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千癒

俺は意識を失っている夏乃子の傍に行くと、横から千癒さんが現れ、夏乃子の治療にあたる。


「あららぁ~……物の見事にやられちゃいましたねぇ……迅人さ~ん」

「あ、はい」


俺は千癒さんに呼ばれ、少しビクつきながら返事をする。

もしかして夏乃子をやられて怒っているのか?

あの時は夏乃子に対して色々と言っていたけど、いざ夏乃子がやられて怒るのも無理はない。

俺は少し身構えて、千癒さんの言葉に耳を傾ける。


「迅人さん……夏乃子ちゃんを倒してくれてありがとうございました」

「すいませんでした! えっ? 今何て?」


今俺の聞き間違えじゃなければありがとうって言わなかったか?


「あはは。なんで迅人さんが謝るんですか? 別に迅人さん悪い事なんかしてないじゃないですかぁ~」

「いや、俺夏乃子を倒したから……怒っているもんだと」

「そんな事で私が起こる訳ないじゃないですかぁ~。 確かに私と夏乃子ちゃんは友達ですが、ちゃんとその辺は分けて考えておりますので気にしないでくださいね」

「は、はぁ、そうでしたか……それじゃ、なんでありがとうなんて言ったんですか?」

「それはですねぇ……その前に、さっきから夏乃子ちゃんの事を呼び捨てにしていらっしゃいますが?」

「あぁ……、戦っている最中に夏乃子が呼び捨てにしてと言うので」

「そうだったんですね。それでは私の事は千癒とお呼びください」

「いやいや、それは――」

「それは?」

「えぇっ⁈」


俺が拒もうとした瞬間、千癒さんから殺気が溢れ出し、俺は困惑する。


「もう一度言いますね? 私の事は千癒とお呼びくださいね」

「しょ、承知しました……」

「私が欲しい返答ではありませんね」

「うっ⁈」


さらに殺気が強まる。


「ち、千癒」

「ふふふ。 これからも私の事は千癒とお呼びくださいね。あ、あと敬語は無しでお願いします」

「お、おう……」


すると俺の返答に満足したのか、視線を夏乃子へと戻す千癒。


「しかし、夏乃子ちゃんに対して、一発も入れずに勝つなんて……氷歌さんが認められるだけの事はありますねぇ」

「い、いや、そんな事は……」そ、それよりも夏乃子は大丈夫そうですか?」

「えぇ。 ただ気を失っているだけですから、1~2時間で目を覚まされるかと思います」

「そうですか……よかった」


すると救護班が夏乃子の周りに集まってくる。


「夏乃子ちゃんは意識を失っているだけですので、休ませていれば自然と目覚めますから」

「承知しました。 おい、皆慎重にお運びするように」


救護長がそう言うと、手際よく夏乃子を運んでいく。

俺と千癒は歩きながら会場から退場する。


「迅人さん、改めて夏乃子ちゃんを倒していただきありがとうございました」

「あ、さっきもそう言っていましたね」


俺が困惑していると、千癒は笑顔を見せる。


「今回、迅人さんにやられた事で、夏乃子ちゃんはきっと今よりも強くなると思います。先程言いそびれてしまいましたが、そのお礼を言いたかったんです」

「お礼なんて全然いいのに……俺は俺でやらなければならなかったし」

「それで良かったんだと思います。そのおかげでこうして格下だと思っていた迅人さんに負けたんですから、言い訳の仕様がありませんし、逃げ道もありませんから。夏乃子ちゃんのお師匠様がきっと一から鍛えなおしてくれると思います」

「夏乃子のお師匠様って先代の炎帝だよな?」

「はい。先代炎帝である火村 日向さんです」


俺が消息を絶つ前の炎帝だ。


「日向さんは、日に日に弱くなっていっている夏乃子ちゃんに対し、何度も来なさいと言っているんですが、夏乃子ちゃんがそれを何度も拒んでいるんです」

「師匠に会いたがらない?」

「そうなんです。またあの厳しい訓練をするのが嫌みたいで」

「そうなんだ……」


ぶっちゃけ、炎帝である夏乃子と戦い、自分で言うのもあれだが、危なげなく戦えた。

まぁ、俺と夏乃子との相性ってもんがあるんだけどな……


だが、それを差し引いても、炎帝である者があれでは困る。


「ですが、今回迅人さんにやられて、本人の考えも変わると思います。それでは私は意識を失っている夏乃子ちゃんの傍にいたいと思いますので」

「あぁ、わかった」

「意識が覚めた時、隣に誰かいた方がいいと思うんで」

「それがいいと思う」


なんだかんだで千癒は夏乃子の事を大事に思っているのが伝わってくる。

千癒はペコリとお辞儀をし、夏乃子のいる場所へと消えていった。


「さて……俺は――」

「おい、そこは私の所に来て、報告するのが筋ってもんじゃないの?」


後ろを振り向くと、氷歌が壁に寄りかかっていた。


「冗談だよ。今向かおうとしてたって」

「そうよね……もし何の報告もなく消えてたらどうなっていたか……」

「じょ、冗談だっていってるじゃないかよ」

「そう、分かっているわ。けど、私はもしもの話をしているだけであって、もし、そんな事があったらどうしてやろうかって考えていただけよ」

「そ、そうか……それで俺はセーフでいいんだよな? いいんだよね?」


そんな睨みを利かせるなよ……俺はちゃんと報告しに行くつもりだったんだし。


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