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商会の次男は暗躍する 14

目の前には、驚きのあまり硬直するケイシーがいる。


(うんうん。そうなるよねぇ)


今日は彼女の社交界デビューの日なのだ。デビュタントのその後は舞踏会となる。

それは王城の大広間で行われ、彼女はつつがなく国王と王妃に挨拶を済ませた。そして、今は父親とのダンスが終わったところである。

彼女は父親にエスコートされ、僕の所へ案内されたのだ。


「え?なぜゴールドスタイン君が…??」

「次は彼と踊りなさい」

「はぇ!?」


ケイシーのお父上はそれだけ言うと、肩をすくめて去って行った。

この国のデビュタントの舞踏会では、父親の後は婚約者がいればその人と踊るのが定番なのだ。


「でも、な、なぜ?え?」

「さぁ、じゃあ踊ろうか」


僕が手を差し出すと、彼女は呆然としたまま手を乗せてきた。

くるりとダンスの輪の中に入ると、彼女は危なげなくステップを踏んで応えてくれた。


「あの?私には、さっぱりどういうことか…」

「うん。まぁ簡潔に言うと、僕はワトソン家に婿入りすることになったんだ」

「え!?わぁ!?」

「おや、気を付けてね」


ステップを踏み損ねた彼女をフォローするが、ケイシーは目を点にしていた。


「婿入り?どうやってですか?」

「え?君と結婚するに決まってるじゃない」

「ちょ!?ぎゃ!」

「だから気を付けてってば…」

「せ、説明をお願いします…」

「んん?じゃあこのままダンス続けながら説明するね」


一曲目は、ケイシーが驚いている間に終わってしまった。二曲目だ。

僕はできるだけ簡単に話した。あんまり簡単にしすぎて二曲目の半分で終わってしまった。


「うん。君が望まない結婚をするって聞いたから、僕が婿入りすることにしたんだよ。一応、貴族の養子になったし、身分はまぁこれで我慢してね。それに、ワトソン美術商の方も僕が手入れして、ゴールドスタイン商会と提携することにしたから安心して」

