tactics are not good
こんなあからさまに今考えましたって名前でなんとかなるのか?
俺は自分で言っときながら疑心暗鬼になる。
「夕張さんはどことなく私の幼馴染に似てるの。あぁ、顔や声なんかは全然似てはいないのだけど、どことなく面影があるのよねぇ」
「へ、へぇ……そ、そうなんですね」
俺は内心ドキッとしながら、なんとかポーカーフェイスを保つ。
いや、嘘だ。
滅茶苦茶動揺を隠しきれていない!
顔にも出てるよぉ~絶対に!
「あら? 大丈夫? 汗が尋常じゃない程出てるけど」
「あ、お気になさらないでください。自分は暑がりなもので。ははは」
「そう……少し体温を下げてあげるわ」
「へっ?」
氷歌はそう言うと、俺と氷歌の周囲だけが急に冷え始める。
俺は昔の事を思い出していた。
幼少期、夏真っ盛りの時に俺は熱中症になり、倒れた事があった。
そんな時、氷歌は今の様に周囲を冷やしては俺を看病してくれたのを思い出した。
ちなみに氷も作ってくれて食べさせてくれたっけ……
「ここに到着した時、まず最初にあなたと目が合ったの」
「へっ? あ、そ、そうでしたっけ?」
くそ……目がめちゃくちゃ合いましたよ……すぐに隠れたけどさ。
「あなたと目が合った時、私の幼馴染を思い出したのよ……あの怯えた様な目が似てるなって」
その瞬間、良い感じで冷えていたのが、ガクンっと一気に冷えだす。
「へ、へぇ……じ、自分は小心者なんでいつもビクついてるんですよ~ははは」
「それって私の幼馴染も小心者って言ってるのかしら?」
「そ、そんな事を言ってません! 言ってません!!」
さらに温度は冷えていく。
まずい……このままじゃ、凍死しちまう。
何か、何か考えんといかん!
「ここに来た理由はね……先程話した幼馴染の事でここに来たの」
「そ、そうなんですね」
「そう……その幼馴染は5年前に消息を絶ったの」
「そ、それは……ざ、残念でしたね」
「いいえ。 消息を絶った日に、幼馴染の友人君に聞いたんだけどね。必ず戻ると言ったらしいのよ。その言葉を聞かなければその友人は死……じゃなかった。その話を聞かなかったら私は手を止めなかったわ」
ラグナさんから聞いた話通りだ……始……お前よく頑張ったなぁ……偉いぞ。
よく最後の最後に氷歌を納得させる一言を絞り出した。
俺は心の中で始にめちゃくちゃ謝った。そして泣いていた……心の中でね。そしてこうも思った……生き抜いてくれてありがとうと。
「その言葉を聞いて私は殴るのを止め、今後の事について考える事にしたの」
「こ、今後の事……ですか?」
「えぇ……私の知る幼馴染は約束を破る様な子じゃないの。そして嘘も付かないの……まぁ、そんな事をしたらどうなるかを教えたのは私なんだけど……そこで私はありとあらゆる力を使い、包囲網を敷いたわ」
「ほ、包囲網ですか?」
「そう……その幼馴染の手掛かりになり得る情報が全て私に入るように……ね」
そうだ……俺はミスを既に犯していた事に気付く。
俺の誤算は……5年もの年月が、俺の予想を遥かに上回る勢いで氷歌が力を伸ばしていた事だ。
氷歌は1歳の頃から卓越した能力者だった。
母から聞いた話だが、俺がまだ1歳でまだ立っていない時、氷歌は既に立ち、俺のおむつを替えてくれていたらしい。
そんな話信じられるかって思うだろう。だがこの話は本当だ……ちゃんと携帯のカメラに残っていて見せられた。
そこからすぐに氷歌はSランクハンターと認定され、それと同時に人脈にも力も自然と付いていく。
だって天才少女だぜ? みんなその恩恵にあやかりたいと思うのが普通だろ?
幾度となく氷歌を出し抜く度にすぐに見破られ、その度に俺は氷歌に……すまない……言葉では言い表せん。
とにかく俺は氷歌に逆らえんということだ。
力も……人脈もだ。
「5年もの間、何の手がかりもなかったの……けど、今日ある情報が私の目に入ってきたわ……なんと幼馴染名義のカードからお金が下ろされたって」
「ほ、ほんとですか? じゃ、じゃあその幼馴染は約束通り戻ってきたんですかねぇ?」
「……それがね、確認したら別人がお金を下ろしていたの」
「べ、別人がですかぁ? そ、それはよくないですねぇ」
「そうねぇ……でもね、考えたの」
「な、何をですか?」
「5年もの間、何があってもおかしくないって……異世界で消息を絶ったんですもの。私の知らないような魔法を使って別人になりすまし、お金を下ろしたんじゃないかって」
「へ、へぇ……」
なんも言えねぇ……全部氷歌の推理通りに俺は動いているじゃねぇか!
怖すぎるだろうお前……
「幼馴染は私の事を上手く欺いたつもりかもしれないけど、お金を下ろす前にも情報が入っていたのよ」
俺はその話を聞いた瞬間、あのイケメン好青年が脳裏に現れる。
「いつもガセネタが飛び交っている毎日に嫌気を刺していたわ……けれど今日、消息を絶ったゲートから幼馴染らしき人物を見たって情報が入った矢先に、幼馴染名義のカードでお金を下ろされたって連絡が私の耳に入った……確証を持てなかった私はこの情報を聞いた瞬間確信に変わったわ」
そう言うと、氷歌の目つきが柔らかくなり、笑みを見せる。
「そして、ここに到着してまずあなたと目が合ったと言ったわよね?」
「そ、そうだったかなぁ~」
「それとこうも言ったわ……私を見る目が幼馴染に似てるって……その私を見る怯えた目がね」
「そ、そうかなぁ? あなたのような有名なSランクハンターの前では皆その様な目で見てしまうのではありませんかねぇ?」
「見分ける事は容易いわ……まぁ、感覚の問題なんだけどね」
「へ、へぇ」
ま、まだ大丈夫だ! ぶっちゃけこういう話をしているって事は俺を疑っているが、確証が持てていない証拠でもある。
だが、俺が戻ってきた事だけは知られてしまった。
とにかく俺が変装していることさえなんとか……俺がこのままヘマさえこかなければいいってことだ。
もう喋るの止めようかな……そしたらさらに怪しく思われるかな?
喋ったらボロが出ちゃいそうで怖い――
「あ、そうそう! 叶音お姉さま結婚が決まったそうよ」
「どこの馬の骨が叶音姉と結婚するだってえええ⁈」
「久しぶりねぇ……は・や・と」
氷歌は俺に勝ち誇った様な笑みを見せる。
俺は自分からボロを出し、自分の馬鹿さ加減に嫌気が差した……俺は静かに席に座るのであった。
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