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日常とは呆気なく崩れ去るものである

 スマホのアラームが鳴っている。



「朝だよ〜起きて!お兄ちゃん」


 いつものアラーム音声。二次元美少女のアニメボイス。

 ただこのアラーム初めこそ優しく起こしてくれるが少しずつ言葉遣いが悪くなっていく。

 なので普段なら飛び起きて妹に飯を作る準備をするのだが、今日はなかなか起きられない。

 今日から学校は夏休みだからな、気が緩んでるんだろう。きっと妹も眠ってるはずさ。

 もう少し、もう少し……

「この糞デブニートの屑兄貴!さっさと起きろや!阿○さんにケツ掘ってもらうか?メーン?」

 いや、それはご遠慮したいです。

 さっさと起きよう……ってあれ?なんだか凄く身体がダルくて寒気が。


 アラームを切り時間を確認すると10時。

 そろそろ起きないと妹のひなたが飯を作れと部屋に突撃してくる。

 しかし今俺の部屋に来られるのは困る。

 全裸で寝てしまったからである。

 いや、引かないで欲しい。

 不眠症を少しでも改善するために敢えて全裸。

 全裸で寝るとグッスリ寝れるのだが二日前に妹に裸を目撃され「小っさ」と鼻で笑われたのだ。

 もう同じ轍は踏まんぞ。ついでに言っておく俺は平均より2㎝ほど小さいだけだ。女性に優しい設計なのだ。

 しかし妹よ、誰基準で判断してるんですかね?もしかして彼氏とか?!お兄ちゃんは許しません!!


 と下らないことを考えながら頑張って身体を起こした。

 うーん、このダルさと寒気は風邪かなー?

 夏休み初日から風邪とはついてないな。



「兄ちゃんいつまで寝てるのー?もう10時だよ-。朝ご飯速く!」

 ドンドンとドアを叩きながら妹が俺を呼んでいる。

「すまん、ひなた。俺どうやら風邪っぽい」

 ん?なんか声が高いな。喉もやられてるのかな。

「兄ちゃんの声が女の人の声に聞こえるんだけど本当に大丈夫?」

「いやー、喉までやられてるみたくてな。ちょっと待ってな、服着るから」

「はぁ、また裸で寝てたの?そんなので寝るから風邪なんて引くんだよ!いいからもう入るよ」

 ガチャっ音を立てて妹が部屋に入ってくる。そして驚愕に目を開く。

「あんた誰?!」

「誰って失礼な。ひなたの愛しのお兄ちゃんだよ」

「いやいやいや、兄ちゃんは普通の男だよ!いつの間に美少女になったの?!兄ちゃんついに童貞拗らせて妖精になっちゃったの?! あと別に愛おしくない」

「誰が魔法使い魔法使い(30歳童貞)か!!まだ猶予が十四年あるわ!やめてくれ、お兄ちゃんだって傷つくんだぞ!」

「じゃあ兄ちゃんかどうか確認します。兄ちゃんの本名と真名を述べなさい」

 真名って厨二病かよ……ほんとに俺らって兄妹だよな。

「フッーー俺の名は柊 幸雄。冴えない高校男児さ。しかしそれは現世における仮の姿に過ぎない」

  クククッと嗤い続ける。

  「俺の真の姿はいずれこの世界を支配する魔王の一柱……!ルーラー(閉じ込める者)のアンヘル。……魔王アンヘルだ!久しいな我が妹にして片割れ、アヴェンジャー(動き始める者)の魔王レグナよ」

「アイタタタターー間違いなく兄ちゃんだ。っていうかレグナはヤメロ。それは捨てた」

 妹は嬉しそうに笑いながら「じゃあなんで女の子姿なの?」と聞いてきた。


「いや、まだそのボケ続いてるの?女になる男なんてもういないぞ。TS病はワクチン摂ればもう発症しない病気なんだ。俺はちゃんと注射してもらったからな。そんな馬鹿なことがあるわけ……」

 と言いつつ俺は自分の身体を見下ろしそして。


「お、おっぱいぃぃいいいいいいいいぃいいいいいぃいい」

 絶叫して気絶した。






「ーーちゃん!にいちゃん!起きてよ兄ちゃん!」


 うーん、いつから俺のアラームがリアル妹風になったんだ?

 お兄様とかにぃにとかそういう風に呼んでくれませんかね。リアル妹萎えるわー。

 女になるという悪夢を見たんだ。お兄ちゃんに癒やしをくれ〜


「ーーおう、おはようひなた。いやー、最悪な夢見たわ。身体が女になる夢。TS病なんてもうないのになぁ」

「うん、おはよう兄ちゃん。 って違う!それ夢じゃない、兄ちゃん自分の胸見て気絶したんだよ!」

 あっはっは。胸を見て気絶?そんな間抜けなことするわけないじゃないですかー。

 こう見えてもお兄ちゃんは学校ではクール()で通ってるんですよ?

「意識を強く持って、もう一度身体を見てみて。大丈夫、おっぱいは怖くない」

 そう言われて俺はもう一度身体を見下ろす。

「何じゃこりゃぁぁぁぁぁ?!」

「だから兄ちゃん、TS病だよ。なんでか分からないけど罹っちゃったんだよ」

「いやいや、多分あれだ、女性化乳房ってヤツだよ。たまに居るらしいよ。しかし大きいな、何カップくらいあるんだ?手術で取れるかな?」

 妹は俺のことを馬鹿を見る目で俺を見ている。

「じゃあ兄ちゃん。目線を更に下に落としてみなよ」

 真面目な顔でそう言ってくる妹を見ると段々不安になってくる。

 COOLになれ俺。TS病はもう発症しない病気なんだ。きっと下を見れば俺の立派な隠し拳銃が……

「お、おマン「言わせないよ?!」ーーーー!!」


 数十秒後俺は現実を受け止めた。


「いやー妹よ、身体が女になるなんてお兄ちゃん初めてだから驚いちゃったよ」

「いや、多分誰でも驚くと思うよ。っていうかむしろもっと驚くと思う」

「冷静さにおいて俺の右に出るヤツはいないからなぁ」

「おかしいな。兄ちゃんが馬鹿っぽいこと言うとなんだか落ち着く。いつもなら腹立つだけだけど」

 いや、お兄ちゃんは大真面目だよ?

 ああ、でも少しヤバいかも

「ところで妹よ」

 俺はいつもとは違う真剣な顔になる。

「どしたの?」

 釣られて妹も真剣な顔に

「悪いが救急車頼む……マジでキツい。意識保てない……」

 ダルさと寒気で酷い体調だ。

 インフルエンザで40℃超えた時より辛い。


「に、兄ちゃんーーーー!!!」

「I'll be back」

「あ、結構余裕ありそう」

 うむ、お兄ちゃんは不滅だ。


 俺の意識は暗転した。

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