氷帝からの許可
氷歌は仮面の男に視線を向け、すぐに俺を見る。
「そっちは終わったのか?」
「えぇ……私と轟さんがいるのよ……すぐに片付いたわよ。それなのにあんたは一向に顔を見せないし、どこかで油でも売っていると思っていたら変なのと遊んでいるし」
「遊んでる風に見えてるのならお前の目ん玉は――」
「あん?」
「いやいや、そこは譲らねぇ~ぞ! 俺は多くの人を助けていて、一段落ついたところで、そこにいる仮面野郎に襲われていたんだ!」
そんな怖い目つきで俺を見るなよな! ここは絶対に譲れないし、俺は間違ってないし!
俺は仮面の男に向け指を差す。
俺が指を差した事で氷歌の視線は俺から仮面の男に移る。
「おぉ~怖い怖い。 おたくと氷帝はお友達か何かかなぁ?」
「いいえ、違うわ」
「嘘だぁ~。 どう見てもお友達でしょう?」
仮面男の返答に対し、さらに目を細める氷歌だが、一瞬だが俺に視線を向け、すぐに仮面男に視線を戻す。
「友達以上って言っとこうかしら」
「う、嘘だろぅ?」
「俺を見るな……ただの幼馴染だ」
氷歌は不気味に笑い、仮面の男は仮面をしていて分からないが、少し動揺した様な声で俺に聞いてきたのがわかった。
「ひょ、氷帝が冗談を言う訳ないよなぁ……」
「あら、私だって冗談の1つや2つぐらい言うわよ」
そう言った瞬間氷歌が笑みを見せる。
「き、綺麗だ……」
「うえっ⁈」
「はぁっ⁈」
今俺の聞き間違えではなければこの仮面男は綺麗だと言ったような……?
そして、俺は氷歌の言葉も聞き逃さなかった。
気持ちの悪そうな目で仮面男を見ている。
それとは対照に、仮面男の方はと言うと、両手を握りながら氷歌を見つめていた。
「迅人……こいつは――」
どうやら氷歌も気付いたみたいだ。
この仮面男の正体に――」
「生理的に受け付けないわ」
「そ、そんな~傷つくじゃないのよ⁈」
どうやら氷歌はこの仮面男の正体に気付くよりも生理的に受け付けない部分の方が勝ったようだ。
「迅人……この仮面の男はあなたが責任をもって相手しなさい」
「いや、この人はもうお帰りになるみたいで――」
「いや、氷帝が来た時は帰ろかと思ったけど、氷帝が相手しろと言うのであればやらせていただきます」
「お、お前っ⁈」
ほら見ろ! やっぱ変わりやがった!
「ちなみにこちらの幼馴染と戦って勝ったらアドレスを教えていただけますでしょうか?」
「……それは無理な話ね」
「そ、そこをなんとか⁈」
粘るなこいつ……
「さっきゲートを潰す際、携帯がダメになってしまったのよ」
そう言うと氷歌は手をポケットに入れ――
バキッ
携帯を壊し、仮面の男に見せる。
携帯1つをダメにするほど、アドレスを教えたくなかったらしい。
「お~っと! なんってこった⁈ こいつぁ~仕方がないですなぁ」
「それに私、テロリストに教える気なんて無いから」
「⁈」
氷歌がそう言うと、見るからに仮面の男の雰囲気が変わる。
「なんで俺がテロリストだとお思いで?」
「その仮面に見覚えがあるからに決まってるじゃない」
「いや、こんな仮面はそこら辺にありますよぉ」
「変な言い訳はよしなさい。あなた虚ろわざる者でしょ?」
「はぁ……そこまで知ってらっしゃるとはさすがは氷帝ですなぁ」
そう言うや否や、仮面の男は一瞬で氷歌の背後に現れる。
「存在を知っている者は排除しなきゃならんのですわ」
「あら、あなた程度が私を排除できるわけないでしょ」
「なっ⁈」
仮面の男の手がみるみるうちに凍っていく。
「こいつぁヤバいなぁ」
仮面の男は自身の腕が凍ったことで少し焦りを見せる。
それと同時に氷歌から距離を取る。
