糸
「迅人はスレッドワームの糸を集めるクエストをしていたのか?」
一通り食事が済むと、今度は質問タイムだ。
「あぁ、そうだよ」
「一人でか?」
「あぁ……俺って友達少ないからさ」
俺が自虐めいたことを言うと、みんな『えっ?』って顔になる。
「うそうそ、冗談だって! 今は一人で色んな事を経験したいと思ってて一人で活動してるんだよ」
またもや『えっ?』って顔になる皆さま……自分で言っていても確かに説得力がないわな……最初から外した俺が悪いんだが……それに俺には友達が少ないしな……
『は、ははは……ま、まぁ、迅人の冗談みたいだから、みんなそんな顔をするんじゃない。わかったね?』
王林がそう言うと、『はーい』と返事をするが、俺を見る目がちょっとかわいそうな奴みたいな目で俺を見ないでいただけないだろうか……
「それで、迅人は初のダンジョンみたいだが、1人では1階から2階までがいっぱいいっぱいだったのではないか?」
「いや、俺は4階までクリアして戻ってきたんだ」
「ま、またまた~! たしかにダンジョンは1人でも入場は可能だが、初めてでそこまで行くのは至難の業だぞ。それに、スレッドワームは雑魚の部類だが、階を降りる毎に群れで現れる。1人での対応は難しくなるのだ」
王林が疑いの目で俺を見る。
「それと、失礼でなければ迅人のクラスを聞いてもいいか?」
「あぁ、俺はFクラスだ」
「は?」
「マジか?」
「Fクラスなの迅人は?」
「クララちゃん、そんな大きな声で言っちゃ失礼でしょ」
みなさん、どうやら俺がFクラスだと知り、俺の話が嘘だと思いみたいな感じになっちゃったなぁ……
「は、迅人、さすがにFクラスで、ましてや1人で4階まで2時間で行ったというのはさすがに話を盛り過ぎではなかろうか?」
「いやいや、そんな嘘ついて俺になんのメリットがあるんだよ。それにこれを見てくれって」
俺はそう言うと、収納袋からポータルを取り出し、みんなに見せる。
「あ、ほんとだ!」
「た、たしかに、『4』って数字がありますね」
「1人で4階まで行く事ってできるのだな……」
「しかもFランクで……」
みんなポータル見ると、ある程度納得してくれたみたいだが、王林だけはまだ表情が暗い。
「ほ、本当に1人で4階まで行ったのかい?」
「あぁ、俺1人でだ」
「階の最終地点に行けば、ポータルに記録できる……もしかしてモンスターを避けて通ったって事は? 私たちでさへ全部を倒しながら進むことはできなかったのだぞ」
「あの量のスレッドワームを避けるのはなかなか骨が折れる作業だぞ。まぁ疑うのも分かる……なら、これから換金をしに行くから一緒に来るか?」
俺がそう言うと、みなさんアイコンタクトを取り、全員が頷く。
ホントに一緒に来るみたいだ。
俺達はレストランを出て、協会へと向かう。
王林たちも今日のクエストの成果を出しに協会へ行くとの事で、ついでに俺の話が本当かを確認するんだとの事だ。
まさかここまで疑われるとは思わなんだ。
まぁ、Fランクってのがネックになっているんだろうけど、あと俺の見た目の問題もあるんだろうな……俺はぶっちゃけ弱く見えるしな。
でも選考会では結果を残した事で、ランクは上がるみたいだが、ホーロゥの奴らの件もあって、すぐには反映されないとも言っていた。
「当面はこうやって疑われる生活が続くんだろうな」
「うん? 迅人ぉ、何か言ったぁ?」
俺の横からひょこっと現れたクララが俺を不思議そうな目で見ている。
「あ、いや、何でもないよ。それよりもクララが拳闘士だって聞いた時はビックリしたよ」
「えっ? そうかな?」
「あぁ……めちゃくちゃ素早いからさ」
「クララは私たちのパーティーの中で一番腕っぷしは強いんだ」
