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令嬢は王子様と婚約する

両親から婚約の打診をされて一週間後、王宮から王子の話し相手として招待された。


恐れ多くも王妃様と王子、そして母上とわたくしとの四人でお茶会をすることになったのだ。

つまりはお見合いのようなものである。


「…殿下に会うのですね…」

「大丈夫よ。取って食われやしないから」


わたくしは、またあの王子に会うのかと思うと気が重かった。

婚約の話はなかったことにして欲しいと頼まなければならないのだ。


対する母上は気楽なものだった。

母上と王妃様は学園で先輩後輩の間柄だったらしい。

わたくしの母上のほうが三年先輩とのこと。


わたくしたちが王宮に着くと、王妃様はそれはそれは嬉しそうにわたくしたちを迎えてくれた。

王子はその傍らに立っている。表情は、まだ読めない。


「いらしてくれて嬉しいですわ。ハワード公爵夫人、アデル嬢」

「こちらこそ、お招きいただきありがとうごさいます。王妃様、このような機会を設けていただき光栄ですわ。アデル、ご挨拶を」

「お招きありがとうごさいます。王妃様、ルーイ王子殿下」


淑女の礼をして挨拶をしたわたくしを見て、王妃様は笑みを深くした。


「まぁなんて可愛いらしいんでしょう。ルーイ、あなたもご挨拶してちょうだい」

「ようこそ、アデル嬢」


そう言った王子は、なんとにっこりと微笑んでいた。どうやら本当に歓迎されているらしい。

わたくしは拍子抜けした。


(やはりあれは勘違いだったのかしら?でもやっぱりわたくしにはエリックのほうが素敵に見えますわね。どちらにせよ婚約は断らなければ…)


そのまま母上とわたくしは、豪華な応接室に案内され、お茶の時間となった。


王妃様が紅茶とお菓子を勧めてくだった。

おとなしく紅茶を飲んで、お菓子をとってかじっていると、王妃が切り出した。


「急な話で驚いたでしょう?けれど、ルーイが珍しくアデル嬢に興味を持ったようだったから、つい婚約の話を出してしまったのです」

「まぁ、そうでしたのね。でも光栄なことですわ」

「わたくしに……………興味ですか……………?」


(あのパーティーでは一切関わらなかったのに…?)


そう思って、わたくしは恐る恐る王子を見たが、王子は自分の話をされているのに、ぼんやり窓の外を見ているではないか。

王妃様がしょうがないと言わんばかりに眉を顰めて王子に声をかけた。


「ルーイ」


呼ばれて振り返った王子は、わたくしとぴたりと視線を合わせて言った。


「あぁ、アデル嬢のことですね。パーティーの時、僕に興味が無さそうでしたので、興味がわきました」


母上とわたくしはぎしっと固まった。


「「え…?」」

「ほかのご令嬢は、視線がうっとうしくて」


王子はとんでもないことをさらりと言ってのけた。


確かに、わたくしは王子からかなり離れたところにいた。

話しかけたり遠巻きに見つめることもしなかった。

つまり、王子は自分を放っておいてくれる人なら誰でも良かったということか。


慌てて王妃様がルーイ王子を諫めにかかった。


「…失礼しましたハワード公爵夫人、アデル嬢。ルーイ!あなたって子は、ひねくれてるんだから!」


お説教を続けようとする王妃様を、やんわりと母上が止める。


「いいんですのよ、王妃様。どちらにしろ、アデルを気に入ってくださったなら嬉しいですわ。でもまだ二人は幼いですし、正式な婚約はいずれということでどうでしょうか?」

「まぁ、ルーイが失礼なことを申しましたのに、それで良いのですか?」


母上は王子の気に入り方に、思うところがあったようだ。さくっと婚約は仮ということにしてくれた。


(グッジョブ母上!仮の婚約におさめてくださったのね!!これならわたくしがわざわざ王子に頼まなくても大丈夫かも!)


