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trust

「それで、叶音姉が結婚するって言ってたけど、あれって俺を嵌めるための嘘なんだろ?」

「本当よ」

「マ、マジかよ……」


俺はテーブルに頭を乗せ落胆する。


「仕方がないわ……こればかりは。ちゃんと祝ってあげなさい。叶音お姉さまのお相手はとても良い人よ」

「知らね~よ……まだ会った事も無いのに、良い人よって言われても納得できる……叶音姉はその人の事ちゃんと好きなのか? 無理やり結婚――」

「ちゃんとした恋愛結婚よ。叶音お姉さまが大学に入りたての頃同じサークルで会ったと言っていたわ」

「そっか……叶音姉は……いやいや、それがなんだってんだ!」

「はぁ……叶音お姉さまは常に成績優秀なお方よ。最後まで成績はトップで首席で卒業を果たしたわ」

「やっぱ叶音姉はスゲーわ」

「……やるしかなかったのよ」

「え?」


急に声のトーンが低くなる氷歌……なんか気になるな?


「迅人が消息を絶って、叶音お姉さまは凄く悲しんだわ……それと同時に、あなたのお父様、お母様も酷く落ち込んでいたわ……けれど、そんな状況は良くないと思い、叶音お姉さまはさらに頑張った……笑顔を絶やさず頑張ったの……あなたが帰ってくる事を信じてね」

「……」

「叶音お姉さまの頑張りもあってお父様、お母様も元気を取り戻した。それは叶音お姉さまが必死になって頑張ったからここまで来れたの……どういう意味か分かるわよね? 迅人」

「……あぁ……分かるよ。今度は叶音姉が幸せになる番だ……そしてこの先は俺が頑張らなければならないってことも」

「分かってるならいいのよ。この5年間で何も成長していなかったら……叶音お姉さまの頑張りを理解できない様なら、私が分かるまでしごくつもりだったから。ちなみに叶音お姉さまの旦那さんは、辛い時期を親身になって助けてくれていたわ。今では叶音お姉さまは大企業で働き、旦那さんは官僚よ」

「怖っ⁈ 相変わらず……怖いけど優しいな。 叶音姉はさすがだと言いたいけど、い、一度も会った事のない奴の事を今言われても……でも感謝はするよ……それと、ありがとな……氷歌にも迷惑かけたみたいで」

「私は迷惑だなんて思た事一度もないわ。だって、私からしたら、迅人の家族は私の家族の様なものよ。 それよりも、迅人、あなたよ」

「俺?」

「私は今まであなたを見守ってきた。そして、あなたが消息を絶って痛感したの……このままではいけないって」


俺は何も言わず氷歌の言葉に耳を傾ける。


「あなたに口うるさく接してきた……それはあなたが嫌いだからではない。けれどもそれだけではダメだって痛感させられたわ……あなたがいなくなってね」

「心配ばかりをかけて申し訳ない……」

「仕方がないわ……弟だもの。弟の心配をするのも姉の務めだから」

「俺はお前を姉だなんて一度も思った事はない! むしろ俺の方が先に産まれたんだからな!」

「私はあなたのおむつも、身の回りの事も1歳の頃からやってあげてたけど? あの頃は『ねえねねえね』って言ってかわいかったわ」

「話が逸れてっから! 話を戻せ!」


昔の話をされても恥ずかしくて仕方がないし、こうも言われたら俺には勝ち目がない。


「そうね……話を戻します。 迅人、あなたは戻ってきた。昔とは違い力も付けて……なら証明しなさい」

「証明?」

「今度日本で大規模な大会があります」

「大会って……この時期だとあれか?」

「そう……4年に一度行われる祭典……ハンターズ・ロア……その日本代表になってみなさい」

「に、日本代表⁈ 俺がっ⁈」


俺が驚いていると、氷歌の雰囲気がガラッと変わる。

俺はつい身構えてしまう。


「そう……もし日本代表に選ばれなければ、迅人……あなたにはハンターを辞めてもらいます」

「な、なんでそうなるんだよ⁈」

「わからない? あなたが消息を絶って、どれだけの人達が悲しんだか? 叶音お姉さまと始を除き、ハンターになるのを皆反対した。けれども最終的にはあなたを信じてハンターになるのを許した。そしてあなたはいなくなった……」

「うっ……」


何も言えねぇ……

そうだ……俺はみんなの反対を押し切ってハンターになった……そして、5年もの間消息を絶った。

あの出来事は俺と始のせいではなかったが、俺の危機管理が足りなかったせいでああなったことは反省しなければいけない。

そして、今回のことで俺の信頼も落ちた事もちゃんと受け止めければ……


しかし、氷歌がこの様に言ってくれたことに俺は驚いた。

見つかったらハンターを辞めさせられると思って、こういった行動を取ったのに、氷歌は逆に道を作ってくれた。


「私がすぐにハンターを辞めさせると思った様な顔をしているわね」

「うっ⁈」


俺が考えていた事をズバリ言い当てる氷歌にビクつく。


「あなたは反対を押し切ってまでハンターをやるって言ったでしょ?」

「あぁ……確かに言った……でも氷歌だって――」

「反対されたぐらいで諦めちゃう様なら最初からやらない方がいいと思ったからずっと発破を掛けていたのよ。そんな心意気なら目に見えているから。それに、一度決めたことを簡単に諦めてしまう様な男に私は育てた覚えはないわ」

「お前は俺の母ちゃんか?」

「うるさい。あんたは周囲の反対を押し切ってまでやると決めたのだから最後までやり切りなさい。もしまだハンターとして活動したいのなら、信頼を取り戻しなさい。そして私たちに証明なさい……あなたが私たちに心配されない様なハンターだという事を」


「証明……」


俺はみんなの信頼を裏切ったのは確かだ。

失った信頼を取り戻すにはそれ相応の評価が必要になる。

氷歌は俺がハンターとして諦めていないと分かって、敢えて厳しい道のりを用意してくれていた。

確かにそうだ……これぐらいやらなければ、毎度皆を心配させてしまう。

俺には覚悟が足りなかった……覚悟を決めろ……そして誓うんだ。

もう二度とみんなの信頼を裏切る事のないハンターだと証明すると。


「分かった……やるよ俺」

「気持ちは固まったみたいね……言っとくけど、日本代表になれなかったら本当にハンターは辞めてもらうからね」


そう言った瞬間、氷歌が笑う。

笑みが怖い……はっ⁈ ま、まさか⁈


「今さら気付いても遅いわよ。 もう逃げ道は断ったからね」

「ひょ、氷歌さん⁈」

「そうでもしなければ重い腰を上げないでしょ」

「うっ⁈」


な、何も言えない自分が情けなく思う反面、俺の事を考えてくれている氷歌に心の中で感謝した。


お読みいただきありがとうございました。








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