First match
「お前さっきから人の夢を否定ばかりしやがって⁈ そんなに幼馴染だというのが偉いのか⁈」
「いやいや、俺別に偉そうになんかしてませんって! う~ん、普通の夢だとかなら俺も応援したいし、むしろ、幼馴染のポジションを変えられるのであれば甘んじて交換しよう。だが、それができない以上苦しまない様に現実を受け止めて、普通のファンになってほしいんだよ……氷歌の」
「そ、そうだったのか、お、お前……そうだ、自己紹介がまだだったな。俺は土門 猛ってんだ。よろしくな」
「俺は市原 迅人です。こちらこそよろしく」
「よろしくな迅人……今のお前の言葉には嘘偽りは感じられなかった」
「いや、さっきから嘘は付いてませんけ――」
「いくぞ迅人おおおおおおお!!」
俺が全て言い切る前に、土門さんは腰を低く構え、俺に向け突進してくる。
お、さすがに選考会に出るだけの事はある。
この土門さんはまぁ強い部類に入るハンターなのであろうことが伺えた。
昔の俺ならびっくりして、何も出来ずに終わっていただろう。
だが、今の俺はちがう。
「な、今のを避けるか!」
「敵の攻撃にわざと当たるほど、お人好しではないんで」
「やるじゃねぇか、えぇ! ただの腰巾着のFランク野郎ではないみたいだなああああああああ!!」
土門さんは雄叫びを上げると、体が倍に膨れ上がる。
ほほう……強化系のハンターだったか……俺が避けた事でただの腰巾着ではないと悟ったみたいだ。
強化が終えると、俺を殺すと言わんばかりの目つき、殺気を俺にぶつけてくる。
けど……何も感じないな。
氷歌と比べたら、全然大した事ない。
こればかりは氷歌の地獄の特訓のおかげであろう。
俺は氷歌が見ている部屋をチラッと見る。
氷歌は表情を変えず、俺を見ている。
あ、こっちに向けて指を指している。
集中しろって事ですね、すいません。
「ほほう……余所見とか余裕だってか……後悔すんじゃねえええぞおおおおおおおお!!」
「おっ?」
土門さんは先ほどよりも速く俺に突進してくる。
体が大きくなり力も強くなったであろうから、捕まらない様に気を配る。
けれど、俺からしたらやる事はさっきと変わらない。
俺は目と鼻の先ほどしかない距離で土門さんの突進を避ける。
「うおおおおおおおおおお⁈」
土門さんは的には捕まえたと思ったのだろう……だが俺に避けられ勢いよく転がっていく。
土門さんは確かに強いんだろうが、攻撃が単調すぎて見切れてしまう。
俺の開幕戦、土門さんには悪いがとくに得るものはない。
なら終わりにしよう……さっきから氷歌さんが俺を見る目が怖いんで……
そんな奴早く倒してしまえと言わんばかりにプレッシャーをかけないでくださいよ。
俺は柔肌君なんですから……
「てめえ迅人! 逃げるしか能がねえのか⁈ やっぱお前は腰巾着のFランク野郎かっ⁈」
「あ、そんじゃ今度はこっちから行かせてもらいますね」
「あんっ⁈」
土門さんは俺が言った言葉に対し間抜けな声を出す。
ヒュンッ
「な、なにいいいいい⁈」
「土門さんいちいち声が大きいなぁ」
土門さんの体が大きくなった分、的も大きい。
俺は一瞬で土門さんの懐に入り込み、力を籠めた右手を土門さんの腹に撃ち込む。
「や、やるじゃ……ねぇ……か……ガフッ⁈」
土門さんは俺のワンパンを食らい、その場に崩れ、静かに倒れる。
土門さんの取り巻き達は先程までうるさかったのだが、あまりの出来事に静まり返っていた。
俺の開幕戦は危なげなく勝つことができたのであった。
「へぇ……やるじゃん氷歌ちゃんの推しの子」
「そうだねぇ。本当にFランクだったのかなぁ?」
「まぁ、2次覚醒したって事じゃないの?」
「そうだよねぇ……それしか考えられないねぇ」
「まぁ、氷歌ちゃんの推しの子だっていうから無理やり参加させてもらったけど、期待以上かもね」
「やめてよね……氷歌さんに黙って参加したのがバレてさっき怒られたでしょ」
「で、でも、ちゃんと許可は取ったんだしさ! 大丈夫だよきっと!」
「そのために私が同伴したんだけど……絶対に無茶だけはやめてよね」
「は、は~い」
「ちゃんと私の目を見て返事をしなさい!」
「あ、氷歌ちゃんの推しの子がこっちに来たよ~! 話しかけに行こう行こう!」
「あ、待って夏乃子ちゃん⁈ ちゃんと返事してくれないと私心配だよ~」




