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死を巡り
それでなお生きる
あの声 あの手を感じるため
死を前に笑う
坊や、寝ましょう
まだ起きてはいけない
あいつが来る
油断してはいけない
まだ終わってない
あなたの______。
ああ、またこの歌だ。知らないようで知っている、あの声。これは夢なのだろうか。それとも…。
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ここは地球とは違う、遠い遠いはるか銀河の果てに生まれた星。魔法があり、文明がある夢のような世界。しかし光あるところに影あり、というようにこの世界にも闇はあるのです。
「待てーーー!!!!」
「あははははは!!」
ドタドタドタドタ
朝の5時
小鳥のさえずりの代わりに怒鳴り声と子供の笑い声が聞こえる。
その声で規則正しく上下していた布団が盛り上がる。
「もう5時か…」
膨れた布団から出てきた男達は口々にそう言い、また布団にもぐる。
しかし二度寝というわけにはいかないようだ。
「おはよー!みんな!」
ガシャン、ガシャン!!
鉄格子を鳴らしながら喚いている少年は自分の部屋から遂にここまで来たようだ。
赤い髪に薄く白色を帯びた青い目に十代特有のまだ綺麗な肌、まだイケメンと言えるほどの年は経ってないが将来はイケメンになるであろう顔にはびっしりと笑顔が張り付いて離れない。
うるさい声と顔にすっかり目が覚めてしまった3人の男達はじっとりとした視線と共におはようと返す。
「ま、待てーぇぇえ…」
少年がたどってきた道からおっきな帽子をかぶった金髪の青年がドタドタとヘロヘロになって現れる。
「あ、やっべ!」
追いつかれた少年はふらふらになっている看守の横を笑いながら通り過ぎ、またどこかに行ってしまった。
ゼィ、ゼィ
子供にかけっこで負けたそいつは肩で息をし、目を細め困った顔する。もともと目が細いそいつの目は細い糸のようになり、また給料が…、という言葉と共に涙がポロリ。
「残念だったな」
3人の男の内、髭ずらの中年の男が鉄格子に肘をかけ同情の言葉を投げる。
「ああ、お前の上司はいかついババアだからな。給料は無くなるかもな。ハハハ!」
「いや、あれはいかついのではない!あれほどのぼんきゅっぼんの天才はいないぞ!」
「いや、お前こそ何言ってんだ」
聞かれたら即打ち首ぐらいの失言を部下の前で言って見せたのは3人の中でも一番背が高く少しハゲている中年のよったおっさんで、それをこれまたの失言で下品な理由で変な所を否定したのは一番背が低く太っているちょび髭の中年。
「くんくん。あ、またお酒飲んでますね!」
「え!いや、飲んでないし」
ピョンと飛び跳ね、指をさした青年、ソウトはあざとく、整った鼻でくんくんとかぎ、やっぱり飲んでます!とギラリの睨む。
「かー、ソウちゃんの鼻にゃ勝てねぇな」
降参したのは酔ったおっさんことセンの親父。
「そこまで顔真っ赤じゃだれででも分かるわ!あほ」
「お酒はこれから三週間なしです!」
「ええー、頼むよーやめてくれよー!」
「もちろん、そこのお酒も取り上げです!」
「ギャーーー!!」
ここは牢所。日本で言う刑務所と同じ。でもちょっとだけ違うとしたら、看守も囚人も仲良しで、規則として鉄格子で隔たれているが敬語や罰なんてない。さっきの脱獄も然り、さっきのやりとりも然り。本来ならゆるならないこと。しかし、ここでは日常茶飯事。毎日のように行われている。
ここは牢所。地獄であり、天国でもある。不思議な所。
それがただの地獄に変わったのはそう、あの日からだ。