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思いに背中を押され

「いや~、良い感じにボコボコにされたねぇ」

「はい……おかげさまで。 そのニヤけた顔やめてもらえませんかね」

「何でだい? 私は迅人君の成長スピードに驚き、そして、こんなに嬉しいのに、喜んじゃいけないと言うのかい?」

「それ本音ですか?」

「半分ね」

「もう半分は?」


俺がそう聞くと、視線をマーヴェリックさんへと向ける。


「あの子があそこまで感情を露わにした事が、嬉しいんだ」


その顔はまさに父親の顔をしていた。


「マーヴェリックさんは普段感情を露わにしない人なんですか?」

「昔はそうじゃなかったんだ」

「そうなんですか?」

「うん。 マーヴェリックには仲の良かった幼馴染がいたんだよ」

「幼馴染ですか?」

「まぁ、簡潔に言うとね、このエンデヴァー号に乗る時、お互いの考えに折り合いがつかず、別々の道を行く事になったんだ」

「考え……ですか?」

「うん。 我が主を傍で守り、その時が来るまで身を潜ませようと行動に移す……だが、身を潜ませるためにも時間を稼がなければならない差し迫った状況。 自分は主を守らなければいけない身。 傍を離れられない。 どうしたらいいのか……自分の選択次第で全てが終わる。 そんな思考を巡らせる一方。 もう一方は、その状況を目の当たりにし、即断で行動へと移し、時間を稼ぐために真っ向から敵に立ち向かい時間を稼ごうとした。 だがマーヴェリックはそれを良しとしなかった。 だが、掴んだ手を振り払い、笑顔で敵陣へと向かっていった幼馴染……そうして生きながらえた……ここまで言えばその後どういった思考になったのか、察しはつかないかな?」

「……つきます」

「察しが良い子は好きだよ。 だからなのかな……迅人君がマーヴェリックにボコボコにされている姿を見て、徐々に閉ざされた殻が壊されている所を見ていたら嬉しくてね」

「今の話を聞いて、理不尽な事をされたとしても、甘んじて受け入れますよ。 それに、俺にとっても悪い話ではないですし。 むしろ、その話を聞いて、俄然ヤル気が出てきましたよ」

