話し合い
次の日の昼休み、私は廊下で良と話した。
「万引きしたのはは良だったんだね?」
「あいつ、なんか言ってた?」
あいつというのは糸成のことだろう。
「良が先生に本当のことを言ったり、コンビニに品物を返したり、糸成に謝ったりしなきゃ、良との関係を断つって。」
そう言うと、良は傷ついた顔をした。自分が悪いのに勝手だと思う。私は踵を返し、その場を去った。
今日は部活が終わると、京子と帰った。
「今日、いつもより早く部活終わったし、遊びに行かない?」
「ごめん、京子、私、今日は良の家に行かなくちゃなの。」
「へえ?何々?もしかして、恋愛系の話?」
「そういうわけじゃなくて...。話し合わないといけないことがあるの。」
「ケンカ?」
「そういうわけでもないけど。」
「ふーん。まあ、いいや。じゃあね。」
そうして、私は京子と別れた。
良の家に行くと、家には良一人きりだった。良は一人っ子で両親が共働きなのだ。
「なんだよ。菜乃花。」
良は突然やってきた私に少し驚いたようだった。
「何って。良に万引きの件、白状させようと思って。というか、糸成と仲直りしてほしいかな。」
「別に喧嘩したわけじゃないし。俺は万引きしたとも言ってないぜ?」
私は思わず舌打ちしそうになった。往生際の悪い。
「とりあえず、糸成に謝ったら?それだけでも糸成は許してくれると思うよ。」
「......。」
「糸成とこのままなんて良も嫌でしょ?」
そのまま、無言のにらみ合いが続いた。良が口を開く。
「なんで菜乃花がそういう風に俺たちの仲を修復させたがるのかわからない。もう小学生の時とは違うんだよ。色々。」
そう言った良はどこか悲しげだった。
その後も説得を試みたが、ダメだった。私は今日は一旦諦めて、帰ることにした。
家に帰ると母が私に紙袋を渡してきて言った。
「これ、今日の夕食。作りすぎちゃったから、未羽ちゃんと家にに届けて。」
「なんか、最近おみその家にこういう届けものすること多くなってない?」
そういうと母の背中がピクリと動いた。
私はおみその家に向かった。チャイムを鳴らしても気づかないけど、家の中から声が聞こえて来た。またおみそがヒステリーを起こしてるのかと思い、ちょっと迷ったけど、幼馴染特有の親しさで渡し、ドアを開けてしまった。
開けなきゃよかったかもしれないと思った。おみその家に入ると、なんとおみそとおみその母が首を絞めあっていた。
「ちょっ!ちょっと!」
私が止めると2人の手が緩んだ。
おみその母は私に向かって言った。
「ありがとう。なのちゃん、ひどいでしょう。この子冗談で首を絞めただけなのにこんなこと…。」
「もういいから、二階で寝てきなよ。」
おみそが言うとおみその母は泣きながら、二階に上がって言った。
私はどうしていいかわからずとりあえず紙袋を渡した。
「これ、お母さんが作りすぎちゃったからって。今日の夕食のおかず。」
「ああ、ありがと。」
おみそは紙袋を受け取ると、私の困惑している視線に気づいたのか、言った。
「うちのお母さん、病気なんだよね。可哀想なのはわからなくもないんだけど、なんかいらいらしちゃって。薬ちゃんと飲まないし。」
「そうなんだ...。」
呟きながら、私達を取り巻く環境は変わっていく...と思った。ならば私達の関係くらいは変えないでいたい。