terrible
約500m後方から大量のモンスターが怒涛の如く迫ってきていた。
「なっ⁈」
「くそっ!」
始の表情がさらに険しくなる。
この表情は相当危険だというサインであることが俺には分かる。
うん?
よく見ると、モンスターに追われているパーティーがいた。
パーティーの数は8人。
身なりからしてかなりのボンボンだというのが見て分かる。
それぐらい高価で、強力な装備を全員がしているからだ。
だが、そんな大層な装備をしているにも関わらず、みな必死になってモンスターから逃げている。
なるほど……お前らが引き金で、モンスターをここまで引き連れてきたって訳か!
見た感じ、自分のレベルに見合った行動をしなかった事により、このような状況になったと……こいつら、よくも俺達の狩場を荒らしてくれたな!
俺は沸々と怒りがこみ上げてくる。
すると、モンスターに追われていたパーティーは俺達に気付く。
その瞬間、パーティーのリーダーらしき者と目が合い、歪な笑みが見えた。
俺はゾワッと背筋が凍るような感覚に陥る。
この異様な感覚は?
今すぐ逃げろと俺の本能が警報を鳴らす。
それと同時にモンスターに追われていたパーティーが進路を変え、こちらに向かって走ってくる。
だが、それよりも始が動く。
「走れっ!!」
「うおっ⁈」
俺は始に腕を引っ張られる形で走り出す。
「身体能力強化っ!!」
始は自身にバフをかけるともたついている俺をおぶって走り出す。
「始さん⁈ さすがにこの体勢は恥ずかしいです!」
「黙ってろ! 今はそんな事を気にしてる場合じゃな――」
ヒュン
「へっ?」
「くそっ!!」
ドガーーーンッ
「うわああああああ⁈」
俺達に向け何かが飛んできたと思った瞬間、地面が爆発を起こしたのだ。
な、何がおきたんだ?
「skjvigvmla;sf;ksd」
誰かが叫んでいる?
あぁ、始が何かを叫んでいるのか?
耳がキーンっと鳴っていてよく聞こえない。
「迅人大丈夫かっ⁈」
「は……じめ?」
「大丈夫だからな! 気をしっかりと持つんだぞ!」
「な……にを言って――?」
始は俺の足元で何かをしている。
俺はいつの間にか横になっていた。
体がうまく動かせない。
俺は足元にいる始を見るために首だけに力を入れ、足元を見る。
「な……嘘だろ?」
足元を見ると、俺の左足の膝から下が無くなっていた。
「大丈夫だっ! 俺が必ず治してやる!」
「なるほどな……痛みが無いのは始が回復魔法をかけてくれていたおかげだったわけだな……」
始のおかげで辛うじて生きている。
そう思った瞬間、視界、思考がクリアになっていく。
周りを見渡すと、見慣れない場所にいた。
「ここはどこだ?」
「ここは爆発の影響で現れた洞窟だよ」
「洞窟? そうだ! たしか急に足元が爆発して……モンスターの群れは⁈ モンスターに追われてたあいつらは⁈」
俺がそう聞くと、始は険しい表情になる。
「……あいつらは俺達に向け、魔法を放ってきたんだ」
「なっ⁈ なんで……まさか?」
「そう。俺達を囮にしたんだ。モンスターの気を逸らし、そして、俺達に魔法を放ち、俺達を動けないようにするために」
「マジか……」
ドガーーーン
「うおっ⁈」
いきなりの事でビクつく俺。
なんだと思い、音がする方を見ると、そこは瓦礫の山となっていた。
「俺が入り口を塞いだんだ」
「塞いだ? それってもしかして――」
「あぁ……モンスターの群れはすぐそこにいる。そうでもしないと、モンスターの群れがここに入ってきちまうからな。俺達はまんまとあいつらの策に嵌ったってわけだ」
「なるほどな……」
俺は目を閉じ、気持ちを落ち着かせる。
入り口を塞いだってことは出口は無い。
もう一度、あの瓦礫の山を壊したとしても外にはモンスターの大群。
何か打つ手が無い物かと思考を巡らせる。
「始、もう足は大丈夫だからさ、始も今の内に休んだ方がいいぞ」
「だけど――」
「だけどじゃねぇよ! 見ての通り、俺の片方の足はキレイサッパリと無くなっている。今の状況で何をやっても治らない物に力を注ぐのはナンセンスだ! 今は体力を温存するのが最善だと思うぞ」
こんな言い方はしたくはなった。
必死になってまで、俺の足を治療してくれてたんだ。
ぶっちゃけ、始が治療してくれてなかったら、意識が戻って時点で痛みにより発狂してまた意識を失っていたかもしれないし、最悪死んでいたと思うし。
「お前はどこまで気楽なんだか」
「俺は常に最善を考えて行動してるんだ! いつまでも過去には捕らわれないのだよ」
「ははは……お前らしいよ。けど、痛みに耐えられなかったらすぐに言えよ!」
「わ~ったって! 心配し過ぎなんだよ」
ぶっちゃけ、痛みは無い!
それと失血も止まっている。
始は回復魔法を使えるが失った部位を再生できるほどの力はない!
今は無い物よりも、今できる事を考えないといけない。
だが、悠長に考えている時間は無そうだ……
ドガーーーン
「おいおい! 洞窟が崩れだしてないか⁈」
「あぁ……まずいな」
外にいるモンスターが暴れ回っているおかげで、今いる洞窟内が崩れ始めたのだ。
「ますいな……ここにいてもダメになってきたぞ」
「そうだな……何か手を考えないと」
ドガーーーン
「少しは食い気を抑えろってんだ! バカモンスター共が!」
「おい、迅人! あそこを見ろ!」
「うん?」
始が指さすところを見ると、先程までなかったはずの空洞が現れた。
おそらく、外で暴れ回っているモンスターの衝撃により、現れた空洞であろう。
「もうあそこに行くしか手はないよな?」
「あぁ、行くしかないだろう……ここにいてもどうせ死ぬのなら、前に進むのがいい」
「だな」
俺と始は現れた空洞へと歩を進めるのであった。