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2つの領域

簡潔に言おう……

あれから休まずぶっ通しで訓練しているが、ぶっちゃけボッコボコのボッコですわ……俺が。


「ふぐっ……うぅぅ……」

「何ウソ泣きをしているのですか? ウソ泣きをしている時間が持ったいないとは思わないのですか?」

「うぅぅ……くそ……何でウソ泣きだってバレたんだよぉぉぉ……こういう時に限って涙が出ねぇ……」


情けないとは思うよ……そんな姑息な事するなよって思うのも分かるよ。

でもさ、ほんとに何してもマーヴェリックさんに触る事すらできないんだよ。

マーヴェリックさんの拳を掴んだところから、ギアチェンジしたのかって位動きが追えなくなっていったマーヴェリックさん。

いったいどんだけのシフトチェンジ機能をお持ちになっているのか……


「目で追っている内は、私には掠りもしないと考えておくといい」

「目で追っている内、ですか?」

「そう。 目に見えてるモノだけが真実ではない」

「それはどうしたらできる様になるのでしょうか?」


偉人が言っていた言葉を思い出した。

考えるな……感じるんだ。

だが、そう簡単にできたらどれだけ嬉しいことか。

すると、俺ができる様になるのかと聞いた途端、殴り続けていた拳が止まる。


「できる様になりたいのか?」

「は、はい……できる様になるなら」

「……そうか……なら―――」

「なら?」

「今以上に殴られ続けていればその内感じるだろう」

「まさかの体育会系+理不尽発言⁈」


先程よりも鋭く、重さの乗った拳が俺を打ち付け、一方的な暴行が再開しだした。


「ぐ、ぐおぉぉぉ」


この機兵は殴られた分だけ衝撃がモロに体に伝わってくる。

そして、先程以上の殺気が俺を射殺さんとばかりに俺を狙って……あれ?

なんだ、この感覚は?

先程よりもマーヴェリックさんの動きが見えて―――


「どうやら感覚が研ぎ澄まされてきたみたいだな。 ギアを上げるぞ」

「あれ? マーヴェリックさんの動きが早すぎて全ッ然見えないなあああ!!」

「そうか……ならこれまで同様に、いや、それ以上に殴られ続けているがいい!!」

「クソがッ⁈」






うん?






何だこの感覚は?

目の前にはマーヴェリックさんの拳が俺目掛けて飛んできている。

だが、止まっている。

いや、微妙に動いているぞ。

しかもこの細い糸のような淡く光るラインは何だ?

そのラインを眼で辿ると、機兵の眉間に目掛けてくっ付いていた。

もしかして……これがマーヴェリックさんの言っていた事なのか?

俺はすぐにこの状況を理解し、この感覚が切れない内に避け、え、あれ?

避けようと思っているのに動かないぞ⁈

あ、やばい、マーヴェリックさんの拳がもうすぐそこまで来ちまっている!

あ、当たる⁈


「ふんぬああああ―――⁈」

 

