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ダンジョンと愉快な仲間たち

歩いているとすぐそこに人が列を成している場所が現れる。


そこには大きなモンスターの像が存在していた。

大きく開いた口の中にどんどん人が入っていく。


ここデューンにはダンジョンがある。


世界によっては違いがある。


まず、俺が住んでいる地球には今のところ、異世界に進むゲートは存在するが、ダンジョンはない。

ちなみに俺が消息を絶ったゲートはモンスターだけが存在する世界で、知性がある種族がいない。

そして、今俺がいる場所は知性ある種族、いわべ先住民がいる世界で、こういった世界はダンジョンに入る際にはお金を支払う事になっている。


まぁ、あれだ。知性無き世界は入ってすぐにダンジョンになり、取り仕切る先住民がいないため無料で入れて、知性ある種族がいる世界にはダンジョンがあり、お金を支払って入る事になるのだ。

これも商売だわな。


じゃぁ、お金を支払わずに探索した方がいいんじゃないのかって?

まぁそうかもしれないが、そういった世界は未開の場所が多く存在し情報も少ない。

俺が消息を絶った場所も先住民は存在しないため、お金は支払わなくて済む。

そして、ある程度情報が入る事は入るが、あんな灼熱の世界を行き来したがる様な奴はいないだろう。

いたとしても、金持ちが対策としてアーティファクトを使いその世界に行けるようにはなるが、その世界の情報が少なければ命を落とす確率は大幅に上がるのだ。

まぁ、あれだ……未開の地はそれだけリスクとお金がかかるって事さ。


その代わり、先住民がいて、その地にあるダンジョンはその逆になる。

俺が列に並んでいると、地図を購入する場所が存在する。

そう、先住民がいるとこういった利点が存在する。

そして、どういったモンスターが現れるのかも分かる。


だがどの世界も同じで、『死んでも責任を負えない』というような看板がある。


死ぬリスクをある程度軽減できるのであれば信用できる情報があった方がいいだろう。


なら、俺はあの灼熱の世界に行っていたんだって?

俺の力は『順応』という力だ。

その力さえあれば灼熱の世界だろうと、極寒の世界だろうと快適に探索はできる。

けれど、ラグナさんの力を貰う前の俺は一人ではどうにもならなかった。

なら、今なら大丈夫なんじゃないかって?

ま、まぁ、そうなんだけどさ……今はまだあそこに戻らなくてもいいかなぁって……


俺は自分に自信が無い。

無いのなら無いなりに、ある程度自分に有利なところで頑張りたいじゃないですか……


そこで考えたのが、デューンである。


暑く、そして寒い。


俺はマグマの熱にも耐えられる体を持っている。だから暑さは大丈夫!

そして寒さ!

寒さは俺の『順応』の力でなんとかなる。

そしてダンジョンの情報もある。

それと、ここのモンスターの大半は火属性である。

これだけで俺の生存率はグンッと上がる!


何度も言うが俺は自分に自信はない!




列に並ぶこと20分。

ようやっと俺の番までやってきた。


ふとダンジョンのモチーフになっているモンスターが気になる。

これは何のモンスターだ? 猿か?

この世界の守り神みたいなもんか?

