表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/55

君は王子の婚約者 2

得体の知れないもやもやを、胸にくすぶらせていた時だった。


久しぶりにアデルと会うことができた。

偶然、他家のお茶会にアデルも顔を出したのだ。


季節は夏。お茶会は風通しのいい屋内で行われた。薄いパステルグリーンのドレスを着たアデルは、それはそれは可愛かった。そして、髪にはあのリボン。

見つけた瞬間、心臓が痙攣したかと思った。


(俺の贈ったリボンだ…!)


俺を見つけると、アデルは嬉しそうに挨拶してくれた。

つたないながらもアデルを褒めると、頬を薔薇色に染め、うっとりと琥珀色の瞳が細められた。

俺を見て、幸せそうに微笑む顔は破壊的に可愛かった。


(か…可愛すぎる…!!)


俺は、会えなかった間のあれこれを話したかったのだが、アデルは挨拶をしたらあっさりと他の人のところに行ってしまった。

王子の婚約者が、うかつに男性と長話すべきではないと思っているのだろう。

でもそれから、パーティーやお茶会でアデルを見かける度、俺が贈ったリボンをつけているのを確かめることができた。


(よほど気に入ってくれたのかな…それとも…俺が贈ったから、つけてくれているのか…)


季節が秋へと移り変わる頃、そのリボンが少しくたびれてきたのを知った。


(新しいの贈ってあげたいけど…)


ハンカチのお返しと言う大義名分がない今、アデルに贈り物をする口実がない。

少しほつれてきたリボンを、遠くから眺めながら悶々と考えていたら、アデルの方からリボンの話題が出た。


少しお茶会での挨拶が落ち着き、手洗いに抜け出した時だった。

ちょうど、誰もいない廊下でアデルと出会ったのだ。

なんとなく、やはり目線がリボンにいっていたのだろう。それに気づいた彼女は悲しそうに言ったのだ。


「エリックにいただいたリボンがほつれてしまいましたわ…お気に入りでしたのに。同じものをずっとつけていたからでしょうか…」


少し潤んだ琥珀色の瞳が、悲しそうな表情が、何より俺の贈ったリボンを気に入ったからつけていると言ってくれた気持ちがいじらしかった。

考える前に、口が動いていた。


「…それなら、次の季節の便りと一緒にまたリボンを贈るよ」

「本当?嬉しいですわ…!」

「それくらい、たいしたことないから」

「ふふふ。では、毎回楽しみにしておりますわね」

「うん。ん?」


アデルは儚げに微笑んで、会場へ帰って行った。

いつのまにか季節の便りを送る時には毎回リボンもつけることになってしまったが、それはそれでいいかと流してしまった。

自分の贈った物でアデルを飾れるのなら、なんだってかまわないと思ってしまったのだ。


(だけど、アデルは殿下の婚約者だから…これは幼馴染としての好意だ)


そうやって、都合のいい言い訳を作って恋心を押し殺した。

だってアデルが悲しそうにしていたのだから。しょうがないのだ。


それから、どんな物が彼女に似合うのか考える日々だった。

アデルに会えば常に目で追ってしまうし、なんでもない時にもふと考えることが多くなった。


(アデルは今頃何をしているだろう……………いやこれは贈り物のために悩んでるだけだから)


こうやってよくわからない言い訳をして自分の気持ちを誤魔化していたのだが。

とうとうはっきりと自覚せざるをえなくなってしまった。


ずっとアデルに恋をしているのだと。


俺は王宮で開かれたお茶会で、ルーイ王子殿下と並ぶアデルを見てしまったのだ。

黒髪碧眼の麗しい王子と金色の色彩が美しい儚げなアデル。

正直に言って、とてもお似合いだった。

人見知りの激しいとされるあの王子がアデルに話しかけている。

それにアデルも微笑んで返していた。

それを遠くから眺めて、自分でもおかしいほどショックを受けていた。

二人が婚約していることは知っていたのに、目の前で見て改めて認識したのだ。


(本当に殿下とアデルは婚約しているんだ…)


すぅっと手足が冷えたのに、胸がぐっと熱くなった。

ふつふつと湧くこの気持ちが、嫉妬ではないとどうして言えるだろう。

これだけアデルを愛しく思っているなんて知らなかった。

ああやって微笑みを向けられるのは、俺だけだったはずなのに。


(俺は…俺はアデルが好きなんだな…………でも彼女は殿下のものだ…)


痛む胸をどうにか抑え、なんとか目を逸らして他の貴族子息達と話していると、アデルが声をかけに来た。


「あちらで殿下とお話しませんか?」


アデルは王子にも社交をさせようと俺たちを誘いにきたのだ。貴族子息だけでなく、他のご令嬢も快く王子と同席させたアデルは、思慮深く寛大な令嬢だと評判になった。


王子の婚約者としてこれだけふさわしい令嬢はいない。

この婚約が解消されることは、まずないだろう。


恋に気が付いたのはいいが、想い人はすでに雲の上だ。

わかっていながら諦められない。きっとアデルが本当に王子と結婚するまでは、この思いは消えることは無いだろう。果たして消えてくれるのかもわからない。


でも、もし。


もし、アデルが婚約解消されたなら、一番に想いを伝えよう。

俺はそう決めた。


だから、父上から他のご令嬢と婚約を打診されても頷かなかった。

母上が上手く言いくるめてくれたのはありがたかった。



アデルさんの目論見はほぼ全てエリックにクリーンヒット!


お茶会で王子とアデルがにこやかに話していたのは、アデルが王子に他の令嬢を勧めていたから…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 本当に全てクリーンヒット!!! むしろ、アデルちゃんが思っていた以上にぶち抜いていましたね(*≧∇≦)ノ*﹢.'*+ 男の子の切ない心情……… さいっこーです♪ (#^ー°)v
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