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令嬢は達成感に満ち溢れる

楽しんでくださると嬉しいです!よろしくお願いします!

今日は抜けるような青空だ。

佳き日を祝福するように、空気すら甘く澄んでいる。


王都の市街地は、いつもより多くの人々が集まり、着飾った衛兵達がとある大聖堂を警備していた。


王都でも一番伝統のあるその大きな大聖堂は、石造りの壮麗な外観をしている。


内部には、装飾された太い柱が何本も並んでおり、見上げるほど高い天井は優美なアーチに象られている。高すぎて見えにくいが、天井画にはこの国の創世記が描かれているのだ。

側面と祭壇の上方には、ステンドグラスで国花や複雑な模様が描かれていて、太陽の光が美しくガラスを浮き上がらせていた。


その歴史と建築物としての素晴らしさが称賛されるこの大聖堂は、この王都の有名な観光地の一つにもなっている。そのため、いつもは観光客で賑わっているのだ。


だが今日は、特別に招待された者しか入ることは許されない。

この大聖堂の身廊に並ぶ席に座る彼らは、この国の重要人物ばかり。


今は、荘厳なパイプオルガンの音色が大聖堂に小さく、そしてまた大きく鳴り響いている。


わたくしは、身廊の前側の席で、今日の主役を見つめていた。


一人はこの国の第一王子であるルーイ・パライア殿下。

もう一人は、男爵令嬢でありながらその王子のハートを射止め、公爵令嬢から王子を略奪したのではと噂されるリンデル・フォーン嬢だ。


一応、建前として彼らはきちんと前々から婚約していたことになっている。


今日は、二人の結婚式なのだ。

この結婚を経て王子は正式に王位継承者第一位と認められる。


新郎であるルーイ王子は詰襟の黒い軍服姿。

襟についているバッジやボタンはすべて金。

王子の黒髪と合わせると禁欲的な装いとなっているが、きらめく青い瞳がアクセントとなりどこか艶めかしい。見目麗しい美青年と評される彼だが、隣の花嫁を見る表情からはじわりとした暗い熱を感じる。


対する花嫁は純白のドレス姿。

少し肩が見えるほどの上品なボートネックに、肩から手首まではうっすら肌が透けるレース袖。

胸元はあえて飾りのないサテン地、絞られたウエストからは袖と同じレースを重ねたエレガントなスカートが伸びていた。手には国花のブーケ。

彼女のストロベリーブロンドの髪はシンプルにまとめられ、伝統のティアラと長いトレーンのベールが美しい。微かに緊張の見える可愛らしい顔に、明るい緑色の瞳が不安そうに瞬いていた。


(まぁ!とってもとってもお似合いですわお二人とも!)


二人を見ていると、令嬢として訓練された笑みとはまた違う、心からの微笑みが漏れてしまう。


本当にお似合いではないか。あの王子の嬉しそうな顔。

わたくしにはわかる。彼は今、ついに獲物を手に入れたという喜びに満ち溢れている。


(これでこそ、わたくしが苦労をしたかいがあったってものですわね!)


わたくしは、アデル・ハワード。王家からの信頼も厚いハワード公爵家に生まれ育った。

金色の巻き毛に琥珀色の瞳。そしてつんとした鼻に赤い唇。白い肌に華奢な体。

儚げな美少女のカテゴリーにはいると自負している。

自分で言うのもなんだが、才媛との呼び声も高い。もちろん令嬢教育も完璧だ。


そんなわたくしは、目の前の王子の婚約者。だった。


わたくしは、通っていた学園の卒業パーティーで婚約破棄されたのだ。

わざわざ王子が終わりの挨拶をしている、衆目の真っ只中でだ。

対外的には、酷く屈辱的な場面だったろう。わたくしだけではない。ハワード家もろともに泥を塗られたのだ。社交界では大ニュースになった。


だがその時、わたくしは念願の舞台に歓喜していた。


(これでやっと、王子から解放されますわ―――!!バンザ――イ!)


王子から婚約破棄を宣言された時、嬉しすぎて震えてしまった。


なんのことはない。わたくしと王子は共犯なのだ。

わたくしたちは、この婚約破棄劇の計画を周到に練っていた。

目的は、二人とも欲しいものを手に入れるためだ。


王子が欲しかったのは、幼いころに街で見初めた件の花嫁、リンデル・フォーン男爵令嬢。


わたくしが欲しかったのは、隣に座っているエリック・ダグラス公爵子息。


わたくしは、うっとりとエリックの横顔を見つめて、首元のネックレスに触れた。


(あぁ、やっぱり王子よりエリックのほうが素敵ですわね!)


エリックは、わたくしの幼馴染だ。

ぴんぴんと跳ねた癖のある栗毛に鳶色の瞳。

色合いは地味で目立つ容姿ではないが、くっきりとした二重に負けない強いまなざしの精悍な顔立ちをしている。

その顔立ちと鍛えられた体のため、攻撃的な印象を受けがちだが、彼は優しく清廉で真面目な好青年なのだ。

白タイのタキシードに身を包んだ彼はなんて輝いて見えるのだろう。

この会場にいる誰よりにも、わたくしには好ましい。そう、王子よりもとっても魅力的に感じる。


学園を卒業した今、彼は王宮に文官として勤める予定だ。

ゆくゆくはダグラス公爵家を継ぎ、宰相を目指していくことになるだろう。

それでも王子と比べると身分も肩書も落ちる。


しかし、彼には王子になかったものがある。

残念ながら、王子はそれが絶望的なまでに欠落していた。矯正も無理なレベル。


エリックにあって王子になかったもの。

それは、清廉さと慈しみの心だ。


加えて、エリックの王家への忠誠が厚いところや、真面目一本気なところも高ポイント。


エリックとは、お互い公爵家で母親同士が仲良しということもあり、赤ん坊のころからよく一緒に遊んでいた。彼はいつも優しくわたくしの相手をしてくれた。

箱入り娘のわたくしはエリックしか知らなかったから、男の子とは皆優しくてかっこよく自分を守ってくれるものなのだと認識していた。

そのため、小さい時は彼を特別に思ってはいなかった。わたくしにとって、彼はただの幼馴染の男の子だったのだ。


それが恋に変わったのは、ルーイ王子の誕生パーティーの日。

そして、それはわたくしが王子の婚約者となるきっかけとなった日でもあった。



これからアデルが頑張ります!最終的にはイチャラブを目指します!

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