悪い予感は無駄に付き纏う
俺と始は溶岩が流れる場所まで移動していた。
ここに生息しているプチサラマンダーを捕まえにきていた。
プチサラマンダーの素材は結構高値で売れる。
その割には倒しやすく、俺達にはちょうどいい狩場となっていた。
なら、なぜ倒しやすい割には、高値で売れるのか?
グツグツ――
そう、この場所はマグマが大量に流れ、とてもじゃないが近寄るには余りにも暑すぎて近寄れない場所なのだ。
だから、ほとんどのハンターはこの狩場には近寄らない。
耐熱仕様のアーティファクトを持っていなければ蒸し焼きになってしまうからだ。
ぶっちゃけ、こういった環境に配慮がいるアーティファクトは莫大なお金がかかる。
すぐに手に入るような代物ではない。
だが、そんな物を持っていなくても大丈夫なのが俺の能力【順応】である。
前述でもお伝えしたと思うが、俺のこの【順応】は、環境や境遇の変化に従って性質や行動が合うように変化していく力である。
そして、この力はパーティーメンバーにも影響を与えてくれるのだ。
そして今、この力により、俺と始は、この暑さに順応し、快適な狩りを楽しんでいる。
「狩りをしているのはほとんど俺だけどな」
「そう言うなって~。俺だって本当は戦いたいんだけどさぁ、いかんせん戦闘能力は無いに等しいんだわな」
「そりゃ~大変だよなぁ。俺が近くにいてよかったな相棒」
「おう! ほんっと頼りにしてるぜぇ相棒」
「まぁ、その代わり、こうやって快適に高額モンスターを簡単に狩る事ができてるんだけどな」
「そうだぞ! 俺も始に感謝してるんだから、俺にも感謝しろよな」
「お互い様ってことだな」
「そうだな。お互いにちゃんとバランスが取れてる。この調子でいくぞ」
「お前は物陰で息を潜めているけどな……」
始はそう言いながらもプチサラマンダーを丁寧に狩っていく。
買取りの際、いい値で取引してもらうためにも、傷は少ない方がいいからだ。
始に関しては、手慣れているもんで、一刺しで息の根を止めている。
さすがとしか言いようがない。
「おーい。そろそろ戻るとしようか?」
俺が始の事を考えていると、戻ろうと始が言いだした。
「え、もうか?」
俺は携帯を取り出し、時間を確認するが、ゲートに入って5時間が経っていたが、いつもならあと3時間は狩りをしているはずだ。
「どうしたんだよ? いつもならまだ狩りをしてる時間だろう? 」
俺がそう聞くと、始は苦虫を嚙んだような表情になる。
「なにかさ、さっきから嫌な予感がするんだよ。このまま、このエリアにいたらヤバい事が起きそうな感じがさぁ」
「ほほぅ……それは興味深いですなぁ」
今のところ、いつも通りに狩りは進んでいる。
それに邪魔はない。
だが、それは今の段階でのことであって、今から起きるかもしれない。
しかも相棒はこういった事を何度も言うような男ではない。
なら、そういった事を言う男の発言を軽んじていいのだろうか?
否、決まっている!
「よし、帰ろう! こういった時は必ず嫌な事が起きる前の前兆って奴だ! 俺は相棒であるお前の言葉を信じる。さぁ狩ったモンスターを集めて、サッサっと帰ろうじゃないか」
「お、おおぅ……か、帰ろうか」
最初に言っとくけど、怖いとかじゃないからね。
相棒の意見を尊重してあげるのが相棒ってもんでしょうが!
念を押すようで申し訳ないんだけど、ほんっと、怖いとかじゃないんだからね!
言いたい事は言ったことだし、俺はすぐに狩ったばかりのモンスターを集める。
言ってなかったが、俺には【順応】の他にも得意な事がある。
それは高速で狩り終えたモンスターを搔き集めることだ。
この世界には収納袋が存在する。
収める大きさによって、収納袋の金額も変わってくる。
俺達は2人しかいないから、収納袋は俺が持つことになっているので、ドンドンと狩り終えたモンスターを収納していく。
始はそんな俺の姿を見て、一瞬止まっていたが、すぐに狩り終えたモンスターを集めていく。
「なぁ、迅人。全部拾い集めないで、早く帰ろうぜ」
「何言ってんだ! もう少しで全部集め終わるだろ!」
「そうだけどさぁ……」
「いいから、集めるのに集中するんだ! わかった?」
「わかったよ……ったく」
ぶっちゃけ、始が頑張って倒したモンスターを残して帰るのが嫌だったんだ。
俺は物陰で狩り終えるのを待っているだけの男。
始が頑張った成果をそのままにするのが許せなかった。
だが、後に、俺は後悔することになる。
始の言葉に従っていれば、後悔せずに済んだのに……
「ふぅ……あらかた入れ終わったかな?」
「……あぁ、そうだな」
「なんだよぉ、怒ってんのか?」
「……」
始からの返事がない。
やはり怒っているんだろうか?
俺は下を向き、どうやって始を宥めようかと考える。
「悪かったって! 確かに全部拾い集めようって言ったけどさ、俺はお前の頑張りを無下に――」
「シッ! 静かにしろ!」
「な、なんだよ⁈ そんなに怒っているのかよぉ……」
始を見ると、始は俺を見向きもしていなかった。
すごく真剣な表情で、俺とは逆の方を向いていた。
始のその表情が俺の気を一気に引き締まらせる。
「どうした?」
俺がそう聞くと、始はさらに険しい表情を浮かべ、呟く。
「迅人……まずい予感が的中した」
「はい?」
――ドドド
うん?
地面が揺れて――
ドドドドドドドドドォォォォォォォ――
「来たぞっ!」
「うわっ⁈」
地面の揺れが一気に大きくなる。
そして、始が見つめる先に、大量のモンスターが怒涛の如く迫ってきていた。