「なるほど……見た目で判断すると痛い目に遭うとはクララみたいな人がいうんだな」
「えへへ~! よくみんなからも言われるんだ~! けど、私の事は別に悪く言われても気にしないよ」
「い、いや、別にクララを悪く言っている訳じゃないんだけどな」
「わかってるよ~。迅人はそういう風な事を言ってるんじゃないんだって」
「分かってくれてるのならいいんだけどさ、俺も似た様な事をよく言われるから」
俺がそう言うと、クララ以外の皆さまは顔を背ける。
「なら似た者同士だね」
「あぁ、そうだな」
「さ、さぁ、協会に着いたぞ」
そんな他愛無い話をしていると、あっという間に協会に到着する。
協会に入ると、朝とは違い、人が少なく見える。
「いらっしゃいませ。今日はどういったご用件でしょうか?」
元気そうな受付嬢が要件を聞いてきた。
「あぁ、今日は換金をしに来た」
「かしこまりました。 それでは鑑定部屋へご案内いたしますので、私の後を付いてきてもらえますか?」
俺と王林たちは受付嬢の後を付いて行き、部屋へと案内される。
「それでは換金される物をこちらにお出しいただけますでしょうか?」
「どちらから先に鑑定してもらうか?」
「俺はあとで構わないよ」
「いいのか? それならお言葉に甘えさせてもらおう」
王林は収納袋からデザートウルフを3頭と、スレッドワームの糸を出す。
「これを頼む」
「かしこまりました。お時間を少々いただきますので、あちらでお座りになってお待ちください」
「よろしくな」
俺達は椅子に腰かける。
「デザートウルフって事は、王林たちは10階辺りを探索中って事か?」
「あぁ、今日はクララが見つけたクエストに、デザートウルフの牙が不足しているとあってな」
「なるほど……実際は何階まで行っているんだ?」
「私たちは13階まで進んでいて、少し足踏みをしているところだ」
「13階かぁ……もう少しで15階……15階のボスって確か――」
「あぁ、デザートウルフの亜種である、レッドデザートウルフ……3体だ」
「見た事はあるのか?」
「見たには見たのだが……たまたま15階を突破したパーティーが換金しに来ていてな、そこで少しだけ見させてもらった。 まぁ、今はネットを使えば出ては来るが、ネットと現物は違うな……14階からデッドデザートウルフが1匹で現れるのだが、デザートウルフとは大きく変わってくる。大きい上に、素早く、そして口から火を吐くのだ」
「それが一気に3体に増えるんだもんな……」
「私たちがここに来て3ヶ月が経つ……みんなも力を蓄えてきたんでな。そろそろ向かおうかとも考えている」
「王林は慎重だからさ~」
「そうそう! 私たちはいつでも行けるってのにな」
「私も同感です」
「あ、あの、私はみんなが行くと言えば、ぜ、全力でサポートさせていただきます!」
「お、お前達……私はお前達の事を思い――」
王林と4人は言い合いを始めた。
まぁ、王林の様に慎重になるぐらいが良いと思う。
俺達の仕事は死がいつも付き纏う。
ひょんな事でいつ死ぬか分からんからな。
このパーティーを見ていると、ちゃんとバランスが取れている様に見える。
15階を突破することは必ずできるだろう。
「お待たせ致しました。鑑定が終わりましたので、こちらをご確認の上、ご納得いただけましたらサインをお願いいたします」
「わかった。みんな確認を頼む」
みんな王林の元に集まり鑑定結果を確認する。
さっきまであんなに言い合っていたのに、いざとなればこうやって話し合いができるんだ。
本当にいいパーティーだ。
俺がそんな事を考えていると、急に始の顔が思い浮かぶ。
あいつは元気にしてるだろうか?
