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マスター

な、なんだあの人の多さは⁈


うん?

受付嬢がこちらを指さしているな?

うわ⁈

よく見ると坊主な上に滅茶苦茶厳つく、王林よりもデカい男性と話をして、あ、こっちを見たぞ⁈


俺は咄嗟に視線を逸らす。

ああいった人とは極力目を合わせてはいけないんだ。

なんでかって?

本能が訴えかけてくるからだよ。


「君か? スレッドワームの鋼糸を大量に持ってきたという人物は?」


な、なんだと⁈

気付かなかった!

この巨体で音もなく俺のすぐ横に現れたのだ!

こいつぁ~目をつけられてはいけないと俺の中の本能がさらに強く鳴り響く。


「ち、ちがいます。そちらのパーティーの方々が持ってきました」

「ううむ……そうなのか? リオ君の話だと男性だと言っていたのだが? そうだ! なぜ今さっき目を逸らした?」

「えっ? き、気のせいではないでしょうか? ははは」

「ふむ……そうだったか……しかし、あの目の逸らしようはヤバい物でも見たかの様な逸らし方だったぞ」

「ヤ、ヤバい物はあなた、いや、気のせいだと思うな~」

「そうなのだろうか……」


危うく本音が出るところだった。

だが、なんとかごまかせそうだ。

俺が密に喜んでいると、横から小さな影が現れる。


「ちがうよ~! あれ全部迅人が集めた鋼糸だよ~」


クララ―――⁈


俺は王林たちの方を見たら、全員ほっそ~い目で俺を見ていた。


「見損なったぞ迅人……」

「あぁ……まさか厄介事になると思い、咄嗟に私たちに押し付けるとは……」

「私初めて見ました……厄介事を押し付ける様な人……」

「は、迅人さん⁈ 迅人さんは――」

「な、何でしょうか?」


王林、焔、津雲に言われ、自分でも何であんな風に言ってしまったのだろうかと考えていた所、フィールだけが俺をフォローしようとしてくれ――


「や、やっぱ無理です~! 何とかフォローしようといましたが言葉が見つかりません」

「あ、すいません……気を使わせてしまい」


俺は一人一人に頭を下げて謝りました。



「それで、君が鋼糸を持ってきた迅人君なんだな?」

「はい、そうです」


こちらの方誰なの?

確かに嘘をついたけどさ、めっちゃ顔が近いんですけど……


「あ、あの顔が近い、近いな~なんて」

「あ、あぁ、すまない。 まさか初対面でいきなり嘘を付かれたもんでな。その顔をよ~く覚えておこうと思ったのだ」

「申し訳ございませんでした」


俺はこちらの厳つい男性に謝る。

みんなさ、そんな目で俺を見ないでくれないか?

俺めっちゃ反省してるんだぞ。


「マスター……マスターがいきなり話しかけたらみなさん怖がるに決まっているじゃないですか~」

「こ、これでもだいぶ優しく接したつもりだったんだが、すまなかったね」

「いいえ、とんでもございませ……マスターと今仰いましたか?」

「あぁ、すまない。自己紹介がまだだったね。私はここの協会でマスターを務めさせてもらっているロックだ」


マスターがそう言うと、笑顔でバナナの1房程もある手を俺の前に出してきた。

あ、あぁ、これは握手をしろってことか?

デカすぎて叩かれるのかと一瞬思っちまった。

しっかし……デケェ手だ。

俺は自分の手を見てからマスターと握手をする。


ぐにゅ


ぬおおおおおお⁈


俺は声にも顔にも出さず、心の中で痛みを必死に堪えていた。

この坊主、気さくな笑顔で俺を油断させやがった!

さっきの仕返しって事か⁈

その図体の割に器は小っさいみたいだな!

笑顔を崩さず、そのバナナの様なデッカイ手で俺の手を粉砕する気か⁈


クソッ!

段々とその笑顔が鬱陶しくなってきたぞ!

俺も負けじと営業スマイルを見せつけ、手に力を籠める。


ギュゥゥゥ


「ふむ……力強い握手だ。これだけ力があれば十分だな」

「な、何が、で、ですか⁈」

「君がちゃんと不正をせず鋼糸を集めるに値する力を持っているという事だ」

「そ、それは、どういう意味、でしょう、か?」

「あぁ、すまない。 説明をするから、もう手を離してもらっても構わんよ」

「いえ、いえ、マスターから先にお離しになって構いませんよ」

「いや、いや、君こそ遠慮せず手を離して構わんよ」

「いえいえ、マスターからどうぞ」

「君しつこいな⁈ 先に離していいと言っているではないか⁈」


ふざけんなよっ!

最初にけしかけてきたのはそっちだろ!

ましてやいきなり初対面の人を試しやがって!

絶対に俺から手を離してやるか――


「いい加減にしてください!」


ゴンッ⁈


「「イタッ⁈」」


いきなり目の前に火花が散る程の衝撃を食らう。

そして、お互いに握手していた手を離す。


俺は頭を擦りながら、横目で上を向くと、黒髪の綺麗な女性が立っていた。


「い、痛いではないかティファ君⁈」

「当たり前じゃないですか⁈ 痛い様に叩いたんですから!」

「し、しかしだな、私は何も悪い事は――」

「してたじゃないですか! 人を試すのに力づくで握手を!」

「あ、あれは友好を深めるための握手であって――」

「彼、だいぶ痛いのを我慢してましたけど」

「うっ⁈」


図星だ……ぶっちゃけ痛かった……お互いに手を離してから俺は右手を後ろに隠していた……だって、赤くなってるんだもん。

マスターは俺の方を見ると笑みを見せる。


「ふはは! どうやら私の勝ち――」


バシンッ


「あたああっ⁈ な、なんでまた叩くのかね⁈」

「反省の色が見えないからです」

「しかし――」

「もう一発欲しいですか?」

「すいませんでした。 反省しております」

「私にではなく、彼に謝って下さい」


え、怖くて綺麗な女性だなと思ったが、ちゃんとわかってらっしゃる!

さぁ、俺に謝るがいい。


「な、なんだその肉ったらしい笑みは⁈」

「えっ? なんですか?」


俺はすぐに表情を変える。


「い、今の顔を見ていなかったのか⁈」

「図体がデカいマスターで見えませんよ。さぁ、ちゃんと謝ってください」

「くっ……すまな――あっ! 見てみろこのふてぶてしい顔を⁈」


俺はまたすぐに表情を変える。

いいぞ!

もっと怒られてしまえ!


「だから、マスターが邪魔で見えませんて! いいから謝ってください!」

「くぅ……すまなかった」

「いえいえ、いいんですよ~。 気にしてませんから」


マスターは悔しそうに頭を下げ謝る。

ぶっ⁈

マスターの頭には赤い紅葉マークができていた。

俺は目に皺を寄せながら、必死に笑いを堪える。

がはは!

試合では負けたが、勝負では勝った。

ふふふ、気分が幾分良くなったぞ!


はあぁあ!

楽しかっ……うん?

待てよ……なぜか腑に落ちない事が頭をよぎる。




「あれ? なんで俺も叩かれたんだ?」


お読みいただきありがとうございました。


続きが気になると思ってくださっていただけたらすごく嬉しいです。

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