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ホームにて

仮にも軍人が命令をことごとく忘れるのはいかがなものか。

いや、軍人でなくとも十分問題だろう。

俺は追及しても仕方がないと思ってアサヒナの方を確認すると、その顔は先ほどにも増して怒りの表情を濃くしていた。


「・・・部下の不手際について重ねてお詫びする。」


アサヒナはそう言って深々と頭を下げる。

責任を取るのが上司の役割とは言え、なんだかこちらが申し訳なくなってきてしまう。


「いえ、実害はありませんでしたから・・・」


俺はそう言って苦笑いをしながら言葉を返す。

同意を求めて鈴音を見ると頷いてくれた。


「こちらの不備で申し訳ないですが、詳しい説明は後程お話いたしますので、

今はご同行をお願いいたします。」


俺が頷くとアサヒナが先導して歩き始める。

道中、ハーピーから解放されて見渡せるようになった「ホーム」を観察してみる。

分かるのはホームの大きさは縦横200メートルほどの大きさがあり、2メートルほどの木とツタを合わせた柵で囲われ、一定間隔で見張り小屋が建てられていること。

柵から森までの50メートルほどの間は木が無く、見通しの良い地形となっていること。

点在しているハーピー達の住居が見るからに貧相な木と植物の葉でできたあばら家であること。

そして、ホームの中心に周囲と比べて異質な灰色の建物があることだ。

この建造物は見えている正面の部分からは幅が50メートルほどある4階建てほどの建物で、窓の類は全くなく、一つだけぽっかりとあいた入り口が見えていなければまるで大きな岩のように見える。

歩いている方向からして恐らくあれが本部のある建物なのだろう。

そうこうしているうちに建物に着いた。

アサヒナに連れられて灰色の建物へ入るとそこはコンクリートがむき出しの飾りっ気のない広い玄関ホールだった。

左右に通路があり、正面には上下の階層へ繋がる幅の広い階段がある。

俺たちはそこから右の通路へ進み、応接室へ案内された。

アサヒナが年季の入った鉄扉を押し開けると、応接室というよりかは会議室に近い十畳ほどのこざっぱりとした部屋が目に入る。

幸いにもどの扉や通路もガニメデが通るのにはギリギリ問題はなかった。

応接室に入るときに後ろからガリッと何かを削るような音がしたのは気のせいのはずだ。

うん、そういうことにしておこう。

部屋には中心に鉄製の長机とイスがあり、机の上には布切れを被せられた何かが置かれていた。

室内には6人のハーピーがおり、いずれもアサヒナと同様に非常に落ち着いた様子で、外のハーピー達のような幼さは感じられない。

そんなハーピー達は俺へ緩みのない探るような視線を向けてきた。

なんだか面接や営業先でのプレゼンを思い出して胃が引き絞られるような感覚に襲われる。

緊張するし、嫌だなぁ・・・

そのうちの部屋の中央に立っていた一際精悍な顔立ちをした赤い長髪に赤い翼をもつ女性のハーピーが一歩前へ出て俺に話しかけてきた。


「私が連隊長のヒメノ、階級は大佐です。」


「本日はお招きありがとうございます。私は小田島と申します。隣は鈴音、それと後ろの機械はガニメデです。」


「今回おいで頂いたのは親睦のためとお話していましたが、小田島様がヒトであるということを確認するためでもあるのです。

ヒトであるということは私たちにとって特別な意味をもちますので。」


ヒメノは真剣な表情で髪と同じ赤色の瞳を真っすぐに俺へ向けてくる。

俺がヒトであることはそんなにも重要な意味を持っているのか。

しかし、証明となると…

そもそも話が聞ければ良い程度の気持ちでここに来たから別段相手にヒトと認識されずともいい気はするのだが、何があるのかわからない世界だし味方は増やせる方が良いか。

でも俺自身が自身をヒトだと認識している以外でヒトであると証明する方法など考えたこともなかった。

まさか遺伝子検査をして調べるわけにもいかないし、どうしたものか。


「悩まずとも方法は単純です。

これを起動できれば我々でもヒトであるとわかります。」


俺が悩んでいるとアサヒナはそう言って机の上の物体を隠している布をめくりあげる。

その物体は銃のようなものだった。

おおむねアクション映画に出てくるような黒いアサルトライフルに見える。

しかし、それらの記憶にある見た目よりも全体的に太く角ばったデザインで重そうな印象を受ける。

さらに弾倉はなく、銃身には無数の穴の開いたカバーが付いており、胴体部分の上には大きな照準器が取り付けられている。

起動すると言っていたが、これにはコンピュータでも積んであるのだろうか?


「部下が支えますからグリップを掴んでいただきたい。

貴方がヒトであるなら起動するはずです。」


ヒメノがそう言うと、一人のハーピーがまるで捧げものを持ち上げるかのように恭しく丁寧に銃を持ち上げ、こちらへ近づいてくる。


「グリップに手を添えてください。

くれぐれもトリガーには触れないようにお願いいたします。」


そう言われ銃のグリップに手を伸ばす。

一応トリガーに触れないように注意していたが、よく見るとトリガーの裏には詰め物がしてあり物理的に操作できないようにされていた。

当たり前だが、用心深い。

俺がグリップを握りこむと、フイィィィィンというパソコンの排気ファンのような音とともに暗かった照準器の画面に光が灯る。

動いた!!

照準器には「please wait」と表示されている。

あ、コレ初期設定英語なのか。

学校で10年近く英語教育を施されたのにも関わらず受験後にはきれいさっぱり忘れた俺にとってはつらい現実だ。

今も昔もそして未来も最新の輸入物ガジェットは英語標準なのか。

そんなことを考えていると顔の右横に気配を感じる。

思わずビクリと身を震わせて右を確認するとヒメノが俺の顔のギリギリまで体を寄せて画面を必死の形相でのぞき込んでいた。

そればかりではない。

他のハーピー達も俺の周りに集まり銃のほんのわずかな変化も見逃さまいと隙間という隙間からのぞき込んできている。

その様子はつい先ほどのハーピー集団と重なる。

部屋に入った時には緊張感があったが結局、根は先ほどの無邪気なハーピー達と変わらないということか。

そして遅れて気づいたが驚くべきことに直上からものぞき込まれていた。

どうやっているのか知らないが2人のハーピーが翼と尾羽を目いっぱい広げた状態で翼を羽ばたかせもせずに空中に静止している。

何アレ怖い!その上絵面がなんかキモイ!


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