ダメだ……今からダンジョンに入るのにそれが気になってしょうがない。


「次の方ど~ぞ~」

「あっ、はい!」


くそっ、スタッフの方に呼ばれてしまった。


「身分証を提示してくれ」

「わかりました」


俺は自分の身分証を見せる。


「ふむ……日本人か……円だと1人2000円になるがいいか?」

「あ、はい。大丈夫です。支払いは電子マネーでもできますか?」

「あぁ、可能だ。ここに画面を乗せてくれ」


ピロリンッ


「うむ、支払いが完了した。通っていいぞ」

「わかりまし。ありがとうございます」


許可が下りたので先へ進んで行くと、視界がグニャッとなる。

そして、視界がグニャッとなったと思ったら別の場所へと移動をしていた。

先程の場所とは打って変わり、洞窟に移動したみたいだ。


「ここからがスタートみたいだな」


周りには人はいない。

どうやら外とここでは時間の流れが違うみたいで、最初から鉢合わせが起きない仕様になっていると聞いた。

まぁ、ハンター同士のいざこざが起きない様に考えて作られたのだろう。

えっ? 誰が作ったのかだって? 俺もそこんとこ知りたいです。


「今は先へ進むとしますか」


先へと進んで行くと1m程のスレッドワームが現れる。

スレッドワームは動きが遅くすぐに倒せるモンスターである。

しかし、階を重ねていくと群れで襲い掛かって来る。

そして、こいつが吐く糸が結構な強度を持っているため、糸に絡まれると痛い目に合う。

そして、今回のクエストなのだが、スレッドワームが出す糸の採取である。

採取と言っても、倒せば一定の確率でドロップするのを取るだけなんだけどね。

糸の採取と、ダンジョンがどんなモノかの検証の2つが今回俺に課したミッションである。


俺は蒼炎を纏い、スレッドワームを気にせず進んで行く。


『キュー――⁈』


スレッドワームは俺の蒼炎に焼かれて絶命する。


「まぁ、当面の間はこれでいいだろう」


ぶっちゃけスレッドワームの糸は俺には効かないしね。








俺は蒼炎を纏いながら進んで行き、何事もなく4階まで進んで行った。


「5階からボス部屋があると書いてあるな」


ここのボスはスレッドワームが最初から50匹待ち受けている。

ここに来るまで最高が10匹で群れていたので、まぁ5倍になっただけで、とくに俺は変わらずに蒼炎を纏ってジッとしていればいいんだけどね。

ぶっちゃけ、蒼炎を纏っているだけなら魔力は減る事もないし、5階へと進もうかと思ったが行くのを止める。

俺は携帯を取り、時間を確認すると、ここに潜って既に2時間が経過していた。


「結構すんなりと4階まで進んだと思っていたけど、2時間が経過していたのか……まだ行けるけど、初日だしここで終わりにしときますかね」


俺は収納袋からポータルを取り出す。

ポータルとは階をクリアすることにより、クリアした階なら瞬時に好きな時に何度でも行き来ができるアイテムである。


俺はポータルを使い、視界がグニャッとなる。

視界が元に戻ると入り口に立っていた。

俺は街に戻り、食事を済ませるためにレストランを探す。


「おっ? 旨そうな匂いがするじゃないですか!」


旅の醍醐味と言えば、その世界の、地元料理を楽しめるってことでしょう!

匂いの元を辿って行くと、多くの種族が入り浸り、賑やかなレストランがあった。

俺はそのレストランに入る事にした。

うん。みんな楽しそうに飲み食いしていた。

けれど、空いている席を探すがほとんど埋まっていた。

残念だがまた今度にしようとレストランを出る事にした。


「あれぇ? 迅人だよね?」

「うん?」


俺の名前を呼ぶ声がしたので振り向くと、そこにはクララが仲間達と食事をしていた。


「やあクララ」

「こんにちは~迅人」

「クララこの人は誰だい?」


クララの隣で座っていた女性が立ち上がる。


で、デカい⁈


全てがデカい!

この人も猫耳だが、クララとは違い、背が190cm以上もありそうなガタイの良い女性がクララに声をかける。

そして、不審者を見つけたかの様な目で俺を見る。


「あのね~、さっき皆にも話したと思うんだけど、私が掲示板でクエストを見に行った時に助けてくれたのって言うのが迅人なんだよ~」

「そうなのかい? いや~うちのクララを助けていただきありがとうございました」

「いやいや、俺はただ肩を貸しただけですから」

「そのおかげで今日のクエストを終えられて、こうしてみんなで食事ができているのもあなたがクララに肩を貸してくれたおかげですから」

「は、はぁ……そんな大した事してませんから……俺じゃなくても他にクララを助けてくれる人はいたと思いますし」


俺がそういうと、クララの仲間は首を横に振る。


「例えそうだとしても、そうすぐに行動に出せる人はそうはいません。基本人とは、他の誰かがきっとやるだろうと考えるものです。ですが、面白い事に誰かがやると思っていても誰もやらないのが心理的にも面白いのですが、その心理学的にとても少ない可能性の、ごく少数の中に迅人さんはクララを手助けしてくださったのです」

「そ、そんな、大げさですって」

「そうでもありませんよ。迅人さんがクララを手助けしてくださなければ、先程も言いましたが、こうして無事クエストを終えられませんでしたから」

「そ、そう言ってもらたら俺も手を貸した甲斐がありました」

「あ、自己紹介がまだでしたね。私はパーティーのリーダで、名を王林(おうりん)と言います」

「あ、自分は迅人と言います」

「よろしくお願いします、迅人さん」

「あ、俺の事はさん付けしなくて大丈夫ですから」

「わかりました。でしたら私の事も王林とお呼びください」

「それと敬語も止めてください」

「それでは私にも敬語は使わないでください」


王林はニカッと笑顔を見せる。


「わかった。改めてよろしくな王林」

「あぁ、よろしくな迅人」

「迅人は食事は済んだの?」

「いや、それが今来たところで、入っては見たものの、席が空いてなくてな」

「それなら私たちと一緒の席に座ったらいいじゃないか」

「い、いや、それは悪いよ」

「遠慮する事はない。なぁ皆、いいだろう?」


王林がそう言いながら、他の仲間の方を向く。


「私は構いませんよ」

「あぁ、いいんじゃないか」

「あ、あの、そ、その、いいでう」


魔導士っぽい子に、強そうな剣士、それと挙動不審な子は僧侶かな?

