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令嬢は王子にドン引きする

ちょっと虫話注意です。

王子のやばさをあげれば枚挙に暇がないのだが、少し思い出してみよう。


婚約してから、本当は王宮に行くのも王子に会うのも嫌だった。

しかし、招かれるのだからしょうがない。そして、会えば会話しなければならない。

会話の糸口として、こんな質問をしてみたことがあるのだ。


「殿下は、普段何をして過ごしていますの?」

「勉強や鍛錬の他には、動物を見ていることが多いな」

「動物を…見る…?」

「見に行くか?」


そう言った王子に連れてこられたのは、庭園の隅にある施設だった。

そこには、大きなケージに入れられた様々な動物がいた。

可愛らしい小鳥たちやリス、ウサギ、ハムスターなど。変わったところでは小さなサルもいた。

施設の後ろには、ドッグランまで。


施設の扉を王子が開けると、動物たちがぎゃあぎゃあと騒ぎ出した。


「まぁ、たくさんいますのね…!」


さすがに、こんなにたくさんの動物を間近で見ることはなかったので感動してしまった。


王子も動物好きなど可愛いところがあるではないかと思っていたら、王子がすっとケージの前に座り込んだ。

とたんに、さっきまで煩いくらいに騒いでいた動物たちが、しんと静かになった。

ガラッと変わった雰囲気に、思わず立ちすくむ。

わたくしから、王子は背中しか見えないが、その様子はかなり異様だった。


「え…殿下、何をされているのですか?」

「だから、動物を見ている」

「は…?」


どんな顔してこのわけわからんセリフを言っているのかと思って、王子の前に回ってみた。


「ひっ」


思わず、抑えきれない悲鳴が出てしまった。

泣きださなかったわたくしを褒めてあげたい。

いやちょっと涙目にはなったかもしれない。


王子はものすごく真顔でケージを見ていた。そう、あの底冷えする瞳で。

色合いとしては明るい青色なのに、どうしてそう暗い印象を受けるのかわからない。

そして、もっと怖いのは、時々脈絡もなくうっすらと笑うのだ。

他に、撫でたり餌をやったりしないのかと聞いてみたが、本当にこうやって見ているだけだそうだ。

しかも三時間とか平気でそのままらしい。


(…怖すぎますわ!!動物たちが可哀想…!!)


呆然としてケージを見ると、動物たちにもこの異様さが伝わっているのか、できるだけ身を縮めてケージの隅に丸まっているではないか。

あの何も考えていなさそうなハムスターですら、慌てておがくずの中に潜り込んで行った。


「あ…あの、外にドッグランもありましたわね?犬もいるのですか?」


可哀想な動物たちから、このやばい王子を引き離すため、外に行こうと誘ってみたのだが。


「あぁ、犬は先日病気になってしまって、他にもらわれていったんだ」

「病気ですか?それは心配ですわね…」

「まぁ脱毛症という話だから、死にはしないと思うんだが」

「…………」


(その脱毛症の原因は、確実にストレスですわね!!)


普通、犬とは飼い主大好きになるものではないのだろうか。

別の飼い主に引き取られたのは、その犬にとって何よりの治療になったに違いない。


その他にも、王子がアリの行列をじっと見つめているかと思えば。


「アデル知ってる?外国のアリの話だけど、移動するときに水場があったらアリ同士が繋がって橋みたいになったり、舟みたいになるらしいよ。このアリはどうかな?」

「…今、外国のアリって言いましたわね、このアリは多分無理ですわよ」

「そうなのかな」

「…殿下!水を取りに行かないでくださいませ!」


わたくしは、噴水の方へ向かおうとする王子の袖を慌てて引っ張る羽目になった。


また別の日、王子が朝露に濡れたでかい女郎蜘蛛の巣を見つめているかと思えば。


「アデル知ってる?蜘蛛って引っ付く糸と引っ付かない糸が出せるんだって。引っ付かない糸を歩いて巣を移動しているんだよね…。この巣全体でこの蜘蛛を巻いたらどうなるのかな?」

