか?
い、いや、これはあれか? 俺を油断させるための罠か何かか?
俺が色々な事を考えていると、スレッドワームとは違う黒い子猿がどこからか現れ、俺の前まで来て止まる。
『キュイキュイ』
「うん? 俺に話しかけているのか?」
『キュイキュキャ』
「おいおい⁈ マジかよ……」
前足を使い、俺の前でパチパチと拍手をし始めたのだ。
『キュイキュイ』
「えっ? 付いて来いって?」
そう言うとまたパチパチと拍手をする黒い子猿。
俺の言っている事が合っていると分かると、向きを変え進んで行く。
『キューイキューイ』
黒い子猿が何か唱えだすと、地面に魔法陣が現れる。
『キュウ、キューイ』
「この魔法陣に乗れって言っているのか?」
そう言うと黒い子猿はまた拍手をする。
い、いや、どう見たって……普通に考えたら罠だろう……魔法陣に乗ったら変なとこに飛ばされて滅茶苦茶強いモンスターの所に連れて行かれるってパターンだろう!
『キュオキュイキュキャキャッ!!』
「おいおいっ⁈」
俺が疑っているのを察知したのか、黒い子猿は体を器用に使い土下座し始めたのだ。
ど、どこで土下座なんかを覚えたんだ⁈
つか、ここまで必死になって訴えかけてくる姿を見たら信じてやらなければと、俺の良心が訴えてくる。
「分かったよ……行くから」
『キュキャキャ⁈』
黒い子猿は本当にと言っているかの様な反応を見せ嬉しそうに小躍りしだす。
俺はスレッドワームの群れが作った道を進んで行く。
魔法陣の前に行くと、黒い子猿は付いて来いと言わんばかりに、前足を動かしている。
俺は意を決して魔法陣に足を踏み入れる。
黒い子猿は俺が魔法陣に入ったことを確認すると、スレッドワームの群れに向き直る。
『キュキャキャ!』
『『『キュ―――!!』』』
黒い子猿が何かを言うと、スレッドワームの群れ達が一斉に鳴き出す。
それと同時に魔法陣が輝きだすと、ダンジョンに入った時の様に視界がグニャっとなる。
すると、先ほどまでボス部屋にいたのだが、また違う場所に移動していた。
先程とは違い、そこは青い空、白い雲、そして綺麗な森が生い茂っていた。
綺麗な場所だなと思いながらも、警戒していると、黒い子猿は俺の足の裾を引っ張る。
『キャキャ』
「付いて来いって?」
黒い子猿は頷き、歩を進める。
俺はその後を付いて行く事にし、警戒しながら歩を進めていく。
歩いて30秒ほどだろうか?
目の前に大きな大きな岩が聳え立っていた。
その岩はとても滑らかそうで綺麗だ。
『キャキャ』
黒い子猿は岩の前で立ち止まり、上を見上げる。
俺は黒い子猿を見ていると、先程まで明るかったのが、急に影が辺りを覆い尽くす。
様子がおかしい事に気付き、黒い子猿が上を見た様に、俺も上を見上げる。
「来たか……蒼炎を纏いし者よ」
「なっ⁈」
「驚かせてすまない。蒼炎を纏いし者よ」
見上げた先には、岩の上でこちらを見下ろしていた白い大猿がいたのであった。
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