ただ、始とは会えない。
あいつはあいつで頑張っているからだ。
邪魔はしたくない。
「お待たせして申し訳ございませんでした」
始の事を考えていたら、受付嬢が俺に話しかけてきた。
「次はお客様の番となります」
「あ、わかりました。 あれ? 王林たちは済んだのか?」
「あぁ。私たちはこの内容でサインをした」
「いつの間に……そうか」
「ですので、次はお客様の番となります。お客様の換金される品をお見せいただけますでしょうか?」
「あぁ、これを頼む」
俺は収納袋からスレッドワームの糸を全部取り出す。
ドンッ
「きゃあっ⁈」
「なっ⁈」
「ほえっ⁈」
「んなっ⁈」
「ひぃっ⁈」
「ふぇっ⁈」
俺は収納袋からスレッドワームの糸を全て取り出す。
「お、お客様……こ、これはスレッドワームの糸を……こんなに⁈」
「は、迅人の言っていた事は、ほ、本当だったのだな」
「ヤ、ヤバいよ……私こんな糸の量始めて見たにょ」
「クララ、語尾がにょって久々に聞いたぞ……」
「それだけテンパっていることでしょ」
「はわわ! え、でもこれよく見てください⁈」
フィールがスレッドワームの糸を指さす。
受付嬢もそれに気付き、スレッドワームの糸を凝視する。
俺には何がなんだかサッパリである。
「こ、これは、これはまさか鋼糸⁈」
「な、なんだと⁈ それは本当か⁈」
「え、なになに?」
俺とみんなの反応が違い過ぎて、俺だけが取り残されてるんですが?
「し、しかも、全てが鋼糸だなんて……」
「あ、あの……何かまずかったのかな? もしかして買取は不可能――」
「なわけないじゃないですか~! ぜ、全部、全部買い取らせていただきます!」
「あっ、そ、そうですか⁈ よ、よろしくお願いします」
受付嬢のすごい気迫に当てられ、俺はたじろいでしまう。
「今すぐ鑑定させていただきますので、お座りになってお待ちください!」
「は、はい」
受付嬢は凄い速さで消えていった。
ただのスレッドワームの糸のはずだが、何をそんなに驚いているんだ……?
「な、なぁ、受付嬢は何をそんなに驚いているんだ? たかがスレッドワームの糸だろ? まぁ、量が多いってのもあると思うけどさ」
「いや、迅人……受付嬢が興奮するのも仕方がない」
「なんで?」
「迅人は気付いていないのか?」
「だから何が?」
「もしかしてこれすべてスレッドワームの糸だと思っているのか?」
「そうじゃないのか?」
「はぁ……これを見てくれ」
王林はそう言うと、白い糸を俺に見せる。
「糸……だな?」
「あぁ……これがスレッドワームの糸だ。そして、もう一度迅人が出したスレッドワームの糸を見てくれ」
「あ、あぁ」
俺は王林に言われた通り見比べてみる。
「……うん? よく見ると光沢というか、艶がある?」
「そうだ。私が出したこの糸もスレッドワームの糸なのだが、迅人のはスレッドワームの糸なのだが質が違う」
「質?」
俺がそう言うと、王林は鑑定をしている場所まで行き、鑑定士と話をして、またすぐに戻って来る。
「これが私達のスレッドワームの糸で、こちらが迅人のスレッドワームの糸だ。これを糸と糸で絡み合わせ、引っ張ると――」
プツンッ
「この様にすぐに切れてしまう」
「そりゃ引っ張ればそうなるな」
「いや、私のスレッドワームの糸はある程度強度がある。なら同じ強度の物ならすぐには切れないだろう」
「あぁ、そうだな」
「ちなみに私は全然力を入れてはいない」
「いやいや、同じ強度同士なら力を入れないと切れるわけないだろう」
「そう、それなのだ! 迅人のスレッドワームの糸は私達と同じスレッドワームから得た物でも、そのスレッドワームからドロップした糸は私達とは違うのだ!」
王林は切れていないスレッドワームの糸を俺に見せる。
「迅人の出したスレッドワームの糸は鋼糸と言ってな、中々出回らない品物なんだ」
「鋼糸? 出回らない品物? いやいや、そんな品物があんなにあったら――」
「だから受付嬢もそうだが、私達も驚いたのだ」
「……マジか?」
「大マジだ」
真剣な表情で大マジと言う王林を横目に、俺は鑑定しているスレッドワームの糸である鋼糸を見つめる。
受付嬢もそうだが、鑑定士の様子を見ていると、すごくテンションが上がっている。
「ちなみに相場って分かる?」
「以前5m程の長さで売買された事があったが、その時は確か百万――」
「ひゃ、百万⁈ たったの5mで、百万だと⁈」
俺はもう一度、鑑定されている方を見る。
あれだけの量だとどれくらいになるんだ?
つか、あんなに出さなければよかった……
「えっ? さっきよりも人が増えてね?」
鑑定部屋には先程まで2人しかいなかったのに、多くの人達が鋼糸を見て興奮していた。
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