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two goodbyes

「わかったのだ……この世界に、私はいるべきではないと」


ラグナさんはそう言うと寂しそうな表情が見えた。

そりゃそうだ……大好きな人間たちとやっと打ち解けあったというのに、自分から身をまた潜めなければならない……酷すぎる。


「体に鞭を打ち、私は時空に裂け目を開け、今にも爆発しそうな虚ろわざる者の遺体を移動させようとした私にイーサンは怒鳴ってきた。私がそこまで犠牲を強いる事はないと泣きながら言ってきた。初めて見た……イーサンの泣き顔は……いつもどんな時でも泣かなかった男が初めて私の前で泣いたのだ……いつも人前では笑顔を絶やさず、そして勇猛果敢な男……だが私は知っていた……いつもみんなに心配をさせないために影で泣いていた事を……私は人目を憚らず泣きじゃくるイーサンの頭を優しく撫でていた。ここにいるメンバーの中で、一番古い付き合いといえばイーサンになる。イーサンがまだ赤子だった頃から成長を見守ってきた。私には子どもはいないが、どこかでイーサンを息子のように思っていた……いや、自慢の息子だ」


ラグナさんはその時の事を思い出し、優しい表情になる。


「だからこそ今から始まる新時代にイーサンは必要であり、死んではならないと思った。だが、イーサンは私の束縛魔法に抗い、一緒に行くと言い出した。私は心を鬼にし、イーサンを吹き飛ばし、その隙に時空の裂け目に移動し、すぐに時空の裂け目を閉じる。ろくなさよならも言えずに……そして、時空の裂け目を閉じたと同時に爆発したが、私は自身にバリアを張り、難を逃れた……だが、その後だ」


爆発した遺体に毒も含まれていた……それもかなり強力な毒だ。

だがラグナさんならすぐに治癒魔法を使えば治るのだが、杭が刺さった状態で毒ガスを吸ってしまった事で治癒魔法をかけられなかったのだ。

なぜなら、抜こうにも抜けなかった杭には呪術が仕込まれていた。

その杭は毒と合わさる事により、より強固になり、杭は抜けなくなり、治癒魔法を使用するものなら、強烈な激痛がラグナさんを襲う仕組みになっていた……確実にラグナさんを殺すために……。


「私はもう一度時空に裂け目を開け、人が来ぬ場所……この場所で最後を迎えようと思った。この毒は周囲にも影響を及ぼす恐れがあったためだ。まぁ、そなたは順応したみたいだから大丈夫なのだがな」

「え、そんなの聞いてませんよ……ま、まぁ、大丈夫ならいいんですけどね」

「私を蝕んできた毒も弱まり、長年少しずつ中和してきた甲斐もあって、其方の力がすぐに毒に順応したのであろう。よかったな」


少しずつと言ってはいるが、並大抵の痛みではなかったはずだ。

ラグナさんみたいな強い精神をお持ちの方だからできる事であり、普通の人なら痛みで死んでしまうであろう……


「結果良ければすべて良しにはなりませんからね。今回だけは許します」

「さすがは迅人よ! 器がデカくて助かる。……もっと話したかったが、そろそろ私に残された時間も少なくなってきたみたいだ」


そう……ラグナさんの体が徐々に粒子となって消えていっているのだ。

そして、ラグナさんは爪を立て、俺の胸に当てる。


「虚ろわざる者は様々な世界にいる。迅人の世界にもいるはずだ。だが、私もただここで延命していたわけではない。迅人が龍の心を持っていることを隠蔽できる魔法をかけておいた。時間があればその魔法をもっと強化するといい……私の記録と記憶をもとにな」

「わかりました。ちゃんと有効活用させていただきます!」

「うむ、最後に、其方の様な人間に会えてよかった。迅人よ……其方ならどんな困難にも負けはせんだろう。もし、挫けそうになった時は、其方の力を信じよ……『適応者』よ」

「え、適応者ってなんですか?」

「ふっふっふ……今はまだ知らなくてもよい。自ずと己の運命を知ることになろう」


そう言い出すと、ラグナさんは急速に消えていく。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 最後の最後に意味不な事を言って逝かないでくださいよっ!!」

「はっはっは! さらばだ迅人よ! 人生を謳歌するがよい!!」

「ちょ、ちょっと、待ってください⁈ あぁ~もぅ! ラグナさん! 短い間でしたが、ありがとうがざいました!」


そう言い残し、ラグナさんは笑顔で消えていった……最後の最後に疑問だけを残して……

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