糸成は見つめ続ける。
次の日も糸成は休み時間になるたびに花野さんを見つめていた。
昼休みになって、私は糸成がきになって隣のクラスに行ったが、花野さんはいなかった。
「糸成のこと気味悪がって外に行ったんだろ。」
話しかけてきたのは良だった。良は続ける。
「糸成、お前、いい加減にしろよ。昨日だけなら、案外、皆、気にしなかったかもしれないけど。お前もバカだよな。お前嫌われてるわけじゃないんだしこんなことせずに素直に告ったりすれば意外と花野と付き合えたかもしれないのに。」
「別に花野さんと付き合いたいなんて思っちゃいないよ。ただ、見つめてたい。それだけなんだ...。」
そう答えると糸成は教室に戻った。私は安心して、廊下で京子と話していたが、糸成はベランダに出て、花野さんを見つめていたらしい。昼休みが終わる少し前、教室で他の人といたらしいおみそに聞いた。
「おみそも糸成を止めようとはしたんだよ。でも糸成は聞いてくれなくて...。花野さん絶対怯えてたよ。どうしちゃったのかなぁ、糸成。」
おみそは不安そうな顔をした。私にも糸成の気持ちはよくわからなかった。大体、恋愛とかそういう話は苦手なのだ。
その日の放課後、私は下校中の糸成と出くわした。糸成は花野さんの友達でもある京子だった。
「だから、アゲハも迷惑してんの。あーいうのやめてくれる?」
「君には関係ないじゃないか。」
「関係ないわけないじゃん。友達がストーカーされてんだから。アゲハも困るって言ってたよ?」
「信じない。」
「は?」
「花野さんから直接聞いたわけでもないし。」
「ちょっと何言ってんの。あ、菜乃花!」
京子が私に気づいた。
「菜乃花もなんか言ってやって。こいつマジ意味わかんない。」
「糸成、やっぱりああいうの良くないと思うよ...。」
糸成は私の言葉を聞いてるのか聞いてないのかさっさと行ってしまった。
次の日の昼休み、私はおみそに相談した。
「糸成はどうして、あんなことをするんだろう。」
「さあ...。」
「ねえ、今日も糸成、隣のクラスを廊下から見てるんだって。止めに行ってみようか。」
「えっ。でも糸成は言うこと聞かないと思うよ。」
「ダメでもともとだよ。」
「分かった...。」
私たちが糸成のもとに行くと、糸成の周りがヒソヒソしていた。少なくとも一昨日はここまであからさまじゃなかった。私は状況が悪くなっていると感じた。私たちが言っても結局糸成は花野さんを見つめることをやめなかった。
その日の放課後、校庭で糸成が男子たちに砂をかけられてるのを私は目撃する。男子たちは花野さんを見に、教室に来る糸成が気持ち悪いんだと言っていた。
「ちょっとやめなよ!先生呼ぶよ!」
私が止めると、男子たちは逃げて言った。
「大丈夫?糸成ももう花野さんを見つめるのやめなよ。」
「やめない。」
私はますます糸成が何を考えているのか分からなくなった。