クララの仲間の内の3人は良いと言ってくれたが、少し気まずいな……

そんな事を考えていると、いつの間にか横にクララが立っており、俺の袖を引っ張っていた。


「迅人ほら、立ってるのも疲れるでしょ! 座って座って!」

「あ、おい、こら⁈」


クララに引っ張られ座ってしまった……

つかクララ見た目とは裏腹に力強くないか?


「迅人も座った事だし、早速注文でもしようか!」

「あっ! 私が頼んでくるから、先にみんな自己紹介を済ませちゃってよ」

「そうだな……ならクララ、私はいつものを頼むよ。みんなは?」

「私も同じでお願いします」

「あぁ、私も構わない」

「わ、わた、私も同じで!」

「りょ~か~い! 迅人はどうする?」

「あ、俺は……クララに任せるよ」

「へ? いいの?」


クララは首を横に傾けながら俺に聞き直す。


「あぁ。 クララが美味しそうだと思う者を1~2品頼んでくれるか?」

「あはっ! わかった~」


クララは笑いながら注文をしにカウンターへと消えていく。


「さぁ、クララが来る前に、簡単に自己紹介を済ませよう!」


王林はデカい胸をドンッと叩き俺を見る。


「私の名は王林。このパーティーのリーダーを務めさせてもらっている。見て分かると思うが、私のパーティー全員獣人達で構成されている。そして、私は黒虎族だ。それと主に前衛を任されている。まぁ皆を守る盾を担っている。改めてよろしくな」

「よろしくな王林」


王林は見た目通りデカい。そして重そうな鎧を身に纏い、大きな盾が横に置かれていた。

それとやはりここのリーダーだと思っていた。

だってしっかりとしてるもんな。


「次は私ですね。私は妖狐族で、名を津雲(つくも)と言います。それと魔導士です。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


津雲さんは眼鏡が良く似合う女性で、金髪の髪がとても綺麗だ。

見るからにとても勉強をしてますという感じがする。


「次は私だな。私は狼守(おおがみ)族の(ほむら)という。剣士を務めさせてもらっている。よろしくな」

「よろしくお願いします」


焔さんは髪の色が夕焼けの様な色をしていて、腰には日本刀を差している。目付きは鋭く、なんとなく怖いが、とても美人である。


「あ、あの! わ、私は白羊族のフィールと言います! みんなが怪我をした際、す、すぐに治療が、あ、あ、え、えっと、ヒーラーを務めています! よろしくお願いします!!」

