Fairy Tale
「いやはや、ボコボコな上にボロボロじゃないですか~」
俺の姿を見て笑みを見せるベル。
「普通はさ、こんな姿を見て、心配するんだと思うんだぁ。 ちなみにボコボコとボロボロある意味両方同じ意味な」
「まぁまぁ、ただただボコボコな上に、ボロボロになったわけではないんでしょ? ちゃんと得るものがあったわけですから、よかったじゃないですか~」
「そりゃそうだけど……で、俺を待っていたみたいだけど」
「えぇ、待っていましたとも。 アンジーとクラナさんがお待ちですので、お越しくださいとのことです」
「クラナが?」
「はい」
「なんだろう? アジーンに何かあったのかな?」
「左様です」
「う、うそっ⁈ 何があったの?」
「行ってみたら分かりますよ。 ささ、行きましょう。 ここで話をしていたら、あの二人に呼び戻されてしまいますよ」
「えっ?」
俺が振り返って見ると、二人は腕を組んでこちらを見ていた。
ランスさんは笑顔で、マーヴェリックさんは眉間に皺を寄せていた。
マーヴェリックさんの表情から、ある程度は読めるが、ランスさんは読めない。
表情から読めない事は多々あるが、ランスさんはさらに怖い。
そんな事を考えていたら、ベルはそそくさと歩いて行ってしまった。
俺は急いでベルの後を追う。
「一体、何があったんだよ」
ベルは普通に歩いている様に見えて、もの凄い速さで歩いている。
俺は巻かれまいと必死に後を追う事で、すぐにクラナがいる場所へと到着する事ができた。
だが、それとなく疲れてしまい、膝に手を置き、下を向いてしまう。
「よく見失う事無く着いて来れましたね」
「ハァ、ハァ……なんで歩いてるだけに見えているの……に……そんなに早く……動けるんだ」
「これも日々の鍛錬を欠かしていないからですよ」
「ここの人達は普通じゃないって事だけは理解していたけど……謎が多すぎる上に、闇が―――」
「お―――っと! それ以上、心の声を出さない方がいいと思いますよ~」
「あ、心の声が出てた?」
「はい。 ささ! クラナさん達がお待ちですから、早く行ってください」
「あ、いっけね! 案内ありがとベル」
「ふふふ……どういたしまして。 あ、食事楽しみにしてますね」
「あん? あぁ、食事ね。 いつにしようか?」
「私はいつでも構いませんよ」
「あ、そう? ハァハァ……なら時間が決まったら連絡するよ。 場所はベルに任せていいかい?」
「わかりました。 とびっきり美味しい場所を考えておきます。 では、ご連絡楽しみにお待ちしております」
「ははは、楽しみだなんて……あれ? いない⁈」
俺が視線を上に移したらそこにベルの姿はなかった。
「……ここの人達は絶対に普通じゃない」
息を整え、クラナのいる場所まで歩いていると、先程とは打って変わり、騒がしい。
周りを見渡すと、所々壊れている場所が見受けられた。
「俺がいた時は壊れていなかったのに……俺がボコられている間に何があったんだ?」
俺が不思議がっていると、クラナとアンジーが一緒にいた。
なんだか空気が重たい様な?
