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8 失踪

 眩しかった光がようやく落ち着き、ハルはゆっくりと目を開けた。

 ドキドキと心臓が音をたてるなか、初めに見えたものは石を積み重ねたような壁だった。出発した時と何の違和感もない。この国ではみんなこんな感じの建物なのかなと思いながら視線を上げると、壁には先程見たものと同じような破れた旗がぶら下がっている。


「あれ?」

(似てるんじゃなくて同じところ?)


 不思議に思いながら、後ろにいるであろうアンドレアたちの方に振り返った。


「…えっ?」


 そこにいるはずの人たちがいない。


「えっ!?」


 キョロキョロ見渡すも誰もいない!


「な、なんで!?

 アンドレアさん!ノールさん!ルルシャちゃん!マルクス君!」


 返事どころか、何の音もしない。心臓がまたドキドキと音をたてだした。

 居ても立っても居られず大きな扉を開けて部屋から出る。扉の先は広い廊下があり、少し進むと左右に分かれていた。小さな窓から光は入るものの、薄暗くて先がよく見えない。

 変な汗がじわっと出てくるのを感じた。


「みんな、どこにいるの〜〜〜っ!?!?」


 それまでの人生で一番大きく出たであろうハルの声は、ただ虚しく響き渡っただけだった。


・・・

 

 ハイリヴァルト王国、サングレイス城の謁見の間では、数刻前に闇の住人(テネブリス)を討つため出立した勇者一行の帰りを待つ大物たちがいた。

 国王ゲオルク・ハイリヴァルト、宰相エクムント・フリーゲル、王国騎士団大団長カール・アドヴァンテ、王国魔導士長クリスティーナ・モーゲン、そして、ルース大聖堂大神官オイゲン・シュヴァルトである。

 皆、言葉少なく、ただただ静かに待っていた。


 どれくらい経っただろうか、魔法の気配がして国王は閉じていた瞼を開けた。


「国王様。」

「ああ。」


 床に赤い魔法陣が現れ、光が溢れ出す。そして光が消えるとそこには勇者たちの姿があった。

 勇者たちは王の元へ戻って来きたことを確認すると、すぐさま片膝をついて頭を垂れた。


「国王陛下、只今戻りました!」

「うむ。で、どうであった?」

「はい。無事、一つ目の闇の住人(テネブリス)を浄化することができました!」

「おおっ!なんと!!」


 そこにいた全員が驚き、安堵の声をあげる。それまで張り詰めていた空気が一気に和らいだ。


「そうか!よくやってくれた!しかし、浄化したとはどういう事だ?浄化は聖女にしかできないはずだろう?」

「実は、かなり危険な状態だったところ、こちらにいらっしゃいます聖女様が突如として現れ、闇の住人(テネブリス)を浄化し、我々を救ってくださったのです!」

「おおっ!遂に聖女が現れたか!で、その者は今どこにいる?」

「え?こちらに…。」


 ノール、アンドレア、マルクス、ルルシャは、同時にハルがいるはずの方へ顔を向ける。

…が、しかし、そこには誰もいなかった。


「!!」

「え?何で?」


 四人とも動揺を隠せない。


「申し訳ございません!共に移動して来たはずなのですが…。」

「ノールの言う通りです。私は聖女様が我々と共にルルシャの魔法の光を受けるところを隣で見ておりました。」

「も…申し訳ございません!!」


 ルルシャの顔はすっかり青くなってしまっていた。


「いやいや、そなたが魔法をしくじるとは思えぬ。しかし、どうしたものか…。」

「それでは、まず私が今一度戻って確認してまいります。」

「ノール様!私も連れて行って下さい!」

「そうか。では…」


 国王が許可を出そうとしたその時、


「お待ち下さい、国王陛下。」


 それまでの沈黙を破って大神官が声を発した。


「ノールを始め、ここにおります者たちは皆、先の戦いでかなり疲弊していると思われます。しかし、今はまだいつ次の闇の住人(テネブリス)が動き出すかわからない状況です。ですから、この者たちには休息をお与えになり、聖女様の捜索は是非、神官である我々にお任せ頂けないでしょうか。」


 大神官は深々と頭を下げた。


「ふむ。確かに、聖女に近い存在の神官たちならば見つけ出しやすいかもしれぬな。よし、では聖女のことはひとまず大神官に任せよう。そなた達はしっかり身体を休めるように。」

「御意。」


 

 アンドレアはつい先程聖女の手を乗せたはずの右手を見つめ、握りしめた。


「一体、どこへ行ってしまわれたんだ…。」



・・・


 オイゲン大神官は数人の共を連れ、大聖堂の奥にある執務室へ向かうため廊下を歩いていた。


「決して誰にも悟られないように聖女を探しなさい。そして見つけ次第ここへ連れて来るように。いいですね?」


 神官でも限られた者しか入れないこの場所だが、声を潜め話しをする。


「はい!」

「ノール神官長には?」

「あの子はああ見えて正義感が強いからね。どこから漏れるかわからない。ノールには黙っているように。」

「御意。」


 そう言うと、供の者は皆、音もなくその場から離れていった。

 窓の外では青かった空が黒い雲に覆われつつある。そして、その窓に映る大神官の瞳は怪しく光っていた。

 



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