二人の『姉』
「行ってきますっ」
玄関で声を張り上げる。
「はいはい、気を付けてね~」
奥から母の返事を聞き玄関から外に出る。
熱くもなければ、寒くない心地良い風が吹く。
季節は春が終わり、夏に変わろうとしている。
今年は暑くなるのが遅いと、ニュースで言っていた。
向かいの二階建ての一軒屋を見ると、女子高生数人が待っていた。
家から出て来たのは優しそうな顔立ちをした、女子高生。
幼馴染の橘 佐奈だ。
佐奈は自分に気付くとチラ見しただけで、待っていた友達と歩いて行った。
中学2年位までは仲が良かったんだが。
『年頃というやつだなっ』
『思春期とも、言いますね』
「ユカ姉、ユメ姉」
歩き出した両隣で二人の巫女服の女性が、佐奈の反応を見て言う。
右手側で元気に笑っている、女性がユカ姉。
髪の毛を肩位で切り揃えて、活発な女性。
左手側に居るのはユメ姉。
背中の中位まである髪を一つに纏めている。
落ち着いた表情で、落ち着いた女性。
二人共、顔立ちはかなりの美人。
歩いたら皆振り返るんじゃないかと、高校生である自分から見ても分かる。
ただ・・・。
『う~む、損だな』
『そうして大人になるんですよ』
「成程」
皆に見えていればの話しだ。
『今日も学校終わりは神社に向かうのか?』
「あぁ、約束だし・・・祭りももうすぐだろ?」
『ユカもやるんですよ?』
『いや、やっとるよっ?』
毎年やっている恒例の神社の敷地を使った祭り。
そこの掃除、準備の手伝いをしている。
「ユメ姉、ユカ姉はちゃんとやってたよ」
『ほれっ、蒼も言ってるぞっ』
「猫との遊びを」
『あ、蒼っ?』
『ユカ・・・貴女は』
ユメ姉の眼差しにユカ姉は一生懸命に弁解する。
なんだかんだ言っても自慢の『姉』だ。
何気ない、授業を受け一日が終わっていく。
いや何気無くないか、教室を徘徊する二人の姉の光景は。
学校が終わり、神社に向かおうと正門に向かうと珍しく佐奈が居た。
髪長くなったなぁ、ユカ姉より少し長いか?
友達でも待っているのだろう。
俺は気にもせず、通り過ぎる。
いつも無反応だったんだ、俺に用があるはずがない。
「蒼」
「ん?」
が、佐奈に呼び止められた。
首を傾げながら反応をしたのは良いが、珍しい事で軽く驚いた。
『ほう』
『今更、なんの用なんでしょうね?』
ユメ姉、酷い。思春期とか言ってたのに。
「・・・」
「なに?」
佐奈は顔を横にずらしたまま喋らない。
・・・いや、なんなの?
気のせいだったか?
歩き出そうと足を動かす、と。
「待ってよ」
「・・・」
『早く、要件を言わんかっ』
『年頃で済ませれる事と、済ませれない事もあるんですが?』
ありがとう、俺の心の声を言ってくれて。
ただ、辛辣だな。
「お祭り、行くの?」
「行くよ」
「そう・・・」
「佐奈は?」
「・・・行く」
「ん、楽しんでな」
「・・・うん」
「・・・」
「・・・」
会話が途切れた。
まぁ、時間もないし歩き出す。
行くかどうか聞きたいなんて佐奈、学級委員だったっけ?
『・・・阿呆』
『・・・』
「・・・ぁ」
私が反応しないから、蒼は歩き出してしまった。
いつからだろう、幼馴染と言えど男性と話しをしていると気にしだして話さなくなった。
別に嫌いなわけじゃない、むしろ多分好きだ。
だけど、素直になれない。
明日は明日はと思っていたら、高校生になってしまった。
遠くなっていく蒼の背中を見ていると。
『今、行かんでいつ行く、阿呆っ』
「ひっ!?」
突然、女性の声で怒鳴られる。
慌てて回りを見渡すが誰もいない。
グラウンドで部活をしている人は居る。
蒼を見ると、大分離れていた。
その時、誰かに優しく背中を押された気がした。
重かった足が1歩を踏み出す。
声は気のせいかもしれない、だけどそうだ。
今行かないと、また時が過ぎていく。
歩きから走りに変わって、蒼に追いついていく。
「蒼っ」
私の声に驚いた様に振り向く蒼。
お祭り一緒に行こうと誘う。
お願いだから、耐えてね私の心臓。
『ふんっ』
『手間の掛かる事です』
二人は少し離れた所で、蒼と佐奈の様子を見ていた。
ユカは首を横に振って疲れた様に言う。
『時間に限りがあるのに、機会を逃してどうするんだ』
『時間は有限ですからね、私達とは違って』
厳しい事を言っている様だが、二人の眼差しは優しく表情は微笑んでいた。
遅くなり、申し訳ありませんでした。