マーヴェリック
「迅人君はあの訓練機に乗るといいよ」
「すいません。お借りします」
俺に用意された機兵は一般的な……あれ? パット見、普通の機兵なのだが、何か違和感を感じる訓練機である。
まぁ、気のせいだろう。
そして、マーヴェリックさんの乗っている機兵は、どう見ても一般的な訓練機ではないのが一目瞭然である。
「マーヴェリックの乗る機兵は彼女専用の機兵になる」
「マーヴェリックさんは訓練機ではないと?」
「そうでもしないと、迅人君の場合、短期間での訓練にならないじゃないの」
「そうですね……ちっ」
「今舌打ちしたよね」
「キノセイデスヨ」
「急にカタコトになった時点で、隠す気がない事を理解したよ」
ぶっちゃけ、初対面であそこまでの言いようってなんなん? って思ったり思わなかったり……いや、久々にイラっとはしましたよ。
だから、相手がマーヴェリックさんと聞いて、度肝を抜いてやろうとか思いましたよ。
けど、こっちは訓練機で、マーヴェリックさんは自分専用の機兵で俺とやり合うって聞いた瞬間、俺の儚い夢は一瞬で砕け散りましたよ。
けど、ランスさんの言う通り、俺は機兵での実戦経験がない。
それを埋めるために、ランスさんはこういったシチュエーションを用意してくれたんだ。
感謝しないといけない。
だが、よく見たら、一般的な訓練機は訓練機でも、見たら分かる……めっちゃ古い機兵である。
俺の感じた違和感はそれである。
横を見たら、真新しい機兵達がある。
しかも誰も乗る事なく、待機状態である。
何でそれに乗せてくれない。
もうね、やる前から分かってるんだよ……ランスさんは、俺がマーヴェリックさんにボコボコにされるであろう未来が……俺にも見えるんだもん。
さっきまでやる気満々でいたのに、一方的にボコボコにされるしかないとわかった瞬間、諦め―――
「諦めた瞬間、そこで試合は終了だよ」
「なぜその明言を知ってらっしゃるんですか?」
「こう見えて、地球のマンガは読んでいるんだよ」
「そうなんですか……で、ランスさんは俺が諦めている様に見えていると言いたいのですか?」
「え、そう仕向けてたんだから、察しの良い子はすぐに理解するよ」
「察してはいたけど、まさか、本人の口から聞くことになろうとは……俄然やる気が湧いてきましたよ」
「そうかいそうかい。 それならよかった。 そのやる気がどれぐらい続くか楽しみだ」
「今最後の方がよく聞き取れなかったんですが、何か言いましたか?」
「気にする事はないよ。ささっ! マーヴェリックが今か今かと、君を待っているよ」
俺は上空を見ると、強い視線が俺を直視していた。
いや、ずっと気が付いてはいたんだけどね。
もうずっと、俺を殺すような殺気が、俺の寿命を削りとっていて、いつ止めてくれるのかな~なんて思っていました。
けど、時間が経てば経つほど、強くなる一方。
「ハハハ……これも計算の内……まさに巌流島の戦いを俺が宮本武蔵で、お前が佐々木小次郎よぉ……」
「早くした方がいいよ。 あの子、苛立てば苛立つほど、力を発揮する稀な子だから」
「それを早く言ってくれませんかね」
俺は急いで訓練機に搭乗する。
スキャンが始まり、訓練機が動き出す。
「うわ……思った以上に動きが鈍いぞこれ」
アジーンに乗っていた俺には分かる。
やはり動きが鈍いどころか、鈍すぎる。
感覚もどこかチグハグで、ズレにズレているのも感じ取れる。
「ここまで酷いもんなのか……この機兵は」
各箇所を入念に動かし、確認するが、うん! ボコボコにされる未来しか見えない。
先程までのやる気がどこへ行ったのであろうか?
