母の日が少し過ぎた頃の話
「え?母の日のプレゼント買わなかったの?」
「うん」
首を傾げた私におみそはうなづいた。
そんな会話をしていたのはおみそと母の日について話していた5月のある日のことだった。おみそとおみその母が首を絞めあっていたあの日の光景が脳裏をよぎる。もしかして、プレゼントを買わなかった理由も何かシリアスな事情があるのかもしれない。
「だって、お母さん、私が買い物に行こうとしたら、母の日でしょ?それ母の日でしょってうるさいんだもん。」
「それは買ってあげなよ。」
思ってたより微笑ましい話に笑ってしまったけど、おみその心中は案外複雑かもしれない。おみそとおみその母の関係は私にはよくわからなかった。
家に帰った私は、母におみそとの会話を話した。
すると母は、こう言った。
「ねえ、久しぶりにクッキー会しない?家で。おみそとお母さん呼んでさ。良くんと糸成くんはやってもやらなくてもいいし。」
クッキー会とはおみその母が提案したもので簡単なクッキーを作るものだ。私の家は共働きで私たち幼馴染4人が小学校低学年の頃はよく開催された。小学校高学年に上がった頃から、良や糸成が飽きて来て、なんとなくやらなくなったけれど。ただおみそはあの会が結構好きそうだった。
「うん。いいかもね。」
私はうなづいた。
その次の日曜日、クッキー会が行われた。おみそもおみその母も楽しそうだった。私は2人が仲よさそうで安心した。
「じゃあ、これなら後は菜乃花と未羽ちゃんにやってもらっていい?」
「うん。」
母がクッキーの生地を渡しながら言った言葉に私とおみそはうなづく。母たちは少し離れたところでおしゃべりを始めた。私はクッキー型をおみそに渡して話しかける
「これ、後で出来上がったら、ラッピングして、お母さんたちに渡そうね。」
「うん、なのちゃんありがとうね。なんか、気を遣わせちゃったみたいで。」
その時、来客が来た。
「お邪魔しまーす。」
そう言って入ってきたのは良と糸成だった。てっきり来ないと思っていたので意外だった。この2人の関係はあの窓ガラスが割れた日に無事に修復されているようだ。手を洗い終わった良と糸成にクッキーの型とクッキー生地を分けながら、私は言った。
「これ、結構多めに作ったし、それぞれのお母さんたちにラッピングして渡さないかっておみそと話してたの。」
「えー!」
良が不満げな声を出す。するとおみそがなぜか私の方を見ながら茶化すように言った。
「じゃあ、良は気になる子にでも渡せばいいんじゃない?でもその気になる子っていうのは...痛い!良、殴るなんてひどいよ!」
「うるせえ!そんなん、いねーよ!なぁ糸成?」
「そう?僕はいるけどなあ。気になる子。」
クッキーの型を抜きながら言った糸成の言葉に他の3人が固まる。
「えー?誰々?」
おみそが興味津々という感じで聞く。
「花野アゲハさん。」
糸成が言ったのは学年で人気の女子だった。クッキー会は楽しいものとなった。