「いやぁ、まさか氷帝とはこんなに力の差があるとは……炎帝を見ていたら他の『帝』を持つ者も同じぐらいかなと思ったんだけど、こいつぁ~大きな間違いだ」
「あの子と一緒にしないでもらえるかしら? それと言っとくけど、あの子もあんなもんじゃないから。あの子はもっと強くなる予定よ」
「ははは! 氷帝がそこまで言うのならそうなるんでしょうなぁ」
「まだ笑う余裕があるみたいね」
「氷帝には勝てないのはわかりました。 けど、俺は勝ちにあまり拘らない正確なもんで、勝てないと思ったらすぐに消えるんですわ」
「それはここから簡単に逃げられると思っている口ぶりね」
「えぇ、俺は逃げるのが一番得意なんで」
「そう……これでも簡単に逃げられるかしら?」
「はい?」
氷歌の魔力がグンッと跳ね上がる。
「アイスプリズン」
出た! 氷歌の得意技である氷の監獄! みるみる内に氷がドームの様に形作られ、俺達を逃がすまいと退路を塞いでいく。
これを出されたらどこにも逃げる事は出来ない。
「おぉ……こいつぁすごいのなんのって……でも俺には効かないよぉ氷帝さん」
「あらそう……なら試してみたら?」
「いいのかい? ならお言葉に甘えさせていただきますかねぇ」
仮面の男はそう言うとその場から消える。
「あたっ⁈」
ドサッ
「ど、どういうことだ⁈」
「あらあら、自信満々に言っといて無様に尻もちなんか付いちゃって」
「くっ⁈」
仮面男は悔しそうな声を出す。
その悔しそうな声を聞けて俺の気持ちはスッキリした。
氷歌ナイス!
「な、なんで通り抜けられない⁈」
「あなた時空に潜り込む力を持っているわね。」
「な、なんでそれを⁈」
「あなたが私の背後に現れた瞬間すぐに分かったわ。私の氷に電気を流したことであなたの力を阻害したの」
「あの一瞬で俺の力を見抜くとはさすがは氷帝と言ったとこだねぇ……ますます惚れたよぃ」
「うぇ」
仮面男は氷歌に向け指でハートサインを送り、氷歌は吐きそうになる。
「う~ん……こいつぁ参った……」
参ったと言う割には余裕さが見受けられる。
「迅人」
「うん? やだよ」
氷歌は俺を呼ぶ。
俺を呼ぶ時の声色で氷歌が何か企んでいるのが分かったからすぐに拒否をする。
だが、拒否をしたところでそれが通った事はない。
「断るのは構わないけど、こいつと一緒にここにずっといることになるわよ」
「なんだよ?」
「あなたがあいつを倒しなさい」
「いや、だって――」
「解放してもいいわ」
「いいのかっ⁈」
「ただし『一段階』までよ」
「了解」
俺は仮面男の元に近寄る。
「あれ? おたくが俺とやるってぇのかい? 言っちゃ悪いが、おたくはさっきまで俺に――」
「あぁ、そうだな」
「わかっているのなら下がった方がいいと思うよぉ。俺はおたくを殺さない。だが引かないと言うのならおたくをボコボコにし、人質にしてここを抜け出す手段に使わせてもらうけど……まぁ、最悪氷帝が逃がしてくれないのならおたくを殺すしかない」
「いや、あんたが俺の心配をしてくれるのはありがたいが、状況が変わったんだ」
「状況が変わった?」
「氷帝から許可が下りたんだよ」
「いやいや、氷帝から許可が下りたからって何が変わるってんだい?」
「う~ん……しいて言うなら、こっからは俺のターンだってことだ」
「ははは! ならお手並み拝見といこうかぃ?」
仮面男から先程までとは打って変わり、凄まじい程の殺気を俺にぶつけてくる。
こいつは確かに強い。
先程までの俺なら勝てなかったであろう。
だがそれは氷歌からの許可が下りていなかったからだ。
「蒼龍の喚起・1段階」
許可が下りた以上、仮面の男にも言ったが、こっからは俺のターンだ。