「けど、やるしかない」
俺は視線をマーヴェリックさんが乗っている機兵へと向ける。
「準備はいいか?」
「はい! お願いします!」
「それじゃ、お互い、準備が整ったみたいだから、私が合図を出そう」
そう言うと、ランスさんは懐からスターターピストルを取り出す。
「それでは―――」
パアアア―――ンッ!!
戦いの合図が鳴り響く。
「よっしゃあああ! かかってこ―――」
「遅い」
「えっ⁈」
ドガ―――ン!!
「カハッ⁈」
あれほどの間合いがあったのにも関わらず、一瞬で詰め寄ってきたマーヴェリックさん。
俺は何の反応もできず、吹っ飛ばされた事だけは認識できていた。
「もう終わりにしますか?」
「くっ⁈」
「ムフフ」
機嫌が良さそうな笑い声が聞こえたが、それは無視だ。
マーヴェリックさんは俺が立ち上がるまで攻撃はしてこないみたいだ。
なんてフェアプレイな―――
「まだやれるでしょう? 行きますよ」
ゴオオ――ンッ⁈
「グオッ⁈」
まだ立ち上がってもいないのに俺に追撃を浴びせてくる。
どうやらフェアプレイの概念はないのか⁈
だが、それこそ、生粋の戦士たる意思なのであろうと俺は一瞬だが感じ取っていた。
「ホホゥ……マーヴェリック……そんなに迅人君の事が気に入っちゃったのかい」
また変な事を言っている人の声が聞こえたが、無視しようにも、先程の言葉の意味、観点がズレているせいで、多少俺の思考が乱れる。
普通、気に入ってるのであれば大事に大事にされるのが普通なのでは?
ゴン、ゴン、ゴンッ⁈
俺は防御に徹する事しかできず、ただただ殴らまくっていた。
「よ、容赦がねぇ……」
「戦場や、モンスターは待ってはくれません。 容赦もしません」
「ごもっともすぎて何も言い返せねぇ! オラアアアア!!」
「遅い」
俺は右手で振り払おうとしたが、その動きは遅すぎなため、簡単に腕を掴まれてしまう。
「衝撃に備えてください」
「え? えええええ⁈」
一瞬の速さで、俺は投げ飛ばされる。
ドガ―――ン⁈
「く、くそ……く、首が……」
投げ飛ばされた反動で首を痛める。
痛いとアピールしたとしても、手を止めてはくれないであろう事は分かりっきている。
なら、俺は神経を集中させ、この機兵を鮮明に理解する事に専念する事に全神経を集中させる。
「訓練中だと言うのに、余所見ですか?」
ドゴン、ドゴン―――
殴られる度に衝撃が体に伝わってくる。
だが、今は焦る時ではない。
俺はこの機兵を理解しなければいけない……
すると、徐々に変化が現れる。
「あちゃ~……もしかして、投げ飛ばされてしまった時に気を失っちゃたかな?」
「そう……ですね……殴り続けてもあまり反応がありませんが……」
「そう思うなら、殴る手を普通は止めるんだけどね」
「ですが、もう少し殴り続けたいと思います」
「いや、さすがにそれはどうかと思うけど……」
「私はあなたが抗う姿を見ていました。 まだ抗うのでしょう……あの時の様に」
「マーヴェリック……君は本当に……」
「抗っても、無駄な時がある事を分からせるのも私の仕事。 これで今日は終わりにしま……しょうッ!!」
ガキィィィィィィンッ
「なっ⁈」
「マ、マーヴェリックの拳を……」
「私の拳を掴むだと⁈」
ふふふ……やっと、捕まえた……そして捉えられ―――
「―――捉えられたと思ったら大間違いだ」
「ですよねえええ!!」
ドカアアアア―――ンッ!!!
やっと掴んだ拳を難なく振り払われ、先程よりも早く、鋭い拳が俺を吹っ飛ばし、そこで俺の乗る機兵は動かなくなったのであった。
目を留めていただき、ありがとうございました。
節目の100話となりました。
読んでくれている皆さんに頑張る力をいただいています。
頑張ります。




