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「俺と氷歌が付き合っているとか言い出した奴は誰だ? お前か? お前らの誰かか?」
俺が男の取り巻き達を指さすと、全員横に首を振りだす。
「俺は付き合ってはいない……たしかに、氷歌に推薦を貰いこの選考会に出させてもらった……だがそれだけだ」
「ほ、本当か? 本当なんだな⁈」
「本当だ……ただの幼馴染なだけだ」
「「「「「「「「「「「幼馴染ぃいいいいい⁈」」」」」」」」」」」
「な、なんだよ⁈」
兄貴と呼ばれる男とその取り巻き達はそう言うや否や同じ様に項垂れる。
「お、お前……その幼馴染というワードは反則だろうが……」
「い、いや、それは別にいいだろうが……」
「お前は分かっていない……幼馴染というポジションが……如何に大事なポジションかという事を……お前は分かっていない!! そして、もう一つ分かった……お前という男は信用ならないという事が! 言わせてもらうぞ! 今ここでお前をぶっ倒して俺が氷歌ちゃんの幼馴染というポジションに入り、俺が新しい幼馴染に……幼馴染に俺はなる!!」
「いやいや無理だろう……つか、どこぞの海賊〇を目指してる奴みたいに言うなよ」
俺は上で見ている氷歌を見ると、マジで引いてますというような顔をしている。
こいつら熱すぎる……いったいこいつらを駆り立てている熱量は一体何なんだとふと思った俺は、このままでは遺恨を残すと思い話を聞いてみる事にした。
「そもそもおたくら……氷歌の何がよくてそこまで熱くなってるんだ?」
俺がそう問い出すと、兄貴と呼ばれる男は静かに目を瞑り語り始めた。
「……俺達はゲートで狩りをしていた……だが突然俺達では手に負えないモンスターが現れ、ピンチを迎えていた……粘りに粘ったが、力も底をつき、もう終わりだと思ったその時、氷歌ちゃんが現れモンスターを氷漬けにして倒したのだ」
「おぉ……なるほど……それでそんなに熱く――」
「話はまだ終わっていない! モンスターを氷漬けにして倒したと同時に俺達も氷漬けにされたんだ!」
「おいおいおい」
俺は上で見ている氷歌に視線を向ける。
あ、あいつ俺が見てるの分かってるのに、顔を背けやがった。
「俺達は氷歌ちゃんにモンスターと同じ様に氷漬けにされた……それと同時に、無表情で一気に周りを気にせず、間髪入れず凍らす氷歌ちゃん……お前らがそこに居たのが悪いんだと言わんばかりの冷徹な眼差しに……俺達はファンになったのだ」
俺はもう一度氷歌に視線を送る。
氷歌は口を半開きの状態で引いた顔をしていた。
「だが、そんな氷歌ちゃんに推薦者が現れたというじゃないか⁈ かわいく、それでいてクールな氷歌ちゃんが⁈ 男の噂さえ一っつもなかった氷歌ちゃんが⁈ 氷帝となって一度も推薦者を出さなかった氷歌ちゃんがお前の様なFランク男を推薦する訳がないだろおおおおおおおおおがああああああああああ――!!」
ご、ごもっともな答えであって、俺は言い訳すら出てこなかった。
ただの幼馴染だから手を貸してくれている氷歌……俺はどこかで甘えていたのかもしれない……だが、俺にも譲れないモノがある。
「おたくらの言い分は分かったよ……けれどな、俺は今まで氷歌の幼馴染でよかったぁと思った事はあまりないぞ……今回を除いてはな」
「う、嘘をつくなああああああああああああ!! お前は分かっていない! 幼馴染というポジションがどれだけ、どれだけ重要なポジションなのかという事をおおおおお――!!」
「うっ⁈」
兄貴と呼ばれる男は友を侮辱され、友の名を呼びながら叫ぶ怒り狂う戦士の様に俺に向け幼馴染とはどの様なものなのかを熱く語りだし始めた。
その気迫の籠った演説に俺はたじろぐ。
けれど、何がいいのか分からない、頭に入ってこない俺……俺がいけないのか? 俺が悪いんだろうかとふと考えたが、そもそも俺にとってどうでもいい事なので、なんとか自分を見失わずに済んだ。
そうだ……俺には俺のやらなければいけない事があるだろうが!
本来の目的を見失いかけるところだった。
俺はここで引き下がるわけにはいかない!
つか話し合いで解決できそうもない……見た目もそうだが、自己完で済ませそうなタイプだ。
こういった場合は――
「話し合いで解決できそうにないな……俺は争いごとは好まないが、おたくとは戦って解決する他ないみたいだ」
「おうっ! 元から俺はそのつもりだ! 男なら拳で語り合おうじゃねぇか!」
俺と兄貴と呼ばれる男との戦いがやっと始まる。