「ふふふ……迅人君ならそう言うと思ったよ」

「さて、時間もありませんから、訓練の再開を要望します」

「そう言うと思って、もう次の機兵は用意してあるよ」

「っうしっ! やりますかね……ついでに、マーヴェリックさんの殻を少しは壊してきますよ」

「よろしく頼んだよ」


こうして、俺はボコボコにされると分かりながらも、必死に抗ってやるんだと決意する。



♦♦♦



私はちょうど、若と話し合いをしている最中、突然アラーム音が鳴り、若と共に、アラーム音の現況を見る。

我々の船の近辺で消息不明の機兵を探知したのだ。

そのため、砂海に潜み、様子を見ていると、洞窟から機兵が現れる。

だが、姿を現し、少しすると、突如、異形なモンスターがボロボロの機兵を襲い出した。

よく見ると、その近くには生身の子どももいる。

だが、両腕が使えなくなると、その子ども泣きながら反対方向へと走り出す。

子どもを逃がすために時間稼ぎをする機兵の考えがすぐにわかった。


「な、なんでそんなすぐに行動に移せるの?」


私の横には娘のマーヴェリックが立っていた。

どうやらあの時の事を思い出しているのであろう事が伺えた。

この状況は確かに似ている。

酷な選択をさせてしまった当時の自分を何度恨んだ事か……


「ま、待って⁈ な、なんで戻るのよ⁈」

「むっ⁈」


私が物思いにふっけていると、突然マーヴェリックが驚きの声を出す。

画面を見ると、戦闘とは反対方向へと走り出した子どもが、機兵と異形のモンスターが戦っている元へと戻っていたのだ。

すると、子どもから見慣れた輝きが現れる。


「こりゃおったまげたねぇ~」

「あれ? いつの間にいたんだい」


私の後ろでアンジーが驚きの顔を見せていた。

それもそのはずだ。


「君達と同じ種族だよね。 あの子は」

「そうだね……しかも、あの輝きは……」

「ダメ!! それ以上は!!」


またマーヴェリックは叫び出す。

ここまで感情を露わにするのは珍しく、私とアンジーは目が合うと、互いに昔のマーヴェリックの事を思い出したのか、目頭が赤くなっていた。

子どもは鼻から血が噴き出し、見るからにその子は限界に達していた。

すると、マーヴェリックは走り出す。

どうやら助けに行こうとしているみたいだ。

だが、そこでマーヴェリックを止める声が出る。


「待て」

「な、何でですか⁈ 若ッ⁈」


若がマーヴェリックを止め、その命令に対し、マーヴェリックは若を睨む。

この状況を見たら助けに行きたいという感情が全面に出るのは分かる。

しかし、若に対し、声を荒げ、ここまで反抗した態度を見せるマーヴェリックに、周囲の者達は驚いていたが、私は、逆に、ここまで感情を露わにしたマーヴェリックに驚きと共に、喜びの感情の方が勝っていた。

主を守る者としては失格かもしれないが、やはり、自分の子が、久々に見せた人間としての感情を露わにした事がとても嬉しかった。

だが、我々は身を潜めなければいけない……そして、この状況は若にも、そして、マーヴェリックにも良くない。

ここは私がマーヴェリックの嫌われ者に徹しようと、言葉を発しようとしたその時―――


「俺が行く」

「えっ⁈」


まさか、若からの発言に、全員呆気に取られる。


「俺は彼らを助けたいと思う」

「し、しかし若―――」

「皆の考えは分かっている。 ここで出て行けば、見つかるリスクが無い訳ではないということを……だが、リスクを冒してでも、彼らは救うべき価値がある」


若の発言に対し、誰も言い返せない。

そうだ。

ここにいる全員が彼らを助けるべきだと思っているからだ。


「皆に、民達に危険が及ぶかもしれない。 今までの苦労が水の泡になるかもしれない。 だが、今ここで、彼らを助けなければ、我々は大事なモノを失う気がしてならないんだ。 だから……俺は行く」


誰も発言しない。

全員の気持ちは同じだ。

だが、誰でもいいから、行きなさいと一押しが出ない。

それはそうだ。

若に何かあればこの船は終わりだ。

今までの苦労が一瞬で消え失せてしまう。

いつからこうなってしまったんだ。

昔はあんなに意気揚々とその場の勢いで何でも言えたのに、身を潜めている生活を過ごす余り、勇気が出てこなくなってしまったのか……この場にいる皆も私と同じ気持ちなはずだ。

だが、この静けさを掻き消すように、突然扉が開くと、出てきたのは―――


「あれ? 何この静けさは? あん? 若、何してんだよ? 俺はてっきり自分が行くと言って、既に助けに行ってるもんだと思ってたのに」


若の補佐役のロイド君が現れると、静かだった空間に風が流れ始める。


「俺も別室で見ていましたが、彼らは俺達と同じ仁義を持っている。 ここで彼らを見捨てたとあっちゃ、俺らの大義は地に落ちますよ」

「⁈」


ロイド君の言葉に、この場にいる全員の目つきが一瞬で変わる。


「若、いつでもサポートできるように準備しときますよ!!」

「若が行くなって言っても、誰かが行くと思っていたから止めようと考えていましたが、若本人が行くって言うんだから、仕方がありませんねぇ~」

「そうですよ。 行くと決めたのなら、チャチャッと助けに行って来てくださいよ」

「ちゃんと周囲はチェックしときますし、何が起きても迅速に対応しますから」

「み、皆……」

「だから―――」

「「「「「「「「「「早く助けに行ってこ―――いッ!!!!!」」」」」」」」」」


この場にいるクルー達が声を合わせ、若の背中を押す。

すると、若から薄っすらと笑みが零れた様に見えた。

いや、見間違いではない。

若が久々に笑ったのだ。


「フフ……仕方がない……皆にここまで言われてしまったら……早急に行かねばならないな。 ロイド」

「分かってますって。 ちゃんと指揮は採らせていただきますよ」

「頼んだ。マーヴェリック」


マーヴェリックは若に背を向け、こちらを見ない。


「若……後はお願いします。私は何かあればすぐ対処できるよう、スタンバイしております」

「頼む」


背を向けているはずなのに、なぜかマーヴェリックが喜んでいるのが感じ取れた。

そして、視線を必死に戦い続けている彼らへと向ける。

彼らが我々の前に現れた事で、止まっていた時計が、我々に必要だったピースがピッタリとハマり、勢いよく動き出したと感じ取っていた。


目を留めていただき、ありがとうございました。

読んでくれている皆さんに頑張る力をいただいています。

頑張ります。


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