億
頭に赤い紅葉を作っているマスター。
その横でティファと呼ばれている女性は俺に謝っていた。
「申し訳ございませんでした。ついマスターとやり合っているのかと思い、両成敗という形で殴ってしまいました」
「あ、お気になさらず。元はと言えば俺が些細な嘘から始まったんで……俺もすいませんでした」
「そうだぞティファ君! こいつから先に……」
「マスター……」
「はい、黙ります」
怖っ⁈
ドスの効いた声でマスターを黙らせた。
この人はあれだ、氷歌と同じ匂いがするぞ。
「申し遅れました。私はマスターの秘書を務めさせていただいる、ティファと申します」
「あ、自分は迅人――」
「市原 迅人様ですね。お噂はかねがね伺っております」
「え、俺の事を知っているんですか?」
「はい。先日行われましたハンターズ・ロア、日本代表を決める最終選考会で、あの炎帝にお勝ちになられた事は存じ上げております」
「何? その話は本当か、ティファ君」
「はい。そんな事も知らずに喧嘩をおっぱじめようとなさっていたんですか、このボケマスターは?」
「ボ、ボケ⁈ その言い方は酷いではないかティファ君⁈」
「話が逸れましたが、これで迅人様が実力と運で、スレッドワームの鋼糸を手に入れた事が証明されましたね」
「あ、あぁ、そういう事なら――」
「では決まった事ですので、迅人様、こちらが我々ギルドが提示させていただきます買取金額です。税金は差し引きした額となります。ご納得いただければサインをお願いいたします」
「あ、わかりました」
俺はティファさんから書類を受け取り、金額を確認する。
え~と……いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、ひゃくま……
「う、嘘だろ⁈」
ゼロの数が9個だと⁈
「じゅ、十億……」
「す、すごいじゃないか⁈」
「ふぇ~すごい金額だね~」
「見た事が無いゼロの数……」
「お、おめでとうございます、迅人さん!」
「え、いや、俺は……」
俺が驚いていると横から話しかけてくる面々。
俺はただ単に炎を纏っていただけなんだけど……
しかも、自動で収納袋に入るように魔法をかけているから、なんの手間もかかっていないんだけど……
「しかし、これだけの鋼糸を集めるとは、どれだけの時間と運を使ったんだ?」
「あ、いや、俺はただ――」
「こちらの金額にご納得いただけませんか?」
「あ、いや、納得です! サインします!」
俺はすぐさま十億と記載された書類にサインする。
「確かにサインを頂戴いたしました。それでは今すぐ迅人様の口座にお振込みいたしますので、少々お待ちください」
「あ、は――」
「振り込みが完了いたしました」
「はやっ⁈ 早くないですか⁈」
「我が協会は早さがモットーですので」
「ですが、金額が金額な――」
「うちをその辺のケチ臭い協会共と一緒にしてもらっては困るな。ハンターが命をかけて集めてきたんだ! こちらもハンター達に応えんといかん! そう言った労力は一切惜しま――」
「ないのが我が協会の誇れる所でもあります。ですよね、マスター?」
「あ、あ、う、うん、そういうことだ」
マスターが全てを言い切る前にティファさんが全てを言い切ってしまい、少し寂しそうな表情が見えるマスター……
その姿を見て、若干可哀そうに思えてきた。
ブーブーブー!
うん?
メールか?
この響き方は氷歌からだ。
「すいません、無視をすると怖い人からメールが来たので、少し外してもよろしいでしょうか?」
「怖い人? 初めて怖い人からのメールという言葉を聞い……いや、行くがいい」
「あ、ありがとうございます」
横にいるティファさんが鋭い眼差しを向けた瞬間、言いかけた言葉を消したマスター……
すいません……実際、本当に怖い人なんです。
俺はフロアの端でメールを確認する。
案の定氷歌からのメールであった。
「え⁈ ……そう……か……」
氷歌からのメールの内容はこうだ。
『ハンターズ・ロア 日本代表 最終選考なんだけど、話し合いの結界、残念ながら迅人、あなた選ばれなかったわ』
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