イレギュラーのイレギュラー
俺はモンスターに襲われていた多くの人々を助け、それと同時に『蒼炎の撃墜』を付与し、安全な場所へと移動させた。
ゲートが会場に現れて4~50分たっただろうか?
外に出ていたモンスターも徐々にだが数も減ってきたように見える。
俺以外のハンターもいつの間にか多く集まっているし。
「さて、氷歌の方も終わっているかな?」
「ほほぅ、面白いのがいんじゃないのぉ」
頭上からプレッシャーを感じ、上を見るが何もいない。
「くっ⁈ なんだよいきなりっ⁈」
「面白そうな気配を感じたから来てみたら、マジ面白そうな奴がいんじゃんかよぉ」
「うおっ⁈」
耳元で囁かれ、すぐに後ろを向くと、俺の背後に仮面を被った男が立っていた。
それと同時に仮面を被った男の姿を見て俺は驚愕する。
俺はこいつを見たことがないが、ラグナさんの記憶が俺に警報を鳴らしている。
俺を襲ったこいつが被っている仮面……俺はこの仮面を見た事がある。
「なに? おたく俺の事を知ってるような顔をしてるねぇ?」
「くっ⁈」
俺は一旦距離を取るために、後ろに下がる。
「俺はおたくの事全然知らないけど……う~ん……ダメだ! やっぱ思い出せないわ」
「うおっ⁈」
俺が距離をとろうとすると仮面の男はグイグイと追ってくる。
「付いてくんじゃねーよ!」
「おっと! つれないじゃないかぁ?」
俺は仮面の男に向け、蒼炎を纏った拳をお見舞いする。
「おっ! 蒼い炎⁈」
俺の拳は簡単に避けられてしまう。
男は後ろへ跳び、一回転しながら距離をとる。
「おたく何か面白いね~。それにさぁ、おたくが使ってる蒼い炎……かなり珍しいよね」
「そりゃどうも」
「蒼炎かぁ……俺初めて見て気分がいいからさ、おたくと戦うの止しとくよ」
「ははは……あんた初対面の人に対してそういうふうな言い方はあまり感心しないな」
「おっとっと、すまんすまん。 言われてみればそうだな。反省反省っと」
そう言った瞬間仮面の男は消える。
「俺にもさぁ、色々とやらなければならない事がたっくさんあるのよ」
「また背後かよっ⁈」
「背後を取られるとぞわってするっしょ?」
「くっ⁈」
男に耳元で囁かれてみろ! 気分が良くなるわけね~だろうが!
だが、俺も背後を取られてばかりでいる男じゃねぇっての!
「蒼炎の烈風!!」
「おおっ⁈ こいつはヤバそうだ」
仮面の男はそう言うやすぐに消え、今度は頭上高くに現れる。
「さっきから人の背後ばっかりとりやがって、女性ならともかく、男に囁かれて嬉しかねぇーっての!!」
「俺もさぁ知り合いにそう言ってるんだけどさぁ、中々止めてくれなくてさぁ……だからおたくに嫌がらせをして憂さを晴らしてるってとこよ」
「とんでもねぇー野郎だな!」
「いや~それほどでもないさぁ」
「褒めてねえっての!」
「でもさぁ、やっぱ一番気になってるのがさぁ、おたくの反応よ」
「⁈」
仮面の男はそう言った瞬間、先程感じたプレッシャーを放ってきた。
俺はその場からすぐには動けずにいた。
仮面をしていて顔の表情は分からないが、こいつは絶対にイヤらしい顔をしている。
絶対にしている!
「おたくこの仮面に見覚えがあるみたいじゃ~ん。それってさぁ、結構位の高い人じゃないとあまり認識されないっつ~か、普通の人からしたらただの仮面なわけで、その辺歩いてても素通りな訳なんだけどさぁ……おたくはこの仮面を見た瞬間、怒りともとれるし、恐怖に似た様な感情で俺を見てたじゃぁん……やっぱダメだ。俺はおたくを見た事もないわ」
どうやら、ラグナさんがかけてくれている魔法が『龍の心』の存在を消しているみたいだ。
このまま気付かれずにずらかるべきだろう。
仮面の男と戦ってみて分かったが、今の俺ではこいつには勝てない。
こいつは俺とは戦わないと言っているし、いくつか言葉を交わし、はいさよならといきましょうか!
「いや、俺はあんたを知らない、見た事もない。俺は忙しいからもう行かせてもらいます」
「あぁ、そうかい? 忙しい所呼び止めてしまって悪かったねぇ」
「いえいえ、お気になさらず。では、俺はこれで失礼しま――」
シュンッ
「やっぱ気になっちゃうんだよねえ……」
「なっ⁈」
また仮面の男は俺の背後に現れ、耳元で囁く。
そして、さらにプレッシャーは強くなる。
「さっき戦わないって言ったけどさぁ……やっぱ今殺しとくか?」
「ぬおっ⁈」
仮面の男によるプレッシャーが殺意に変わり、体にかかる圧が半端なく降りかかってくる。
俺は瞬時に距離をとろうとするが、この仮面の男は距離をとらせてくれない。ずっと追いかけてくる。
「俺からは逃げられないって分かってるんだろぅ」
速い! いや、これは速いとかっていうレベルじゃないぞ!
目で追えない程の速さ……いつの間にか背後に現れる……それも気配もなく……
俺はラグナさんの記憶にあったある人物が頭に浮かぶ。
「あんた時空を飛んでるだろ?」
「おっ⁈ すぐそこに行きつくとは……おたくただ者ではないねぇ」
「俺はこう見えてFクラスのハンターだ」
俺がそう言うと仮面の男は俺の後を追ってこず、その場に止まる。
「おたくがFクラスって何かの冗談だろうがよい! ハンター協会見る目が無さ過ぎだろう……おたくも世の中から弾かれた人間だったんだな……」
「い、いや、俺は別に――」
「皆まで言うなよい! おたくの気持ちは痛~いほどわかる……よ~くわかる」
な、なんだこの浮き沈みの激しい男は……戦わないと言ってたと思ったら殺すとか言い出すし、仮面で表情は見えないが俺を憐れんでいる様に見えるし……ぶっちゃけ疲れる。
「気が変わった。おたくは殺さんよ」
「どうせまた殺すとか言い出すんだろ?」
「いや、それはないよ。もぅ時間だし」
「えっ?」
ヒュン
「おっとっと! 少し遊び過ぎたかねぇ?」
先程まで仮面男のいた場所に氷の結晶が突き刺さる。
だが、男はその場から消え、木の上に座っていた。
そして、氷の結晶を仮面の男に放ったのは言うまでもなくこのお方です。
「何堂々とさぼってるのよ」
「い、いや、俺はさぼってなんかいない――」
「あん⁈」
「さ、さぼってなんかいないのにぃ……」
俺は氷歌に向け頭を下げながらなぜか涙が少しだが零れる。
あの目つきど~にかならんかねぇ……未だになれねぇよ。
最強にして最恐の氷帝……氷歌のお出ましである。




