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結婚したけど逃げ出したい 13

僕たちは急いで三番倉庫に戻ってきた。

馬車はしっかりと兵に守られ、馬もつないであった。

留守中に変わりは無かったようだ。僕は、ほっと胸を撫で下ろして、馬車の扉を開いて中を覗き込んだ。


「ケイシー、無事に終わったよ。今日は一旦ダグラス家に――…」


途中で言葉が止まったのは、馬車の中の雰囲気が想像とあまりにも違ったからだ。

そもそも、いると思っていた人数も違う。

馬車の中にはケイシーとリンデル様とエレナさんの三人だけのはずなのに、四人いる。しかも最後の一人は護衛兵の男だ。

ケイシーとエレナさんは隣り合って項垂れていた。エレナさんはいつもリンデル様の隣に座っていたはずなのに、何があったのか。


そしてそのリンデル様は、何故か護衛兵の膝の上にいる。


「リンデル様…!?この兵は一体…」


しばし固まっていると、弱々しいケイシーの声がした。


「トゥーイ君…あの…この方は…」

「この方?」


ケイシーはふるふると震えながら護衛兵に目を向けた。

僕もつられてそちらを見ると、護衛兵は兜を脱いでこちらを見た。


「あ…!!」


我が目を疑う光景だった。滑らかな黒髪に輝く青い瞳。

端正な顔をしたその男は、ふっと柔らかく微笑んだ。


「ご苦労だったな、トゥーイ」

「な…殿下…!?何故ここに!?」


そう。そこにいたのは王太子殿下だったのだ。

思わずよろりと身を引いてしまったが、その時後ろからエリックの声が聞こえた。


「あー…トゥーイ、すまない。実は殿下もここへ来ていて…」

「言うのが遅いよ!ていうか、なんでこんなところに殿下が来てるのさ!!」

「…妃殿下をお迎えするためだ」

「はぁ…?それにしたって…」


再び馬車の中を見ると、ご機嫌そうにリンデル様を膝にのせている殿下と目が合った。


「私はこれが愛しくてしょうがないんだ。驚かせたのは謝る」


ちらりとリンデル様を見ると、暗がりでもわかるくらいに赤くなっていた。


「ええと…王宮の方は…」

「問題ない。内密に出てきたからな」

「問題ないわけないでしょう。エリック、お前もどうして止めないんだ…」


エリックは苦笑すると誤魔化すように胸をはって言った。


「まぁ、何事も無くて良かったな!」

「君たちは危機感が足りないよ!」

「お前に言われたくないな。これで誘拐されたのは何回目だ?」

「…いや、今回のは本当に不可抗力だよ!」

「まぁ、言い合いはこの辺にして、一旦ダグラス家に戻ろう」

「…そうだね」


僕は嫌がるケイシーを馬車に押しとどめると、御者席にエリックと一緒に座った。

あの空気の中にいれる自信が無い。


(ごめんねケイシー、もうしばらくの辛抱だから…)


ダグラス家に戻ると、別の馬車が用意してあった。アデル様が用意していたのだろう。

王太子殿下はにっこりと微笑んだ。


「では、世話をかけたな。ほとぼりが冷めたら、改めて王宮に来てくれ」


彼はそのまま有無を言わせずリンデル様を抱えて馬車に乗り込んでしまった。

エレナさんはぐったりとしながらも深々と頭を下げてくれた。


「本当にご迷惑をおかけしました…」


彼女が足取り重く馬車に乗り込むと、馬車はさっさと王宮に向かって走り去って行った。


僕たちはダグラス家に泊めてもらうことになっていた。赤蛇は全員捕らえたはずだが、取り残しに逆恨みされてワトソン家を狙われる可能性もある。誘拐された時の馬車はワトソン家の家紋がついているのだ。油断はできない。

取り調べではっきりするまでは、ダグラス家にお世話になることにしたのだ。

ダグラス家の屋敷に入るとアデル様が待っていた。


「よくご無事でお戻りになりました。大変でしたね」

「ご心配をおかけしました」

「お疲れでしょう。今夜はゆっくりなさってくださいませ」


僕たちは客室に案内された。軽食とお茶をいただき湯あみさせてもらうと、もうまぶたが重くなってきた。

ケイシーもさすがに疲れが出たようだ。ぐったりと椅子の背に寄りかかっている。


「ケイシー、ベッドへ行こう」

「あ…はい…」

「今日は本当に色々あったね…」

「えぇ…」


ふかふかのベッドに潜り込むと、ケイシーはすぐにとろとろと眠りに入ってしまったようだ。

彼女が眠ったのを確認すると、僕も目を閉じた。

すっと意識が遠のくと、もう朝まで目は覚めなかった。

それからしばらくはダグラス家で過ごし、ワトソン家に戻ったのは一週間後だった。


〇〇〇


貴族を誘拐した赤蛇が全員捕らえられ、大きな違法取引が阻止されたということが発表され、王都ではしばらくその話題で持ちきりだった。

そして、偶然居合わせたダグラス家の兵が誘拐された貴族を助け、赤蛇を捕らえたということで、ダグラス家には褒賞が与えられた。誘拐された貴族の家名は公表されなかった。


お株を奪われてしまった王都の守備兵達は、必死に赤蛇の取り調べを行った。

トトルは厳しい取り調べでも一貫して主張し続けた。


「あの取引は、黒犬から譲り受けただけだ!!俺たちは騙されたんだ!!」


守備兵は、違法な物がどこから来たのか調べていた。すると、三番倉庫からは、赤蛇たちがそれらを仕入れていたという証拠の書類が出てきたのだ。

他の赤蛇のメンバー達も口々に黒犬のことを叫んだが、守備隊達は聞き入れなかった。

何故なら、黒犬が関わったという証拠が全く出てこないのだ。

倉庫にある書類の全てには赤蛇のサインがあり、筆跡すらトトルや他のメンバーのものと一致したと言う。

倉庫街はあたかも以前から赤蛇が牛耳っていたかのようだった。

赤蛇のメンバーは全員投獄され、その後全員が処刑された。取引物が悪質な物であったことや貴族誘拐が重罪として裁かれたのだ。

守備兵は赤蛇の訴えから黒犬という組織も調べようとしたが、何故か彼らはふつりと消えてしまったという。


倉庫街は、これを機に組織の手が入りにくいよう整備されることになった。

危険な地区であった倉庫街に介入することに躊躇していたのか、いくつもある商会はそこに手を出そうとしなかった。

だが、やがて一つの商会が手を上げ、守備兵の警備を受け入れながら倉庫の管理をすることになったのだ。

その『ハウンド運輸商会』は、他の商会からの荷物を預かったり水路を利用して倉庫からの輸送を行うことで、大きな利益を上げていった。

倉庫街で安全に荷物がやりとりできるようになり、他国の商会も頻繁にそこを利用するようになったのだ。

ハウンド運輸商会自体もソヴェトやコーウェンとのやり取りが多いようで、街には様々な品が入るようになってきていた。


王都の人々は、闇組織が一つ無くなり河川沿いの倉庫街が便利に使えるようになったことに喜んだ。


ハウンド運輸商会の社長は、一躍時の人となった。



まだ続きます!


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