「な、なんで私の結婚のことを知っているんですか?それに、そうなった経緯が全く分かりません…」

「え?こんなに簡潔に説明したのに?」

「い、いえ、どうやってというより、な、なぜ私となんか…」

「あ、そこなの?そんなの決まってるじゃない。僕がケイシーを好きだからだよ。君も僕のことを気に入ってるでしょう?何せ、『妖精』だなんて呼ぶくらいなんだから」

「…!?」


ケイシーは口をぱくぱくしているが、それでも頑張ってステップは踏んでいた。

三曲の曲が終わり、一度ここで演奏は小休憩になるらしい。

僕はケイシーを大広間の中心へ誘導すると、彼女の前に跪いた。


「え!?」


周りの人垣は、何が起こるか察したようだ。興味津々の表情でそれを眺めている。

僕は恭しく彼女の手をとった。


「ケイシー・ワトソン嬢。僕は貴女に結婚を申し込みます」

「ちょっとゴールドスタイン君!?」

「もう僕はゴールドスタインではなく、ダグラスです。それに、どうかトゥーイと呼んでください」

「トゥーイ君!?ダグラスって!?」

「エリックにちょっとね。僕、ダグラス公爵家の養子になったんだ」

「ダグラス公爵家に養子に入れるっておかしいですからね!?」

「うーん。持つべきものは友達だよね。それに、情けは人の為ならずだよ」

「えぇ!?」

「彼も、ケイシーが頑張ってくれたことを聞いたら是非協力すると言ってくれてね」

「ま、まさかノートのことを」

「いや?それは大丈夫。それより、返事が欲しいんだけど?いつまで待たせるつもり?」


微笑んでケイシーを見上げると、彼女はゆでだこのようになっていた。


「な!でも、あの」

「返事は、はいかいいえで」

「ぅ、は、はい…」


ケイシーが顔を真っ赤にして返事をすると、周りで盛大な拍手が起こった。

壁際のワトソン夫妻もにこにこと拍手している。

遠くでエリックとアデル様もにこやかに微笑んでいる。

目の端で倒れたのはウッドだったかもしれないけど、そこは無視しよう。親衛隊の仲間がどうにかするだろう。


プロポーズが上手くいったので、僕はバルコニーへ引っ込むことにした。これ以上注目を浴びるとケイシーが死ぬかもしれない。

適当にとってきた果実水を彼女に渡すと、ケイシーは一気飲みしてしまった。


「き、聞きたいことが山のように…」

「え?あんなに説明したじゃない」

「ゴールドスタイン商会ではどうなっているのです!?」

「うん?ワトソン美術商がパトロンをしてた若手の画家の絵を、新商品のパッケージに起用したんだよね。それが結構評判でね。それを僕がこれからも引っ張るって言うのと、貴族に婿入りするなら販路が広がるってことで、割とあっさり婿入りの許可は得たんだよ」


ゴールドスタイン家には兄もいるし、親父殿は商売の幅が広がるならと許してくれたのだ。というより、これから貴族向けの商品は全て僕に任せてくる勢いだ。


「で、でも、うちの家は火の車で…」

「大丈夫。僕は商売のプロだからね、しばらくは赤字かもしれないけど、若手画家が有名になれば彼らの絵の価値は上がるから、それまで待ってるよ。他の美術品はケイシーに手伝ってもらって見定めるね」

「領地の経営は…?叔母様と従兄弟は…?」

「領地経営は、しばらくお父上とケイシーに頑張ってもらおうかなと。今から僕も勉強すれば、将来的にはどうにかなると思うし。従兄弟君には諦めてもらったから安心して」

「そ、そうですか…」

「ひとまず、問題はないと思ってくれていいと思うよ」

うんうんと頷く僕に、彼女はまだ信じられないという目をしている。

「ゴールドスタイン君、あの」

「トゥーイ」

「トゥーイ君、ちょっと私のこと叩いてくれませんか…?」

「え?ケイシー、そういう趣味があったの?」


女性に手を上げるのはちょっと、でも望んでるならとためらっていると、彼女は自分で思いっきり頬を叩いた。


「痛い!?」

「ケイシー!?自分でやる方がいいって相当なアレなんだけど!」

「え!?いや違います!夢じゃないか確かめただけです!」

「あぁそういうことか…」


(また身近に変態が増えちゃうのかと思った…)


僕はちょっとほっとして彼女の頬を撫でた。彼女はまた顔を赤くして俯いてしまった。


「ど、どうして、私なんでしょうか…」

「君が好きだって言ったでしょう?」

「信じられません。私は…平凡なので…」


(平凡…?本当に平凡だと思ってるの…?)


アデル様を観察するためにあれだけ隠密と読唇術を磨いて、あまつさえ僕の協力を仰いであの三人に降りかかる事件を解決していった人が何を言っているのだろうか。

思わず眉を顰めてしまったが、きっとこれは長い話になるだろう。


「君は素敵な人だと言っただろう。信じられないなら、僕がおかしいってことになるけど?」

「そ、そんな」

「君は卒業したら、美しい人が見れなくなると残念がっていたね?」

「はい…」

「結婚したら、僕を毎日見ることになるし、ダグラス家と縁があるんだからアデル様にも会う機会は多いよ、こんな優良物件もうないよ」

「な、なるほど」

「ね?だから僕と結婚しようね」

「…はい。でもこれから、観察日記はトゥーイ君のだけにします!」

「…う、うん?」


ひとまず、彼女はなんとか納得したようだ。僕の苦労もこれでやっと報われる。

三ヶ月でこれをやり遂げるのかなり大変だった。

だが、これからはもっと大変かもしれない。何せ慣れない貴族生活をするのだから。


(でもケイシーとならやっていける気がするんだよね)


あれだけ苦労を共にしたのだから、これからも大丈夫。

大広間では、また演奏が始まった。


「ケイシー、僕と踊ってくれますか?」

「は、はい」


僕は婚約者となった彼女の手を取って、大広間へと連れ立って行ったのだった。




これで商会次男編は終わりです!お付き合いありがとうございました!

こんなに長引くはずでは…お話を書くのは難しいですね。

後は、それぞれの結婚後のお話が少し書けたらと思っていますので、もしよければまた読んでください!


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