ゴオオオ―――ンッ⁈


「ほぅ……」

「はぁはぁはぁ……危なかった」


俺はギリギリのところで、首を傾け、直撃を回避できた。

俺の後ろにある壁は蜘蛛の巣の様にボロボロに砕けていた。

うわ……しかもマーヴェリックさんの拳壁にめり込んでじゃん。

もし直撃していたらこの機兵の頭は形を成していなかっただろうし、衝撃も半端なかったと思う。

あ、やばい、避けた安堵から視線をマーヴェリックさんから逸らしてしまった。

次の攻撃に備えなくては―――


ボコッ


「えっ?」


壁にめり込んだ拳がゆっくりと抜け、危惧していた攻撃が来ない。


「まさかたったの数時間で理解したみたいですね」

「何をですか?」

「私の拳を避けたではありませんか」

「そ、それはたまたま―――」

「あなた程度が私の拳を避ける事は到底無理な話だと気付いているはずです」

「は、はい……気付いておりました」


何気にショックを受ける俺……だが、なぜか最初程、俺に対してのマーヴェリックさんにあった刺々しさはあまり感じなくなったように感じた。


「……一瞬ですが、自分の世界、感覚がスローモーションになったのではありませんか?」

「は、はい! そうなんです」

「その世界に入れてやっと機兵乗りとしてのスタートラインに立ったとされるのです」

「ス、スタートライン?」

「我々はその世界を『別天領域(レギオン)』と呼んでいます」

「『別天領域』……」

「はい。 この世界に入れるか入れないかで、機兵戦はすぐに決着がつきます」

「だから俺は一方的に殴られていたって事ですか?」

「はい。 この世界に入る事により、相手の一手先が読みやすくなります」

「そんな事が可能なら、機兵戦は無敵じゃないですか」

「そう上手くはいかないのも機兵戦なんだよ」


そこで俺とマーヴェリックさんの会話に入ってきたのはランスさん。


「その世界にも自分よりも上手な強者はいるもんだ。 それが自然の摂理と同様に、その世界に対抗する手段はいつの世にも生まれるものさ」

「対抗手段……ですか?」

「はい。 『別天領域』は相手の攻撃を予測する世界。 そして、その予測を錯乱させる世界。 それが『幻冥領域(プルート)』です」

「『幻冥領域』ですか……また新しい言葉が出てきましたね」

「ただ機兵に乗るだけなら、別に覚えなくてもいい単語さ。 けど、少なくとも、強者はこの2つを使い分けて戦っている。 それがどういう意味かわかるだろう?」

「はい……痛い程分かります。 覚えなきゃいけない……ローガンとの事ですよね」

「察していたかい。 そう……若と一緒にいるとなると、この先、この力は必要不可欠になる。 それと、若は君達を助けた見返りを求めなかった……だろう?」

「はい」

「若はね、優しい方なんだ。本当は君にお願いをしたいんだが、君はお客さんであり、言い方を変えれば部外者だ。 だから現時点では、我々の事を詳しくは教える事もできない身の上、そんな我々に手助―――」

「言われなくとも助けに来ますよ」

「「えっ⁈」」


俺の発言に2人は同時に驚いていた。


「いや、だって助けてもらった上に、俺を強くするためにここまでしてくれているのに、貰ってばかりで、恩を返さないなんて俺にはできませんよ。 ローガンがピンチの時は何が何でも助けに駆け付けますよ。 誰かに邪魔をされても」

「迅人君にとって酷なお願いをするかもしれないんだよ」

「無闇矢鱈と犯罪行為に手を染めるのであれば、そこは考えます……けど、必要悪って言葉がある様に、その言葉は一人の為に使う物ではなく、多くの人のために存在する言葉だと俺は思っています。 きっとローガンは自分の手を赤く染め、全てを背負い込みながら、多くの人のために、必要悪を使う人間だと俺は感じました」 

「迅人君……」


お?

ランスさんが手を目に当てて下を向いている。

きっと泣き顔を見られたくないんだろうな。


「迅人君は少し頭がおかしいのかもしれないね」

「私もそう思う。 若にあまり関わらない方がいいと苦言を指しておかなければ」

「あれ? 何だか頬に冷たいものが……」

「冗談だよ! まったく頼もしい男が我々の前に現れた! はっはっは!」

「フフ……、まったく……からかい甲斐がある、いえ、殴り甲斐があるってもんですね」

「言い換えても、酷い言いようだからな。 うん? 今笑った?」

「⁈ 笑ってはいません。 気のせいです」


俺がそう聞くと、すぐに仏頂面へと変わる。


「ううんっ! で、では、やっと芽生えた力ですが、いついかなる時でも使えなければ意味がありません」

「ですね」

「話が早いですね。 では今からさらに追い込みをかけたいと思います」

「え? 今から追い込み? さらに?」

「私はまだまだ本気を出してはいません。 まぁ本気を出してしまったら、訓練どころではありませんが」

「い、今のでどの位なんですか?」

「2割程でしょうか」

「嘘だろ⁈」

「ちなみにマーヴェリックは訓練中自身に重力負荷をかけているからね」

「重力負荷ッ⁈ どこぞの戦闘民族じゃないんだから」

「ちなみにマーヴェリックも戦闘態勢に入ると髪色は変わるんだよ。 あ、目の色もね。 言わずもがな私もね。 ふふん! すごいだろ~?」

「えぇ……そこは羨ましいとは思いますが、ランスさんどんだけ日本の漫画好きなんすか……」

「私もあの漫画は好きだ」

「マーヴェリックさんも⁈ ……わかりましたよ。 時間が勿体ない……潔くボコられてやろうじゃないのよ……ぅぅ……」


こうして、この後、俺はマーヴェリックさんのおかげで『幻冥領域』を開花させることができた。

でも俺が想像していた以上にボコられました。

そのおかげで、『別天領域』・『幻冥領域』を覚えられたのは大きい。

あと2日で、この2つの力を使いこなせる様にしなければいけない。

そんな事を考えていたら、後ろにいる二人の視線が痛い程刺さってきたので、その場をすぐに離れようとしたら、ベルが目の前に現れた。


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