炎帝と挑戦者
激しい炎を纏い、俺に向かってくる夏乃子。
俺は構え、夏乃子を待ち受ける。
「へぇ~逃げ回るかと思っていたけど真っ向から受けて立つとか、中々男気があるじゃないの! けど、それが過ちだって事を分からせてあげるよおおお!!」
夏乃子は俺に向けゴオオっと音を上げながら炎を纏った拳を打ち込む気満々だ。
「炎卦!!」
俺は目と鼻の先ほどの距離で夏乃子の拳を避ける。
避けた瞬間後ろから激しい爆発音が聞こえる。
「上手く避けたみたいだけど、次はそうはいかないからね!」
「……」
夏乃子は間髪入れず俺に向かっては炎卦を打ち続けてくる。
俺はそれを難なく避け続ける。
「避けるの上手いのは分かったけど、そんなんじゃ私に勝てないことぐらい分かってるでしょ?」
「お前さんは戦いの最中ずっと喋っているのな」
「仕方がないじゃん! つまらないと私は喋って暇を紛らわしてるんだよ! 私を本気にさせたら口数が減るかもね」
「ほほぅ……良い事を聞いた」
「へっ?」
俺は避けるのを止め、今度は俺から夏乃子に近づく。
「おおっ⁈ 打ち合いに持って行こうとする魂胆ですか! いいよぉ! 私は嫌いじゃないから」
「じゃぁちょっと付き合ってくれよ」
「へえっ⁈ 今のってまさか⁈」
「深い意味なんかねぇ~よ! いくぞ」
「ほいほ~い! かかってきなさい!」
「それじゃいくぞ」
ヒュンッ
「えっ、ちょ、ちょっといきなりスピード上がってない⁈」
俺は身体を活性化させ、先程よりも数段速くさせることにより、夏乃子の速さよりも先を行くように調整した。
そして俺も夏乃子に拳を突き出す……だが、体勢を崩しながらも夏乃子は俺の攻撃を避ける。
そして、突然速くなり、拳を突き出した事で、夏乃子から焦りが生じた様に見えた。
「着いて来れそうにないなら落とすぞ」
「なっ⁈ ちょいっとだけ速くなったからって調子こくのは感心しないなぁ!!」
そう言うと夏乃子のスピードも上がり、俺に着いてきた。
どうやら夏乃子も炎を操れるだけではなく、身体強化が可能みたいだ。
「調子こいている子には痛い目にあってもらわないとねえええええええ!!」
夏乃子は俺と拳と拳の打ち合いに乗ってきた。
「うおおおおおおりゃあああああ!! 豪炎乱万ああああああああああ!!」
激しい炎を纏いし拳の乱打が俺を襲う。
だが、俺は全ての攻撃を避ける。
「な、なんで一発も当たらないのおおおおおおおおおお⁈」
夏乃子は俺に攻撃が当たらずイラついているのが手に取って分かる。
あまり言いたかないが、その顔を見れて少しは気分が晴れる。
ぶっちゃけ、お前は喋り過ぎのしゃしゃり過ぎだ。
俺には分かるよ……お前の中の傲りがな。
「ちぃっ⁈」
舌打ちをした夏乃子は、自身の攻撃が俺に当たらないとみて距離を取る。
「これじゃ埒が明かない。こっちが攻撃を繰り出しても当たらないし、はーくんは攻撃を仕掛けてきたと思ったらまた避けるだけだし」
「喋りに余裕が見られなくなってきたんじゃないか? 炎帝様」
「はぁっ⁈ そんな事ないし! 私の攻撃が当たらないからって調子こくのは早いんじゃないかな?」
そう言い出すと、夏乃子の瞳が赤く輝き、炎の様にユラユラと揺れだす。
氷歌から聞いた話だと、ここからが本番らしい。
「はーくん……ちょっとだけ私を本気にさせた事を光栄に思うと共に、この後起きる事を、私に倒された後に後悔なさい」
「……」
夏乃子は両手を広げると、その手の平に大きな火球を作り出す。
「はーくんは避けるのが上手いのは分かったよぉ。けど、避け切れない攻撃を繰り出せるって言ったらどうかなぁ?」
「……」
両手に作り上げた大きな火球を一つに合体させると、さらに大きくなると共に熱気のせいで、周りにある物が溶け出していた。
「これを食らっても死にはしないよ。ここには救帝のちーちゃんがいるからすぐに怪我を治してくれるから」
「ちょっと本気出したって言ってたけど、口数も減ったし、これは本気と書いてマジになっちゃたんじゃないのか?」
「⁈」
夏乃子の眉がピクッと動くのを俺は見逃さなかった。
「そ、そんな事ないよぉ……けど、はーくんは少し痛い目に合わないとダメっぽいと思ったから、すこ~し、すこおおお~しだけ本気を出した私の心遣いに感謝しながら倒されなさい」
「そういうのをいらないお節介って言うんだぞ」
「うるさあああああい!! その減らず口を閉じてやるんだから!」
夏乃子の魔力量がグンッと上がり、勢いよく地面を叩きつける。
「炎海流破」
広範囲に渡る炎が津波の様に俺に押し寄せ、逃げ道を勢いよく消していく。
こればかりは避ける事ができそうにない。
ドパァァァァァァァァアアアアン
炎の波が俺を飲み込む。
「はぁ、はぁ……逃げ道は塞いだし、こればかりはまともに食らったでしょ!」
「あぁ、あれは避ける事ができなかったな」
「そうそう、あれを避ける事は絶対……に……な、なんであんた立っているの⁈」
俺の周りは、夏乃子の攻撃で火の海と化している。
そして、俺はその中心に立ち、夏乃子を見つめる。
「見ての通りだけど」
「だ、だから、なんであれを食らって、普通に立ってるのかって聞いてるの!」
「それをお前に説明する義務はない」
「くっ⁈」
夏乃子は苦虫を噛んだ様な顔を見せる。
そりゃそうだ。
相手の手の内をわざわざ教える奴は強者か、ナルシストのやることだ。
俺はどちらでもない……俺は挑戦者だ。
そして、今度は俺の番だ。




