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イレギュラー


「おいおい⁈ なんであんなとこにゲートが開いてんだよ」


窓から下を見ると、今まで俺が戦っていた場所にゲートが開いており、無数のモンスターが溢れ出て所々に散っていき、人間を襲っていた。


「今はそんな事を気にしていてはだめよ。私たちも早く下に行って対処しないといけないわ」

「ああ、そうだな」


俺と氷歌は部屋を出て、下へと向かう。


下に着くと、既にハンター達がモンスターと戦っていた。


「私は会場に開いたゲート付近のモンスターを相手するから、迅人は会場から出たモンスターを相手して」

「了解! 氷歌だけで大丈夫か?」

「私だけではないわ。轟さんは既に会場にいてモンスターを相手してるから、加勢しに行くのよ」

「そうか……二人ならゲートを閉じられそうだな」

「自然に発生したゲートならね……」

「自然に?」

「そんな事より、くれぐれも気を抜かないようにね」

「お、おう」


氷歌はそう言うなり、一瞬で姿を消した。


「俺も俺でやれる事をやりますかね」


俺は会場から出ると、モンスターがわんさかといた。

それに伴い、人々は混乱し、逃げ遅れている者もいた。


「きゃああああああああああ⁈」


ひと際大きな叫び声に反応した俺は、悲鳴が聞こえた方を振り向くと、小型の虫のモンスターの大群が母娘を囲い、襲う寸前でいた。


「た、助けて……」

「ママァ……」

『キシャアアアアアアアアアア』


俺は虫の群れの中心に降り立ち、蒼炎を腕に纏う。


蒼炎の烈風(ブルーヴェント)


