コント『ミュート』
A:ツッコミ B:ボケ
会議参加のシステム音。
A「よし、入れたかな。どうもまだ慣れないんだよな、オンライン会議」
会議参加のシステム音。
B「おつかれ」
A「おう、おつかれ」
B「悪いな、急に呼び出して」
A「気にすんなって。で? 話ってなに?」
B「ああ、それなんだけど…あ、ちょっと席外す」
A「オッケー」
B:席外す。
A「やけに真剣な感じだけど、なんかあったのかな」
B「…はい、はい」
A「ん?」
B「はい、もう繋ぎました」
A「あ、あいつミュート忘れてる」
B「始めちゃって大丈夫ですか?」
A「おーい、ミュート忘れてるぞー、大丈夫か?」
B「あ、先にオープニング」
A「…オープニング?」
B「オッケーです」
A「なんだ?」
B「はい、始まりました、オンライン解散ドッキリ~!」
A「うーわ、うわ、最悪」
B「じゃあこれからね、オンラインで相方に解散ドッキリ、仕掛けていこうと思いま~す」
A「え、え、どうしよう」
B「もうすでに繋いでるんでね、早速始めていきましょう!」
A「やばいやばいやばい」
B:席に戻る。
B「すまん、戻った」
A「お、おう」
B「それで、話したいことがあるんだけど」
A「お、おう」
B「俺…」
A「ちょっと待って! 俺も席外す!」
B「え」
A「ほんとごめん! すぐ戻るから!」
ミュートのシステム音。
A:席外す。遠くからPC画面確認。
A「ミュートできてるな? どうしよう…聞かなかったふりするしかないよな…よし」
A:席に戻る。
ミュート解除のシステム音。
A「ごめん、戻った」
B「ああ。それでさ、俺…お前とのコンビ、解散したいんだ」
A「…嘘だろ」
B「申し訳ないけど、本当だ」
A「…なんでだよ。理由を言えよ」
B「…理由?」
A「ああ」
B「…ちょっと席外す」
B:席外す。
B「理由聞かれたんですけど、どうしましょう」
A「なんで打ち合わせしてないんだよ!」
B「…あ、それでいきますね」
B:席に戻る。
B「悪い」
A「ああ。それで、理由は?」
B「…芸人を、辞めたいんだ」
A「はあ? 辞めるって、これからどうするんだよ?」
B「…」
B:席外す。
A「黙って席外すな!」
B「…これからどうするって」
A「アドリブでしゃべれそのくらい!」
B「あー、なるほど、それでいきます」
A「なんだ、芸人辞めて何になるんだ?」
B「オンライン坊主で」
A「オンライン坊主!?」
B「はい」
A「坊主ってお寺の坊主!? の、オンライン!?」
B「大丈夫です」
A「どうリアクションしていいかわからん!」
B「細かいところはアドリブでしゃべります」
A「最初からやれ!」
B:席に戻る。
B「俺、芸人辞めてオンライン坊主になりたいんだ」
A「…」
B「ショックなのはわかる、でも本気なんだ」
A「…それは、何をする人なの?」
B「そりゃ、お坊さんだから、お葬式でお経読んだりとか」
A「オンラインで?」
B「うん」
A「…まあ、このご時世だからな」
B「必要な仕事だろ?」
A「普通の坊主になってオンライン葬式するのじゃダメなの?」
B「…」
B:席外す。
B「オンライン坊主はきついです」
A「アドリブがんばれよ!」
B「もっといいやつないですか」
A「それはそう! もっといいやつないですか!」
B「なるほど、オンライン神父」
A「神父!? 教会の神父!?」
B「それでいきます」
A「一緒! 宗教の違い!」
B「大丈夫です」
A「ダメだ、このままじゃどうしようもない。もう無理やり話を進めよう」
B:席に戻る。
B「俺、オンライン」
A「(遮って)悪い、俺もちょっと外すわ」
A:ミュートせずに席外す。
A「あー、まさかあいつが芸人辞めるなんて」
B:しんみり聞く。
A「オンライン坊主か。今の時代に必要とされる立派な仕事だよな。でも、俺あいつとじゃなきゃ芸人やっていけないよ。どうすれば…」
A:席に戻る。
A「あれ、もしかしてミュートし忘れてたか?」
B「…いや、別に何も聞こえなかったよ」
A「そっか。オンライン会議だとついやっちゃうよな、気をつけないと」
B「…そうだな。悪い、俺もまた席外す」
B:ミュートボタン押す動作して席外す。実際には押せてない。
A「よし、ミュートしたな。それでちゃんと打ち合わせしろ」
B「あの、すみません」
A「なんでミュートできてないんだよ!」
B「ちょっといいですか」
A「ボタン押し損ねたのか?」
B「俺、もうネタ晴らししたいんですけど」
A「はあ?」
B「あいつの悲しんでる顔、これ以上見たくなくて」
A「…もういいや、さっさと終わらせてくれ」
B「はい、ありがとうございます」
A「ああ、疲れた」
B:『ドッキリ大成功』の札を持って席に戻る。ミュート解除するつもりでボタンを押し、ミュート状態でネタ晴らし。
A「いやミュート!!」
終わり