with pressure
『さぁ、まもなくハンターズ・ロア 選考会 決勝が始まります。この3日間の熾烈な戦いに残りし2人! その中の1人はなんと『帝』の証を持つ赤髪の女性! この女性はなんと炎帝でいらっしゃいます業炎寺 夏乃子さん! 当初、ハンターズ・ロアに参加しないと声明を出されておりましたが、急遽参加しておりました。なぜか変装をして選考会に出ておりましたが、決勝になり正体を明かしました。これについて聶さんは何かご存じでしょうか?』
『いやぁ炎帝こと、夏乃子ちゃんの性格からして目立ちたかった可能性もあり得ますが、なら最初から変装なんかしないで出ていたと思います。と、言う事は……?』
『という事は?』
『……いやぁ、やっぱわかりません。あははは』
『えぇぇぇ⁈』
「へぇ……ちゃんと最後まで残ったねぇ。偉い偉い!」
「はぁ……なんとか最後まで残ることができました」
俺はなんとかかんとか勝ち進み、決勝の舞台に上がる事ができた。
この時点で当初の目標であったハンターズ・ロアに参加するため日本代表になるという条件は、決勝に残ったことによりクリアした……したのにも関わらず、まだ安心できないでいた。
それは氷歌が言ったあの言葉のせいである。
氷歌は夏乃子さんに俺が決勝に残り、炎帝である夏乃子さんに勝つと言い切ったのだ。
そう言い切った氷歌からのプレッシャーが尋常じゃなかった……その後、ハンターになるための条件へのプレッシャーと、氷歌からのプレッシャーとの精神的な戦いが半端なく俺を追い込んだ。
課せられた俺のミッションは炎帝である夏乃子さんに勝って終わるのだ。
けど、予選中はプレッシャーに押しつぶされそうになったけど、決勝の舞台に立ってみると、不思議とプレッシャーは消えていた。
「あのさぁ、同い年なんだから、その敬語なんとかならないかなぁ?」
「いえいえ、炎帝に対して敬語を使わないなんて怖くて怖くて」
「別に気にしなくてもいいのに」
「あ、なら今からタメ語な」
「ふげっ⁈」
夏乃子はその場でバランスを崩す。
「き、切り替えが早いなぁ……氷歌ちゃんの幼馴染なだけはあるねぇ」
「あいつは関係ないからな。これが俺の素だ」
「OK! はーくんの素が出たところで、いっちょ楽しみますか?」
夏乃子はそう言うと、体から激しい炎が溢れ出す。
これが炎帝かぁ……と感心していると、さらに炎の勢いが激しさを増す。
けれど……
「どうしたのかな? めっきり喋らなくなって。怖気ついちゃったかな?」
夏乃子は茶目っ気たっぷりな素振りで俺を煽ってくる。
けれど、俺は至って冷静だった。
「まぁ、ハンターズ・ロアに参加が決まっている訳だし、ここで怪我をするのは嫌だろうから、棄権するのもいいと思うなぁ」
「はぁ……悪いがそれはできない相談だ」
「ほほぅ……棄権はしないって事は私に勝とうとしてるって事だよねぇ」
顔は笑ってはいるが、先程よりも炎の激しさが増している。
観客たちの中には熱いと言って服を脱ぐ者や、尋常じゃない量の汗をかいている者がいた。
「はーくんを怪我させても怒らないって氷歌ちゃんと約束したから、やるからには多少痛い目に合うよぉ」
「望むところだよ。 そんな事を怖がっていたら、逆に氷歌に痛い目に合うわ!」
「そ、そうですか……お互い氷歌ちゃんには苦労しますなぁ」
「俺と夏乃子とでは苦労の種類は違うと思うけど……まぁ、今は乗ってやるよ」
「あはっ! それでこそはーくんだわ! 最後にもう一度聞くけど、本っ当にいいんだね?」
「あぁ……二言はねぇよ」
「はぁ……私の優しさを拒みますかぁ……なら、やるからには、少しでも私を楽しませてよね~!」
「いや、その期待に応えられそうにないかな」
「えっ? 何か言ったぁ?」
俺は両手を前に出し構える。
「楽しむ間もなく、一方的に終わるよ」
俺の言葉を聞き、先程まで笑顔だった顔から笑顔が消え、それと同時に爆発音が響き渡る。
そして、すごい速さで夏乃子が俺に迫ってくるのであった。




