昔の男と今の私 (読み切り)
昔好きだった男から連絡がきた。
クラス会への誘いだった。
一度断っておいたのに、また誘われた。なぜ。
ここで馬鹿な私はいらぬ期待を抱いてしまったのだ。
もしかしてまだ私のことが好きなのだろうか、とか、
もう一回会いたいと思ってくれているのだろうか、とか。
そんな訳ないのに。
だけど、一度膨らんだ期待という名の自意識はそう簡単に消えてはくれない。
無視しておけばいいものを、わざわざスクリーンショットまで撮って喜んでしまっている。
さよならを言えない女はなめられるって分かってるのに。
わざと少しだけ時間を空けて返信する。
その返信の内容も気持ち悪くて、この期待を悟られたくないがために、そっけなく返すのだ。
相手は何も気付くはずないのにね。
すると意外と速く返事が返ってくる。
そっか、来ないのか、みたいな感じだった。ちょっとだけ残念がるような感じ。
それがまた嬉しくて、自分はなんてちょろい女なのだろうと情けなくなった。
ここで会話が途切れてしまうのが嫌で、怖くて、あなたにはちょっとだけ会いたかったな、なんて返す。
隙を与えてどんどん好きから遠ざかっていく。
今まで私が愛した以上に相手から愛されない原因はこれだ。もう分かりきっているのにやめられない。
相手からも、俺もちょっとだけ会いたいかも、みたいなことを返されて、どきどき、どきどき、鼓動が速くなっていくのがわかった。やっぱりちょろい。
だけど、私はこのクラス会に参加するためのメッセージグループに参加していなかったのだ。今ここでそのグループに招待してくれたら完璧なのに、そんな淡い期待は、本当に泡みたいに一瞬で弾けて消えた。
グループに参加していない旨を伝えると、じゃあ友だちにやっぱり行きたいって言えばって返された。
そう、返されてしまった。
私は知っていたはずだ。この男が如何にずるくて、今までどれだけ利用されてきたかを。知っていたはずなのに。
だけど、この時だけは知らないふりをしていたかった。
それから十数時間既読を付けずにいた。
どんなに最悪な男でも久々の連絡で嬉しかった。
だから、会話をしているという事実を失いたくなったのだ。もし私がここで了解の返事を送ったら、きっと会話が終わってしまうだろうから。
彼のトークアプリの中で、他の女たちに埋もれて私が消えてしまうから。
もう少しだけ、ここにいたかったから。
だけど、返信しない訳にはいかない。
悪足掻きはやめて、普通にわかったと返事した。
それから、会話は終わった。
次の日私は、友だち数人とご飯を食べに行った。
当然そこでは新しい男はできたかとか、処女はもう捨てたか、みたいな下品な話も繰り広げられる。所謂女子会だ。
その中で昔の男の話をすることは自然な流れだろう。
友だちの一人が口を開く。
「そういえば元彼からさ、」
食事を口に運ぶ手が止まる。
この友だちが話題に出す元彼は、私が昔好きだったあいつだ。私は付き合えなかったあいつ。
「俺、別れるの待ってるから。とか言われんの!
あ、今の彼氏とね?
本当あいつ誰でもいいっていうか、いっぱい女いるよね。」
そっかー。
私だけじゃなかったんだ。
馬鹿みたい。
根拠の無い期待ばっかりしちゃって、一回でも私を本気で好きでいてくれたことなんか、無かったのに。
考えたら分かるのに。
「きもいねー。」
笑って、それだけ返した。
私は平気だよ、傷付いてなんかないよ。
誰に向けてのアピールか分からないけど、心の中でそう言ってみて、余計虚しくなった。
本当、馬鹿みたい。
後味の悪い文章だと思いますが、ここまでご高覧いただきありがとうございました。