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番外編 商会の次男は暗躍する

またまた番外編です。よろしくお願いします!

エリック編で出てきたトゥーイ君のお話です。

本当に、毎度毎度どうしてこうなるのだろう。

寄ってたかって自分を押さえつける腕に、どうにか抵抗しようと僕は力を振り絞った。

なのに、その細腕はびくともしない。


(なんでだよぉ!!)


一応僕も男なのだけど。そこそこ力はあるはずなのに、どうして振り払えないのか。

興奮している人間というのは、いつもより力が出るらしい。


「まぁっトゥーイ君!おとなしくなさっていてね」

「本当に綺麗な肌ねぇ…」

「じゅるり…はやく剥いてしまいましょうか!」


なんとも恐ろしい会話が聞こえてきた。


「んうぅ!!」


猿轡をされているため叫び声も出せない。

目隠しで相手の人相も見えないが、その声には聞き覚えがある。

入学早々、頻繁に声をかけて来ていた上級生達だろう。

腕はすでに何かに縛られて、洋服のボタンは外されている。そしてその手はズボンへと――。


(やばいやばいやばい!!)


このままだとリアルに手籠めにされてしまう。童貞卒業がこの状況とか涙も出ない。


(だ、誰か助けて―――――!!)


最悪の事態に心の中で助けを呼ぶと、その人は颯爽と現れた。


「何をしている?」


急にガラリとドアが開いた音がして、静かな声がした。


「きゃあ!誰!?」

「王子殿下…!?いえ、私達はなにも!!」

「し、失礼します!」


バタバタと慌てて数人が立ち去る音がした後、沈黙が広がった。


(た…助かった…!?でも王子殿下ってまさか…)