勢いよく地面に叩きつけられた蒼炎が瞬く間に虫の大群を燃やし尽くしていく。


「えっ⁈ 熱くない?」

「大丈夫ですか?」


母親は虫が蒼炎により燃やし尽くされているのに、自分の身も燃やされていない事に不思議がっていたが、すぐに俺に視線を向ける。


「あ、ありがとうございます! 危ない所を助けていただきまして」

「いえいえ、無事で何よりです」

「……」

「うん?」


俺は母親に隠れて俺を見つめる女の子に視線を向ける。

口をポカーンと開け、俺を見つめている。

俺はしゃがみ込み、声をかける。


「大丈夫だったかい? 怪我はない?」

「うん……だいじょうぶ」

「それはよかった」

「……」


女の子は何かを言いたそうに体をモジモジとしている。

何か言いたそうなのはわかったので、俺の方から聞くことにした。


「大丈夫? やっぱどこか痛いのかな?」

「うぅん、いたくない」

「そ、そっかそれはよかった」

「……」

「はは……は」


気まずい……


「すいませんこの子人見知りなもんで」

「いえいえ、気にしないでください。それでは自分は他にも行かないといけないんで気を付けて帰ってください」

「本当に助けていただきありがとうございました」

「いえいえ、それでは」


俺は背を向け移動しようとした瞬間、手を引っ張られる。

下を向くと女の子が俺の手を引っ張っていた。


「どうしたんだい? 大丈夫だからねぇ。もうモンスターは――」

「おにぃさんのてからでたあおいひがすごくきれいだった」


先程までモジモジしていた子が勇気を出して喋ってくれた事が胸に来るものがあった。


「それとね、ぶわぁってムシさんたちはもえたのにね、ぜんぜんあつくなかった」

「そうだよ~。悪い虫さんにしか熱くないんだこの火はね」


ボゥ


俺はそう言うと、手の平を広げ蒼炎を出す。


「うわ~きれぇ」

「触ってみるかい?」

「いいのぉ?」

「いいよぉ」


女の子はそう言うと怖がらず蒼炎を触る。

すると、女の子から笑顔が溢れ出す。


「ははぁ~! ママァみてみて~! ぜんぜんあつくないよぉ~!」

「そうねぇ。 この綺麗な火がみぃとママを助けてくれたのよぉ」

「すごいねぇすごいねぇ」

「あらあら、この子ったらこんなにはしゃいじゃって」


先程まで人見知りをする子だったのに、今ではその面影はどこかへ消えていた。


「この蒼い炎はね、良い子には熱く感じないんだよ」

「ほんとにぃ~? みぃはいいこぉ?」

「みぃちゃんって言うんだ。そうだねぇ、みぃちゃんは良い子だって証だよ」

「やったぁあ! ままぁ、みぃはいいこいいこぉ~!」

「あらぁ、良かったわねぇ」


みぃちゃんは目をキラキラと輝かせながら先程とは打って変わってはしゃいでる。

よかった……怖い思いが勝らなくて。

けれど、こうしてはいられない。

ここ以外でも悲鳴が聞こえる……行かなきゃいけない。


「うん?」


俺の手を握るみぃちゃんの手が強くなる。

何か心配そうな表情をしている。


「いっちゃうのぉ?」


どうやら俺が他の方を見ていた事に気付き、行ってしまうと悟ったらしい。


「……あぁ、他にも助けを待っている人達がいるからね。行かないといけないんだ」

「んんぅ……」


そりゃそうか……さっき怖い思いをしたばかりなんだ……すぐにまた怖かった事を思い出しちゃうよな……まだこんなに小さいんだ。


「そうだ。みぃちゃんに任務を言い渡そう」

「にんむ?」

「そう……これはとてもと~っても大事な任務だ」

「なになに? おしぇ~ておしぇ~て!」


お! 元気な声に戻った。


「それはね、ママを安全な場所まで連れて行ってほしいんだ」

「みぃが……ママお?」

「そう……みぃちゃんがママを守って上げてほしいんだ」

「みぃ……ちからがないからむりだよぉ……」


みぃちゃんは下を向き、今にも泣きそうな表情になる。


「大丈夫。 今からみぃちゃんに魔法をかけてあげるから」

「まほぉ?」

「うん。今から魔法をかけてあげるよ」

「いたくない?」

「うん、痛くないよ。 俺を信じてくれるかい?」

「うん! しんじぅぅぅ!」

「よしっ! 今みぃちゃんに魔法をかけるからね」

「うんっ!!」


みぃちゃんは両手を強く握り、キラキラした目で俺を見る。

俺は立ち上がり、拳に蒼炎を纏わせ、みぃちゃんの頭に手を置く。


蒼炎の撃墜(ブルービート)


ブワアアアアアアアアアアア


「ふわあああああ……きれぇ~」


俺は再度しゃがみ込む。


「熱くない?」

「うん! あつくない! すごくね、あたたかくてきもちいいよ~」

「ははは。この蒼い炎がみぃちゃんとママを悪いモンスター達から守ってくれるからね」

「ほんとぉ⁈ やったああ! ママァみてみてぇ」

「あ、あの、だ、だいじょうぶなんでしょうかその……」


母親が心配そうにみぃちゃんを見る。

そりゃそうだ……我が子が炎に飲み込まれているんだ……心配になるわな。


「大丈夫ですよ。この炎は人体に害はありませんし、モンスターを発見次第自動で攻撃してくれるようになっています。それと、この炎はお二人が安全な場所に着くまで消えない様に組み込んでおきましたので心配なさらないでください」

「す、すごいですね! はぁ……何から何までありがとうございます」

「いえ、気にしないでください」


俺は視線をみぃちゃんに戻す。


「みぃちゃん、ママと手を繋いで、そして、ママを守ってあげて」

「うん! みぃがんばる!」


もう大丈夫だ。みぃちゃんの瞳の奥にあった恐怖心が消えたのがわかった。


俺は立ち上がり、まだ悲鳴が鳴り止まない場所に視線を送る。


「おにいちゃん! いってらっしゃい! それと、さっきたすけてくれてありがとぉぉぉ!」

「うん、行ってきます」


俺は頷き、次の現場へと向かうのであった。


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