「ぜったいに!!試さないでくださいまし!!」


わたくしは、蜘蛛が怖くて遠巻きにその様子を見ていたため、令嬢らしからぬ絶叫をすることになった。


王子が庭園を案内してくれた時、珍しく花壇で花を見ているなと思えば。


「アデル知ってる?この花、アデニウムだよ。アデルに名前が似てるね。別名砂漠の花って言うんだよ」

「初めて見ますわ。可愛い花で…」

「これ、煮詰めると毒になるらしいんだけど、どれくらい量がいるのかな?」

「…誰が植えたのですか!?」


王宮の庭に毒性のある植物が植えられているはずがない。わたくしは、庭師を問い詰めることになってしまった。結果、こっそり手配して植えさせたのは王子本人だった。

何考えてるんだこの王子は。


二人で散歩をしている時、生け垣の空きスペースを見てぼんやりしているなと思えば。


「アデル知ってる?エンジェルトランペットって言う…」

「絶対に!植えさせませんわよ!!」


わたくしは、王子にリクエストされてうっかり植えてしまわないよう、庭師に対して徹底的に毒性のある植物の知識を叩き込むことになってしまった。


また別のお茶会の日、通りすがった使用人を見つめているかと思えば。


「アデル知ってる?あの従僕なんだけど、彼は時々裏門のあたりで町娘と会ってるんだよね。恋人だと思う?」

「なんで殿下が知ってますの?」

「尾行したから?」

「…プライバシーの侵害ですわ」

「子供の悪戯だよ。大丈夫、見つかってないから」

「……………」

「あの従僕に恋する女官とその女官に恋する騎士もいるんだけど、どうしたらいいかな?」

「…王宮の人間関係をかき回すのはおやめになってくださいね!」


その後、あれがその女官と騎士だよと教えられ、しばらく微妙な気持ちになってしまった。


ある日唐突に呼び出され、何故か一緒に王宮で帝王学を学ばされたかと思えば。


「アデル知ってる?今、帝王学を教えてた家庭教師、王宮で誰かと文通してるんだよね。誰としてると思う?」

「王宮で…文通ですか…?」

「あの廊下に置いてある大きな壷があるでしょう?その後ろの壁板が少し外れるんだけど、そこにいつもメモを差し込んでるんだよね」

「何故殿下が知って…」

「そりゃ見たからだよ」

「また尾行ですか?」

「そう。でも返事は返ってきてないみたいだけど」

「…?誰かが受け取っているだけということですか?」

「多分、メモの内容的に僕の情報を誰かに流しているんだと思うんだよね」

「どうやってメモを…ではなく大至急!国王陛下にお知らせください!!!」


わたくしは、その後その家庭教師を見かけなくなった。

たまにこうして不埒者を炙り出すことができるので、王子の尾行も功を奏すことはあるのだが。


わたくしは次々飛び出る王子の仰天発言に、心底うんざりしていた。

動物や虫、植物に興味を持つのは子供として正しい気もするが、方向が斜め上すぎる。


(もちろん、尾行もどうかと思いますわ!!)


救いは、王子は色々調べたり観察したり尾行したりしているものの、直接手を出していないということだろうか。


(なぜ興味がそっちにいくのでしょう…純粋に怖い…)


だが別の日、たまたまいらした王妃様から、王子は物を大事にする子だと聞いて少し見直した。

貴族の子供の中には、欲しい物をとっかえひっかえする者もいるからだ。


しかし、やはりというか、ちょっと変わっていた。


例えば、万年筆やベッドリネンの種類など、一度気に入ったらそればかりを使うのだそうだ。

王子の侍女に聞いてみたら、一旦これと決めてからは変わったことが無いらしい。

もしお気に入りのものが壊れたり使えなくなったりした場合は、能面のような顔をして引きこもってしまうのだとか。

そして、同じメーカーの同じものを頼むのだという。それも使い慣れないと不満そうにしているとのこと。


(なんだかこだわりというか、執着心が半端ないですわね…)


知れば知るほど、王子の好感度は駄々下がりだ。

いや、最初から低いので下がりに下がってもう底が見えない。


(やっぱり、どうにかして婚約破棄しなければなりませんわね!!わたくし絶対にエリックがいいですわ!!)


わたくしは、幼いながらもこの難題に立ち向かっていたのだ。

婚約した当時、わたくしも王子も六歳。


そこから婚約破棄まで約十二年。

本当に、本当に長かった。



小さいころからこの王子はこんな感じだったという…

次は幼馴染パートへ!

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