立花 楓は胃が痛い
私は立花 楓。ただのただの内科医である。
しかしそれはあくまで仮の姿だ。
私はTS病の元研究者であり今は罹患率0%と言われるTS病の専門医。
世間を安心させるためだけのただのお飾りの医者である。
その私に緊急に連絡が飛んできた。
白銀の髪を持つ少女が病院へ担ぎ込まれた。恐らくTS病患者である。
その知らせがあって私は早々ととある人物に連絡を入れる。
手本になる女性丙種 白銀殺し 月代アリス。
弱冠16歳にして三人の白銀を屠ってきた強者だ。
エルダーシスターとは表向きには手本となる女性とされているが丙種は関係がない。
丙種とは危険な魔女が周りに被害を出さないように監視するのが目的だ。
暴走するようならその場で殺害することを許されている。
肝心の女性らしさはそこらの女子と変わらない。
「いや、むしろアリス君はワイルドすぎるな」
そう言って少し笑おうとしたが無理だった。
これから看ることになる患者が殺されるかもしれないと思うとどうしても気分が落ち込んでしまう。
研究所に患者が運ばれてくると同時にアリス君がやってくる。
「アリス君、データは見てくれたかい?」
「はい、大まかには頭にたたき込みました」
アリス君は患者の顔をジィッと見ている。
「こんな幸せそうな顔をして……これからどうなるのか分からないのに、だって私が呼ばれたのよ?つまりそういうことでしょう?」
と悲しい声で患者の頭をなでた。そして立ち上がり
「柊 幸雄の体型のデータが取れたら連絡してください。服を買ってきます」
それでは、と言って彼女は立ち去って行った。
妹の服を買いに行くとは彼女も少しは女性らしくなってきているのだろうか。
今度こそ彼女に妹を見つけられるようにと願う。
検査が終わる。
柊君は意図しないときに魔術を使ってしまう癖がある。
そして強度8の結界を破ってしまうほどの魔術型だった。
強度も高いが規模が凄い、いや、凄いで片付けられるレベルではない。
10秒間だけとはいえ、時計以外の時間を止めてしまう魔術。観測結果ではそれが世界全体起こったらしい。
たった10秒間の擦れではあるがその10秒で狂ってしまうシステムなど山のようにある。
今度これを使ってしまうなら本当にアリス君は柊君を殺すしかなくなる。
それを聞いたアリスは「やっぱり、そうなるんだわ」と頭を下を向けてしまう。
「大丈夫だよ。今まで君の見てきた患者は全員異能型だった。柊君は魔術型だ。やることは魔術の監視だけで良いと思うよ」
そう、ですか……と柊君を見て
「この子が目を覚ますまでそばに居ます」
「ああ、お願いするよ。私は今回の件を上に報告するよ、あー胃が痛い」
柊君もアリス君も幸せになって欲しい
姉妹で殺し合うなんてそんな残酷なことがあってたまるか