僕が混乱していると、するりと目隠しがとられた。そして、目の前にいたのはやはりルーイ王子殿下だった。黒髪碧眼のこの国の第一王子。


「…………!!」


王子はそのまま僕の猿轡と腕の戒めを解くと、不思議そうに聞いてきた。


「…これは、何かの遊びだったのか?私は邪魔をしてしまったか?」


とんちんかんなことを聞いてくる王子に僕は項垂れた。


「助けていただきありがとうございます。お恥ずかしながら、襲われておりました…」

「そうか。それは良かった」


僕は慌ててボタンを締め直し、服装を整えた。

王子を見ると、彼は本当に不思議そうな顔をしていた。


「だが、何故お前が襲われるんだ?」


男だよな?と言わんばかりの表情に胸が苦しくなる。

本当に、僕の方がそれを聞きたい。


「何故か…ええと、昔から誘拐されそうになったり、襲われたりするのです…」


小さい頃は何度誘拐されそうになったかわからない。

両親はそれに辟易として僕を街に出さなくなったくらいだ。

厳しい警護のある学園だからこそ、こうして家から出ることを許されているが、まさか学園内で襲われると思っていなかったから油断した。


柔らかなアッシュブロンドの髪に垂れ目のブルーグレーの瞳。左目の泣き黒子がチャームポイント。

僕は昔から、天使のように可愛いと言われてきた。そして悪魔のように色気があるとも言われている。

そのせいで、男性女性問わずに襲われるのだ。全く嬉しくない。


「そうなのか、災難だな。気をつけろよ」


以前、襲われていたところを助けてくれた人に、また襲われたことがあるので警戒していたのだが。

王子は全くそんなそぶりを見せずにそういうと、あっさり出て行ってしまった。


「あ、ありがとうございます…!」


僕はさすが王子だと感動してしまった。


そして数日後、僕はまた王子に助け出された。

場所は使われていない教室の一つだった。


「…………あれ、お前は…………」

「殿下…!」


今度は男子生徒に組み敷かれていたので本当に危なかったのだ。

その三日後。場所は倉庫の一つで、相手は学園に教材を卸に来た業者だった。


「…………またお前か…………」

「殿下ぁぁ!!」


王子はもう渋々といった様子で僕を救出してくれた。

王子とあろう者が、何故こんなに頻繁に人気のない場所をうろついているのだろうか。


そのおかげで僕は助かっているのだが。幸い前も後ろも新品だ。

王子には感謝してもしきれない。

彼は呆れた顔で僕に聞いてきた。


「お前、名前は?何組だ?」

「トゥーイ・ゴールドスタイン。B組です…」

「ゴールドスタインということは、あの商会の?」

「そうです」

「B組ならエリックがいるな。エリック・ダグラスは知っているか?」

「は…はい。ダグラス公爵家のご子息ですね」

「私からエリックにお前のことを頼んでやるから、あいつに世話をしてもらえ」

「そ、そんな、恐れ多い…」


ただの商会の次男に公爵子息は身分が違いすぎる。王子とはもっと違うのだが。

王子はかすかに眉根を寄せた。


「かまわない。お前に度々遭遇するのは面倒だ」

「すみません…」


僕は深く首を垂れた。

だが、ふと疑問が頭をもたげてきた。


「何故殿下がこのような場所に足を運ぶのですか…?」


ぽろりとこぼれた疑問に、王子はふわりと微笑んで答えた。


「曲者が忍び込みそうな場所を洗っているのだよ」

「そ、そうなんですか…」


確かに王侯貴族が集う学園であるから警備の穴は無い方がいいだろう。しかしそれは王子の役目なのだろうかと悩んでいると、王子はにっこりと話しかけてきた。


「ゴールドスタイン。お前が他に連れ込まれそうになった場所はあるか?」

「は…そういえば、部室棟の用具室とか使われていない準備室なんかでしょうか…」

「そこは、人気がないのだな?」

「そうですね…時間帯にもよるかと思いますが」

「ふむ。ならばそこに逃げ込む可能性はあるわけだ…」

「え?」

「いや、いい意見が聞けて良かった。他に逃走経路として使えそうな場所はあるか?」

「そういえば、追いかけられて偶然抜け道を見つけたことがあります」

「どこだ?」

「…ご案内します」


僕がそこを教えるとたいそう王子はご機嫌になった。よく分からないが、「これでかなりショートカットできるぞ」と嬉しそうにしていたので何よりだ。


王子は本当に僕をエリック・ダグラス様に紹介してくれた。

ダグラス様は相当驚いていたが、経緯を聞くと快く僕の世話を引き受けてくれた。

王子と公爵子息の友人であるということが知れ渡れば、少しはましになるだろう。

そこそこ効果はあった。少なくとも、公爵子息と一緒にいる僕に手を出そうとする生徒はいない。

今まで、一人で行動することが多く、うっかり声をかけられて着いて行ってしまっていたから駄目だったのだ。

でも上級生から頼みごとをされて、着いてきて欲しいと言われて断れるだろうか。僕には無理だ。

だが、連続で連れ込まれて反省したので、基本的に断るようにした。

ダグラス様からもそうしたほうがいいと助言されたのだ。

一度、彼から離れてうっかり連れ込まれたところを、ダグラス様が慌てて探しに来たことがあった。

ほぼ服を剥かれていたので間一髪だった。


「本当に、災難ですね」


そう優しく労わってくださるのは、王子の婚約者であるアデル・ハワード様だ。


「恐れ多いことです。ハワード様…」


彼女はハワード公爵家のご令嬢。ダグラス様は王子のご友人でもあり、ハワード様とも仲がいいらしい。よくよく聞けば二人は幼馴染なのだという。

ダグラス様がふうとため息をついた。


「ゴールドスタイン、俺から離れるなと言ったろう」

「すみません。資料を運ぶだけだと言われたので…」


僕は項垂れた。どうしてこんなに襲われてしまうのだろう。

大体、僕を襲う人は魔が差したというのだ。それか僕に誘われたと言う。

言っておくが、誘ったことなど一度もない。

その色香に当てられたんだと責められたことも何度もある。

皆、僕といるといつの間にかぎらぎらし始めてしまうのだ。


だが、目の前の公爵家の二人からは微塵もそのような様子は感じない。

かなり希少な人たちだ。


「困りましたわね。これでは落ち着いて勉強ができないでしょう?」


ハワード様は愛らしく小首を傾げると、憐みの瞳をむけてきた。

こんな美少女に憐れまれるのは、なんだかものすごく悲しい気持ちになってくる。


「この顔が悪いのでしょうか…傷でもつけてみようかな…」


しゅんとした僕に、ハワード様が閃いたと提案してきた。


「いっそ、アイドルになるというのも一つかしらね」

「は…?」

「ほら、人気者になれば、大勢から守ってもらえるようになるかもしれないわよ?」

「えぇ…?」


ダグラス様は首を傾げている。


「そういうものか…?」


ハワード様はじっと僕の顔を見つめてきた。


「ゴールドスタインさん。あなたもこれから商会の仕事に関わっていくのでしょう?お商売というのは対面で商談するのが普通です。なのに、今後商談中に襲われるのでは話になりません。自衛できるよう修行したほうがいいですわ」

「ど、どうしたら…?」

「もっと人を疑うことをお勧めします。それと、表情と雰囲気をしっかり読むように。大事なのは、襲われないような状況を作ることですわね」

「なるほど…」

「ゴールドスタインさんが、色気過多だというのはもうしょうがありません。そういう星の元だと諦めることです。それに、そのお顔はわたくしも大変美しいと思うので、下手に傷つけるのはなしにしましょうね」


ハワード様はにっこりとそういうと、扇子で僕の頬に触れた。


「アデル」


ダグラス様がハワード様をいさめるように声をかけると、ハワード様は楽しそうに続けた。


「わたくしの主催するお茶会に招待いたします。そこで、ゴールドスタインさんのファンを作りましょう。大丈夫です。警備はしっかりいたしますから」

「ほ、本当ですか?」

「はい。ですから、ゴールドスタインさんも面白い話題を持ってきてくださいね」

「わかりました」

「おい、いいのか?ゴールドスタイン。それにアデルもわざわざ…」

「まぁ、わたくしは御招待するだけですわ。エリックも来てくださるでしょう?」

「…それはもちろん…」

「ね?まずは人脈を広げて、ファン層を厚くしましょう!」

「は…はい…」


こうして、僕はハワード家のお茶会に招待されることになった。

当日は、ダグラス様が付き添ってくれることになり、衣装の打ち合わせまでした。

早めにハワード家に着くようにと言われていたのでそうすると、ハワード様は満面の笑みで迎えてくれた。

何かお茶会の手伝いでもするのかと思っていたら、ハワード様が可愛らしくこう言った。


「お待ちしていましたゴールドスタインさん。では、さっそくキャラ変いたしましょうか」

「はい…!?」



皆が卒業した後のことも書けるといいなぁと思っております。

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