王妃様は、母上が機嫌を悪くしなかったことに安堵したようだ。

臣下と言えどもハワード公爵家の権力は強大。怒らせたい相手ではないのだ。

王妃様は気を取り直したように微笑むと、母上に声をかけた。


「ハワード公爵夫人、お詫びにと言っては何ですが、ここはわたくしたちしかいませんので、わたくしのことは、どうぞ昔のようにメアリと呼んでくださいな」

「よろしいのですか?ではわたくしのことも公爵夫人ではなく、マリアと呼んでくださいませ」

「学園時代が懐かしいですわね…」

「そういえば、あれを覚えておいでですか?」


どうやら昔、二人は割と仲が良かったよう。

そうして二人は昔話に花を咲かせ始めたのだった。


もはや子供はそっちのけである。


もうひとつお菓子をつまもうかと思っていると、ふとルーイ王子と目が合った。王子は黙ってドアを指さしている。

一緒に外に出ようということらしい。

わたくしがこくりと頷くと、王子は椅子から飛び降りてさっさとドアを開けてしまった。


「アデル嬢。庭園を案内するよ」

「ありがとうございます」


母親二人は快くわたくしたちを見送った。


王宮の庭園は素晴らしかった。滑らかに整えられた芝生にきっちりと刈り揃えられた植木達。花壇には色とりどりの花が咲いている。


王子は何も言わずに歩いている。わたくしは並ぶのも不敬だろうと思って、そのすぐ後ろを歩いていた。

しばらく歩いているとポツリと王子が呟いた。


「すぐ婚約の話になるとは思わなかった。ごめんねアデル嬢」

「いいえ…」


正直驚いてしまった。まさか王子に謝られるとは思わなかったのだ。


「けれど、君はやっぱりいいね」

「は…?」

「僕に、本当に興味ないでしょう」

「…」


(肯定していいのかしら…?)


無言になってしまったわたくしに、王子は振り返った。


「僕、寄ってこられるの、本当に嫌いなんだ」

「!!」


王子のふわりと笑った表情は、あの日よりも柔らかだが、眼差しは同じだった。

底冷えするような青い瞳。


(この目!!やっぱり勘違いじゃなかったですわ!!)


歩いていた足がぴたりと止まってしまった。

やはり初対面の時の印象は正しかったようだ。わたくしは、そのままじりじりと後ろに下がったが、王子は距離を詰めてきた。

下がるわたくしを見ても、王子は止まらずに近寄ってくる。

わたくしは、ぐっと踏みとどまってその瞳を見返した。


「ルーイ王子殿下、近いですわ」


そう言って、わたくしは精一杯すました顔をした。もう王子の顔は目の前だ。

いくらなんでも近すぎる。令嬢教育を施されてきた身としては怒っていいところだが、相手は王子。

でもおとなしくやりこめられるつもりはない。

わたくしは、儚げな見た目とは違って我が強いのだ。


(ここは負けませんわよ!わたくしが怯えると思ったら大間違いですわ!)


そんなわたくしの態度に、王子は機嫌を損ねる様子はない。


「アデル嬢、表情が変わらないのはさすがだね」

「日々の訓練の賜物です」

「ご令嬢も大変だね」

「殿下は表情に出てますものね。目が笑っておりませんわよ」


意趣返しにぺろりとそう言ってやったら、王子は目を瞠って黙ってしまった。

そして身を引いて、くすくすと笑い始めた。


(一応、普通に笑えますのね…)


ちょっとびっくりしてしまった。こうして笑っていれば、ちゃんと王子が子供らしく見えるではないか。そういうわたくしも子供らしくないとよく言われるのだが。

しかし、その後の言葉に面食らった。


「あーおかしい。そんなこと言われたの初めてだよ。アデル嬢、やっぱり君を婚約者に据えておいたほうが良さそうだね」

「え!?な…なぜそんな話になりますの!?」

「君は賢くて聡い。僕に一切興味を抱かないところもいい。他の令嬢は本当に面倒なんだ」


なんと王子がわたくしを選んだのは、本当に『他の令嬢では面倒だから』という理由一択。

ものすごく謎な理由で婚約者を決めようとする王子を見て、わたくしは焦った。

不敬とも思わずこう言ってしまった。


「わたくし、他に想う方がいます!」

「だめだめ。ひとまず母上にはもう一度お願いしておくから、諦めて」


驚くことに、他に好きな人がいるというわたくしの訴えはあっさり却下されてしまった。


(普通、相手に想い人がいたらちょっとは考えるのでは!?)


王子は、うっすらと口角を上げて微笑んでいる。相変わらずその瞳は笑っていない。

わたくしは改めて悟った。


この王子、普通ではない。


「お…王子殿下は人でなしですわ!!」

「それ、初めて言われた。面白い言葉だね」

「誉めてないですわ!!」


頭の痛いことに、このお茶会の一週間後に正式な婚約を申し込まれてしまい、受けざるを得なくなった。


母上の気の毒そうな顔が忘れられない。


他の貴族から反対は出ないのかと期待したのだが、わたくしは由緒正しく権威もある公爵家の娘。

しかもわたくし割と才色兼備なので、王子の相手として最良だとあっさりと認められてしまったのだ。


(憎い!わたくしの生まれと美貌と才能が憎い!)


ただ、王妃様からはこっそり「年頃になって、本当に嫌だったら相談して頂戴」と言っていただいた。

王子の性格の悪さには、手を焼いているのだろう。


(絶対に!王子と結婚したくないですわ!性格がひねくれすぎてますもの!!)


それからは、王妃様の言葉を希望に過ごしていた。

本当に藁にも縋る思いだった。

何度か王子の話し相手として王宮に呼ばれて一緒に過ごしていると、その思いはうなぎのぼりに強くなった


この王子、本当にやばい奴だったのだ。



本編は二十話もいかない…かな?

もう一話今日中に投稿します!

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