表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/55

商会の次男は暗躍する 3

僕はゴールドスタイン商会の次男だ。

商会は王都でも大きく他国との取引もある。かなり裕福な部類だが、学園の貴族生徒たちとの付き合いは数えるほどしかなかった。

王子やエリック、アデル様の取り巻きとしてお話をするくらいだったのだが。


「ゴールドスタイン、この前のリップクリームなのだが…」

「トゥーイ君、何の化粧品を使っているの?」

「本当に綺麗な顔ね、羨ましいですわ」


教室に入ると、あのお茶会で話した貴族子息や令嬢が次々と話しかけてきた。

僕は予想外の事態に目を剥いた。

今まで軽く挨拶されれば良い方だったのに。そして隙あらば連れ込まれていたのに。

慌ててエリックとアデル様を探すと、してやったりといった顔でこちらを見ていた。


それから、僕は大勢に囲まれることが多くなった。

学園に入学して半年、僕は確固たる地位を手に入れた。

王子と公爵家二人の友人として。そして、学園のアイドルとして。

それは身の安全を確保するのと同時に、商会次男として情報を得るための礎になった。

身の安全については、ぽつりと襲われそうになったことがあると言ってみたら、それは由々しき事態だと『親衛隊』が結成された。

僕に手を出そうとする輩がいると、『親衛隊』が牽制してくれるのだ。

とてもありがたいが、とても怖い。なんだろう『親衛隊』って。

そんな親衛隊のメンバーも、僕とマンツーマンになると危うい時があったので油断はできない。


アデル様に言われた通り、寄ってくる人の表情や雰囲気を読むことで随分と被害にあうことは少なくなった。事前に察知して逃げることもできるようになった。


振る舞いを変えることで、無理矢理手籠めにしようとする輩もずいぶん減った。

そのかわり、告白されたり熱烈に迫られることが増えた。

襲われることが多かった僕が、一人でもどうにかできることが増えて本当に助かった。

こっちが強気で迫ると相手が腰砕けになるのだ。その間に逃げればいい。


エリックも変わらず親しくしてくれる。

周りに親衛隊がいない時は、やはり彼と共に過ごすことが多いのだ。


だから、僕はエリックの視線に気が付いてしまった。日頃の鍛錬の賜物だろう。


今もエリックは彼女を見ている。彼女はその視線に気がついていないようだ。

彼女は金の巻き毛に琥珀色の瞳の儚げな美少女だ。公爵家の令嬢であり、エリックとの家柄も遜色ない。エリックがそんな美しく賢い彼女を求めてもなんの違和感もないのだが、それは危険な恋だ。

彼女、アデル・ハワードはルーイ王子殿下の婚約者なのだから。


なんとも不毛な恋をしたものだ。


そして、もう一人。謎の視線をありえない人に向けている人を見つけてしまった。

それはなんとルーイ王子殿下だ。本当に謎なのだ。恋かどうかもわからない。

ある種の執着と言えるかもしれない。


相手はなんと男爵令嬢。しかも下町育ちというではないか。

噂好きの親衛隊達が教えてくれた。彼女は現男爵家当主の妹の忘れ形見なのだと。

駆け落ちした当主の妹が流行り病で亡くなった後、この令嬢は行方不明になっていたらしい。

それがどういうわけか十歳の時に見つけ出され、男爵家の養子になったのだとか。

珍しい経歴だから王子も興味を持つのだろうかと思っていたが、どうやらそれだけではないようだ。


そもそも、王子は大変な人嫌い。助けてもらって言うのは何だが、ほとんど人を寄せ付けない変人だ。

それなのに、何故か王子はその男爵令嬢を追いかけている。

他の生徒からは男爵令嬢が近くに寄っていると言われていたが、あれは違う。

だって、望んで寄っているならもっと楽しそうにしているだろう。なぜあんなに怯えているのだ。


男爵令嬢は上手く表情を取り繕ってはいるが、僕の目にはにじみ出る恐怖は隠せていない。

しかも逃げる時はめちゃくちゃ本気で走っている。いいダッシュをしていた。

そして王子はそんな彼女の行く先に先回りしているのだ。

僕はこれで気が付いた。何故王子があんなに人気のない場所に出没するのか。

どうして抜け道などを知りたがるのか。

王子は彼女を探して追いかけていたのだ。

たまに、僕に新しい抜け道は無いかと聞いてくるので、逃がさないための努力は惜しんでいないらしい。その執念が怖い。


王子は男爵令嬢を追っかけているが、アデル様とも仲が良い。

エリックはアデル様をひたすらに想っているが、王子の忠臣だ。

アデル様はエリックとも王子とも親しくしている。今のところ男爵令嬢にも思うところはないようだ。

なんだろうこの関係は。危ういバランスでふわふわしている。

僕は謎すぎる展開に頭を抱えた。一歩間違えば泥沼だ。


そして、決心した。


「情報だけ集めて、知らんぷりしよう」


うん。それが一番だ。

何か大変なことが起こるなら火の粉を被りたくない。

そして、その情報を使って儲けられるなら、それに越したことは無い。

商人というのは機を見るものだ。

現状、僕は静かにしている道を選んだ。


王子の奇行はエリックも訝しんでいるが、下手に情報を与えるとエリックが暴走しかねないので言わなかった。もし王子の婚約者に手を出してしまえばエリックの評判は地に落ちる。

僕に欲情しない貴重な友人にそんなことはさせたくなかった。

このまま何事も問題なければ、王子とアデル様は結婚する。現に二人の仲は悪くない。


ただ、エリックがあまりに可哀想なので、アデル様のことは諦めたらと言ってあげたら何のことだとしらを切られてしまった。

ちょっとむかついたので、何故分かったか滔々と語ってやったらもう勘弁してくれと机に突っ伏してしまった。

僕も強くなったものだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