姉の座を奪われる
「朝ですわ。お兄様、起きてくださいな」
今日も今日とてアラームは鳴る。
罵倒ボイスに変わる前にアラームを切って
俺、完全覚醒！
おはようございます、みなさま。
昨日はいろいろと大変でしたが今日から俺も夏休みを満喫するぞー！！
とりあえず無事に帰ってきたことを妹に伝えてご飯を作ろう！
今日の兄ちゃんの味噌汁はひと味違うぜー！！
自分の部屋からリビングに降りると妹が居たので挨拶しようとすると
なんとアリスねぇと妹が仲良くトーストを食べていた。
ちょっとぉぉアリスねぇなんで居るんですか？！
昨日あの後普通に帰って行ったじゃないですか！
何普通に妹と楽しくやってるんです？！
「あ、にい……姉ちゃん、おはよう！昨日は大変だったね〜。アリスお姉ちゃんが朝ご飯作ってくれたよ」
アリスお姉ちゃんだと……あの暴力女いつの間に妹に取り入ったんだ？！
「ああ、おはよう、おれ……私のこともお姉ちゃんって呼んでも良いよ？」
アリスねぇが厳しい眼差しで口調を変える。また矯正されちゃう。
「うーん、姉ちゃんは姉ちゃんって感じだしなぁ」
お姉ちゃんの座をいきなり現れた暴力女に取られる。悲劇！やるせないわー。
「ユキ、私への挨拶を忘れてるわよ。朝食を作ってあげたわ。感謝しなさい」
「お、おはようございますアリスねぇ。朝食ありがとう……じゃなくてなんでアリスねぇがここに居るの？」
アリスねぇは何を言ってるのって感じで
「姉妹なんだから一緒に暮らすのは当たり前でしょう。今日から私もここに住むわ」
「だが断る！！」
もちろん拒否する。自宅でぐらいゆっくりしたい。
「アリスお姉ちゃんなら大歓迎だよ！姉ちゃん見て！これモーニングってやつだよ！」
モーニングがどうした！家の朝食は毎日日本食だと決めているんだ。
ひなたも横文字に憧れる年になったのか。お兄ちゃんは許しませんよ！
「貴女が女性として更生するまではずっと居るわよ。そう、ずっとね」
「いやー、そういうのはリアル妹にまかせれば良いんじゃないですかねぇ？」
「そういうわけにもいかないの。特に貴女の場合はね」
ん？俺の場合？
「まぁまぁ姉ちゃん。家族が増えることは良いじゃんか！私お姉ちゃん欲しかったんだよね！」
あ、姉ならここに居るんだが……
「ほら、そんなところでボーッとしてないで貴女も食べなさい」
なんか釈然としないがご飯を台無しにするのは俺の主義に反する。
俺は座ってテーブルに並べられた飯を食べる。うん、味は普通だな。
食事を取りながらいつものように新聞を読む。
ーーーー魔女戦争の主犯、七罪の魔女達が牢獄から逃亡。
物騒なニュースだな。まぁすぐに捕まるさ。
ーーーーーーー世界中の時計が一斉に狂う。
怖っ！怪奇現象かよ。
ーーーーーーーーー三毛猫のオス、オスカーくんメスに襲われ腹上死か？
オスカーくん可哀想に。猫業界でも女子の肉食化が進んでるのかねぇ、アーメン。ってこれ新聞に載せるネタか？！
朝食を取りリビングで掃除機をかけていると妹とボーッとテレビを見ていたアリスねぇがとふっと思い出したように
「そういえばユキ、貴女新しい名前は考えてあるの？その姿で幸雄はやめておいた方が良いかと思うのだけれど」
あー、確かに。女にしてはちょっと勇ましいよな。
「うーん、特に考えてない。もうユキで良いんじゃない？」
両親に与えられたものだ出来ればあんまり弄りたくない。
「えー、姉ちゃんそれは単純すぎるよ－」
妹はヤダヤダと愚図をついて
「名は体を表すって言うじゃん？もっと姉ちゃんに合った名前があると思う。例えば、スノーホワイトとか！」
横文字好きですね、ひなたさん。周りにスノーホワイトさんって呼ばれたくないわ！欧米か！
「そうね、その方向性でいきましょう」
いっちゃうの？！アリスねぇは乗り気すぎない？
単純なので良いと思うんだけどなぁ。シンプルイズベスト。
あーだこーだと一時間掛けて議論の末、名前が決まった。
ちなみにこの議論では俺の意見は全て却下された。
解せぬ、自分の名前なのに。
俺は柊 白雪 と言う名前になった。
時間を掛けた割に捻りがないと思うが
ま、まぁ。良いんじゃない？
市役所に名前の変更の届けを出しに三人で出かけることとなった。
「その前に服と下着が必要ね。先に買いに行きましょう」
「さんせーい。姉ちゃんどんな服が似合うかなー？浮世離れしてるし甘ロリとか似合いそう」
やめてください。普通のヤツ、ボーイッシュな感じで良いんじゃないかな？！
っていうか甘ロリって君達、感性まで仲良しか！センス悪いわ！
ひなたのお姉ちゃんは俺なんだからな。
さてパジャマから着替えて……って俺って服、昨日のゴスロリしか持ってねーわ。
ゴスロリで街の中歩くって何かのイジメですかね？
夏休み二日目も地獄で終わりそうだ。
誰か俺の平穏を返してくれ！！