「お待たせしました。 俺を呼んでいるとベルから聞いたんですけど」
「あ、迅人っ! うわっ⁈ ボロボロだね」
「お、来たね。 ははぁ~、ボコボコにやられたみたいだねぇ」
2人は俺の顔を見るなり、すぐに笑顔になるが、一人はボロボロと言い、もう一人はボコボコだと言う。
先程の険悪なムードはどこへやら。
まぁ、笑顔になるのなら別に気にしないでおこう。
「っで、何かあったんですか?」
「何かあったなんてもんじゃないよ」
「うんうん! 僕もこんなん事初めてで、ビックリしたんだから」
「一体何があったんですか?」
俺がそう聞くと、また重っ苦しい空気へと変わる。
「え、な、なんですか? 二人して黙っちゃって。 ああぁ~……もしかして、アジーンが独りでに動いたとかですか? なんちゃってそんな事―――」
「そのまさかだよ」
「うんうん」
「え、また」
「またってどういう事だい?」
「あ、いえ、アジーンと出会った時、誰もコックピットに入っていないのに、動き出したんです。 俺を」
「あ、そうだったね。 すっかり忘れてたよ~僕」
「いや忘れるなよ。 まぁ、あれだけ体に負担がかかった状態だったから仕方がないか。 っで、アジーンが動き出してこの様な状態になったと」
「そうゆう事だ」
「大変だったんだよ! まだ修理が完璧じゃないのに、動き出すわ―――」
「アジーンを止めるのに機兵で止めようにも、止まる素振りはないわ―――」
「もうね、まるで、迅人に危険が迫ってるんじゃないかってぐらいの勢いで、機兵の静止を振り切ろうとしてたんだから」
「うっ⁈」
「あん? どうしたんだい? 急に胸に手をやって? まだ本調子ではないのなら医者を呼ぶ……その顔は身に覚えがある顔だね」
「は、はい」
クラナの言葉を聞いて、身に覚えがあり過ぎて、胸が締め付けられた。
それと同時に顔に出してしまった。
話を聞いていた所、どうやら俺がマーヴェリックさんにボコボコにやられている時と、アジーンが独りでに動き出したタイミングがドンピシャである事が伺えた。
その事をアンジーに伝えると、額に手をやり、溜息を吐いていた。
「すまないねぇ……うちのバカ旦那と、娘がやり過ぎたみたいで」
「いえ、まぁ、多少、いや、だいぶブッ飛んでますが、おかげで『別天領域』と『幻冥領域』の二つを習得できました」
「なっ⁈ 『別天領域』と『幻冥領域』を今日中にマスターしたってのかい⁈」
「はぁ……まぁ、ボコボコにはされましたけどね」
「時間がないからって、ったく・・・・・・あの二人はその事について何も話はしなかったのかい?」
「とくに……無いですね」
「あんの二人は……後でとっちめないといけないねぇ・・・・・・」
「え? 何か言いましたか?」
「いんや、何でもない。 それより、体は大丈夫かい?」
急にアンジーが俺の体を心配しだす。
「いえ、とくに」
「そうかい。 頑丈に産んでくれたご両親に感謝しとくんだよ」
「あ、はぁ……わかりました」
突然両親に感謝するんだと言われたが、なぜ?
俺がそんな事を考えていると、袖を引っ張られる感触があり、下を見ると、クラナが心配そうに俺を見ていた。
「迅人……大丈夫? 本当にどこも痛くない?」
「あぁ。 俺は至って平気だよ。 心配かけてごめんな」
「うぅん。 大丈夫ならいいんだ。 へへっ」
「迅人が大丈夫そうなら、話を戻そうかね」
「あ、はい。 お願いします」
アンジーがそう言うと、視線をアジーンへと移す。
「長い間、機兵を見てきたあたしだけど……迅人の機兵……アジーンは……その辺にある機兵とは作りが違う。 そして、魔導騎兵でも、ましてや古代機兵かと言ったらそうでもない」
「じゃ、じゃぁ何なんですか?」
「両方だよ」
「え?」
「そう……両方の技術が合わさっているんだ。 だが、それだけじゃない」
「それだけじゃない?」
「そう。 この子のブラックボックスを拝見したけどね。 数が多い上に、見た事もない技術がそこら中に備えられていたんだよ」
「それにね! かといって、魔導騎兵かと言われたら、違うし、なら古代機兵って言われたらう~んって悩んじゃう」
「謎が多いって事……ですか?」
「バランスが丁度なんだよ」
「バランスが丁度?」
「そう。 魔導騎兵に使われている技術と、古代機兵に使われている技術が丁度いいバランスで使われているんだよ」
「僕も何か違和感を感じていたんだけど、アンジーに言われてそれだって! 違和感の正体はそれだって気付いたんだ」
「まぁ、今現在、わかっている事を言わせてもらうけど、アジーンは、魔導騎兵と古代機兵を合わせたハイブリッドだって事さ。 けど、率直に言ったら、まだ分からない事だらけだ……けど」
「けど?」
「あたしがまだ小さい頃、ばあさんから聞いた童話に出てくる機兵に似ているんだよ」
「童話……ですか?」
「そう……お伽話さ。 だからあまり鵜呑みにはしないで聞いてはほしくはないんだけどね」
「いえいえ! 俺そういう童話みたいなの好きです! それで、その童話に出てくる機兵とは何なんですか?」
俺がそう言うと、アンジーはアジーンを見つめ、こう呟いた。
「神殺し」
お読みいただきありがとうございました。




