Those that do not change
俺は氷歌の罠にまんまと嵌り、俺にかけていた魔法を解き、通常の状態に戻る。
「すごいわね。いつからそんな事ができるようになったの?」
「わからんよ……いつできたのか……それよりも、いつから分かってたんだ? 俺だって?」
「最初からよ」
「さ、最初からって」
「この街に来て、あなたと目が合った時からよ」
「お、お前怖……じゃなくて、さすがはSクラスハンターってとこか……俺の目を見ただけで俺だって分かるんだもんなぁ」
「ありがとう。まぁ、長い間あなたを見てきたんだもの。魔法ごときで私を欺く事なんか出来はしないわ。それよりも、ちゃんと説明してくれるのよね? この5年もの間、いったい何があったのか?」
そう言った途端、先程まで優しそうな雰囲気だったのが一変し、殺伐とした雰囲気へと変貌する。
この雰囲気に俺の体は縮み込んでしまう。
ちなみにレストランにいるのは俺と氷歌だけだ。
氷歌がこの店を急遽貸し切ったからだ。
これもSランクハンターの特権みたいなもので、店長に一日の平均売り上げを聞き、店長が言った倍の金額をポンッと氷歌は渡したのだ。
だから今は俺と氷歌の二人っきりというわけだ。
俺は黙々と、空白の5年間を話した。
マグマに落ち、俺の力【順応】を使い、ボロボロになりながらも生き長らえた事。
龍に会い、力を貰った事。
そして、時間の流れの感覚が俺と氷歌達とでは違う事。
話をしている間氷歌は静かに俺の話を遮ることなく聞いていた。
俺はボコボコにされると思っていたのだが、そのような事はなかった。
意外過ぎて逆に怖かった……
全てを話し終えると、氷歌は静かに目を瞑り、考え事をしている様に思えた。
龍の心についても、虚ろわざる者の話も話した。
まぁ、俺の独断なんだけどさ……氷歌はメチャクチャだが信用はできる。
俺は氷歌が目を閉じて考えている姿を見て、こう静かにしてる分は綺麗なんだよなぁと考えていた。
氷歌は人間とアイスエルフとの間に生まれたハーフである。
ちなみに父親は日本人である。
エルフにも様々な種族があるが、どの種族も美男美女だ。
エルフは尖がり耳であるが、氷歌は人間よりのアイスエルフであるので、耳は尖がってはいない。
髪の毛は白銀色で、瞳の色はエメラルドグリーン、そして、肌の色は雪の様にとは言わないが透明感のある白い肌。
昔から氷歌はモテモテで、告られる度に告白してきた男を氷漬けにする光景を何度も目撃していた。
そして、なぜか氷歌はいつも俺の傍にいるため、付き合っているのかと聞かれる度にそれは無いと言っていても、それを信じない男達はよく俺にちょっかいを出してきていた。
だが、その度にそんな奴らを氷歌はコテンパンにしていた。
ぶっちゃけ、とばっちりが来るが、そのとばっちりを片付けていたのも本人である氷歌である。
しかも、俺がピンチの時は必ず駆けつけるのだ。
当時はすごくかっこいいなと思ってはいたが、今思えば不思議だな~と思う。
そんな事を思っていると、氷歌が目を開けこちらを見つめる。
俺は背筋を伸ばし、どの様な言葉が来てもいいように身構える。
基本こんな突拍子もない話を誰が信じる――
「分かったわ……迅人の話を信じます」
「……えっ⁈」
「何かおかしいかしら?」
意外な言葉に俺は頭が一瞬真っ白になる。
こんな話を信じられるかと拳の10発ぐらいは覚悟していたのだが……
「あ、いや、ちょっと拍子抜けしたというか……こんな突拍子もない話を信じるのかって思ったんだよ」
「何を言ってるの? 私の母はアイスエルフよ。この地球にゲートが現れる前はアイスエルフなんて物語の中だけの種族だったのよ。それがゲートが現れた事で様々な種族、モンスター、資源、魔法……今まで空想上だったものが現実になって溢れかえっている。あなたの言う事もその1つ。私からしたらそうだったのねで終わるような他愛無い話よ」
「そ、そうですか……」
氷歌の良い所の1つはこういった話を怒鳴らずに淡々と受け入れる器のデカい所だ。
嘘や冷やかし、道義に反した事はちゃんと言える氷歌が、俺の話を信じてくれた事が嬉しかった。
「それにね」
「それに?」
氷歌は肘をテーブルに置き、両手を組み、その上に顎を乗せる。
「あんたは私に嘘は付けないから」
「そ、そうでしたね……ははは」
「まぁ、嘘を付いてもすぐに分かるから」
そう言うと、氷歌はニコッと笑顔を見せる。
そして――
「お帰りなさい、迅人」
「お、おう……ただいま」
その何気ない一言が俺にはとても暖かく感じたのであった。
この5年間で氷歌は優しく――
「あ、あと、私を欺こうとした罰……楽しみにしときなさいね」
「は、ははははは……はぁ」
その一言を言った時の氷歌の顔は昔と変わらない笑みだった。
外見はすごく変わったが、とくに中身が変わってなくて安心した俺なのであった……
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