「あ、あぁ……よろしくフィールさん」


挙動不審なフィールさんは肌が白く、かわいらしい女の子である。

見た感じ、良い子そうだ。


「さぁ、皆の紹介も終わった。今度は迅人の事を教えてくれないか?」

「あぁ、そうだな。え~っと……俺は地球の日本という所から来た日本人です」

「堅苦しいぞ。私達にも敬語はいらんから、普通に喋るといい」


焔がそう言うと、津雲とフィールの2人は頷く。


「なら、お言葉に甘えさせてもらうな。さっきも言ったが、俺は地球という星からやってきた。生まれは日本という国で、名前は迅人だ。気軽に迅人って呼んでくれ」

「よろしくな迅人」

「よろしくお願いしますね、迅人さん」

「よろしくな、迅人」

「よ、よろしくお、お願いします、は、迅人さん!」


自己紹介が終わると早速王林が俺の名前を呼ぶ。

それを皮切りに俺の名前を呼ぶ3人。


「迅人は見た感じ拳闘士なのか?」


王林が俺の専門を聞いてくる。


「俺は剣士でもあり、拳闘士でもあるんだ。まぁ、剣闘士って言った方がいいな」

「なるほど……臨機応変に使い分けるタイプなんだな」

「あ、あぁ……そうだな」


まぁ他にも使えるっちゃ使えるけど、今は言わなくてもいいだろう。


「今日本から来たと言っていたが、もしかして侍の国ではないか?」

「あぁ、そうだな」

「おお! やはりそうだったか!」


焔が侍という言葉を知っていた事に驚く俺。

まぁ、焔が腰に差している日本刀を見れば知っているわな。


「焔のご先祖様は日本人なんだ」

「うぇ⁈ そうなのか?」

「あぁ、そうだ。私のご先祖様は遠い昔、私の故郷に突然現れてな――」


遠い昔というと、まだ地球にゲートが現れる前って事か……

昔で言う神隠しってやつだな。


「侍であったご先祖様と狼守族は助け合い、一緒に暮らしたのだ。そして、侍であるご先祖様の血は私の中にも受け継がれているのだ」

「えっ、というと、そう言う事か?」

「あぁ! そう言う事だ!」


その侍は狼守族と共に暮らしたことになるんだな……


「ちなみにその侍のご先祖様の名前は知っているのか?」

「知っているとも! 我がご先祖様の名は真田信繁というのだが知っているか?」

「真田信繁……幸村ではないんだ……」


真田と聞き、あの真田幸村かと思ったが、下の名が信繫だから違うんだろうな……でも、とりあえず携帯で調べてみるか?

俺は携帯を取り出し、ググってみる。


「真田……のぶしげ……っと!……うん? おいおいおい! 真田幸村の本名って信繫って言うのか⁈」


こいつは驚いた! まさかここに真田幸村の子孫と出くわすとは……しかも真田幸村は神隠しに会い、異世界に行っていたなんて……


「何かご先祖様の事で分かった事でもあったのか?」

「あぁ……焔のご先祖様はとても有名な侍だって事が分かったんだよ」

「なにっ⁈ 本当か⁈」


勢いよく立ち上がる焔は俺の肩を掴み上下左右に揺らす揺らす!

俺はクララが戻ってくるまで真田幸村がどの様な人だったのかを話す事になった……





「おっ待たせ~! みんなの注文した料理を持ってきたよ~! って、どうしたの焔ちゃん? いつにもまして顔が輝いているんだけど?」

「あ、あぁ、クララやっと来たか……実はな――」


王林から事の経緯を聞くクララ……

クララが来たら話は終わるかと思いきや、目を輝かせて俺の話を聞く焔……

でもなんだかんだで介抱されたのはクララが戻ってきて5分後の事だった。


「むぅぅ……もっと話を聞きたかった……」

「せっかくの料理が冷めてしまう前に食べるとしようじゃないか。それに話ならいつだってできるだろ?」


王林は俺を見ながら目配せをする。

あぁ、そういう事ね! そうでもしないと料理が食べられないよな。


「あぁ、そうだな。 また今度ゆっくりと話を聞かせてやるよ」

「ほんとだな! 絶対だぞ⁈ 嘘ついたら針万本飲ませるからな!」

「その言葉も知ってるのかよ……連絡先はクララに教えてあるから、後で教えてもらってくれ」

「なに⁈ いつの間に連絡先を交換などしたのだクララ?」

「ふえ? 言ってなかったっけ?」

「ク、クララちゃんが男の人と連絡先を交換するのって珍しいよね」

「そうだねぇ……ふ~ん……クララもそういうお年頃って訳ですな~」

「ちょ、津雲⁈ その顔なんだかムカつくんですけど!」

「えぇ~? 私の顔がなんだってぇ~? ねぇ~フィール~?」

「ふぇぇぇ、こ、怖いよ~……津雲ちゃんにクララちゃん⁈」

「迅人よ! ご先祖様についていくつか質問が――」


だ、ダメだ……一向に食事にありつけないぞ……どうしたらいいんだ⁈


ドンッ


「「「「ヒイッ」」」」


突然テーブルを叩く音が響き渡り、4人は一瞬で静かになる。


「さっきも言ったが、料理が冷めてしまわない内に食べようと皆に言ったばかりなんだが……私が何か間違った事を言っただろうか? 教えてくれないか? うん? どうした皆? そんな怖い物でも見たような目で私を見て~」


王林の顔は笑ってはいるが、な、なんだ……すっごい怖いぞ……怖い……


「い、いや、な、何でもないよな……な、なぁ皆?」

「そ、そうだよ~! ねっ! クララちゃん⁈」

「う、うんうんうん!」

「わ、私もそう思います!」


皆慌てて言い繕っているのが分かる……だって皆顔色も悪いし、顔がメチャクチャ引きつってるもん!


「そうか……なら温かい内に食べようじゃないか」

「そ、そうだな!」

「う、うわ~旨そうだな~」

「あ~お腹が空いたね津雲ちゃん」

「そ、そうねフィール」


みんな必死になって王林に賛同する。


「うむ! それではいただくとしよう! いただきます!」

「「「「「いただきま~す」」」」」


こうしてやっと食事にありつけた俺達であった。


そして、俺の怒らせてはいけないリストに王林が追加されたのであった……


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