プロローグ
「菜乃花ってどうしておみそと友達でいるの?」
幼馴染の大溝未羽ことおみそについてこういう質問をされることはよくある。
けれど、私、一ノ瀬菜乃花は毎回困ってしまう。しかも今日質問してきたのは親友の京子だから、たまらない。学校の帰り道のことだった。
「どうしてって…。幼馴染だし。」
「だってさーぶっちゃけ菜乃花にメリット無いと思うんだよね。おみそって基本変な子じゃん。ずぶ濡れで学校来たりするしさ、おまけに遅刻魔、家ではヒステリックでうるさいんでしょ?そのくせ、学校ではこっちが引くくらい暗いし、いじめられてるとかいうけどぶっちゃけ自業自得だよね。まぁ、悪い子じゃないと思うけど。」
最後に言いすぎたと思ったのか、京子はそう付け足した。京子が毒舌家と言われつつ、嫌われないのはこういうところだと思う。実際、今批判しているおみそのことだって近くにいればなんやかんやと面倒を見てしまう。京子はそういう子だ。
「まあ、いーけど。じゃあね。」
京子が一方的に話を終わらせて、私達は別れた。
1人になって、思う。私がおみそと離れられないのは、多分去年の小学6年生の時のことを忘れられずにいるからだ、と。
私とおみそと針山良、八雲糸成は幼稚園幼馴染である、小さい頃から、親が仲良いからという理由でなんとなく私たちもつるんでいた。
しかし、問題があった。おみそが運動音痴過ぎて、鬼ごっことかするときもおみそはいつも足手まといなのだ。おみそという足手まといという意味のあだ名の由来はそこから来ていて、運動が得意な良がつけたものだった。それまでは、おみそに関しては燕返し禁止などのルールでどうにかしていたのだが、6年生になった頃から私と良や糸成の間にも体力の差が現れるようになっていた。
私と同じくらいだった良があれよあれよという間に身長を伸ばし10センチ差になって、私より小さかった糸成にも気づけば身長も運動能力も抜かされてる感覚は不思議でしかなかった。
だから今までやっていたような体力勝負は出来なくなって、私達は大いに戸惑った。そんな時、糸成がこんな提案をした。
「僕たちで秘密基地を作らない?」
私達は近所の林に古びた小屋を見つけ、そこをきれいにしたり、飾り付けをしたりして、秘密基地ということにした。家から椅子やらクッションやら、使わなくなった小さなテーブルなどを持ってくるとそれなりに部屋っぽくなった。
秘密基地にいる。ただそれだけのことが私たちをワクワクさせた。そこではトランプもくだらないおしゃべりもすごく楽しく感じられた。
しかし、卒業が近づいた頃、糸成が
「中学生になったら塾に入れられるし勉強に 集中しなくちゃいけないから。」
と、放課後に秘密基地へ行くのををだんだんと断るようになり、他のメンバーもなんとなく解散した。家から持ち込んだ家具やボードゲームを各々の家に持って帰る作業はひどく悲しかったのを覚えている。
私がおみそと離れられないのはその時の4人のとても楽しかった1年間忘れられないからなのだ。
だから、京子と帰った次の日、あんなことになるなんて思っていなかったのだ。
一ノ瀬菜乃花 吹奏楽部 しっかり者で面倒見がいい
大溝未羽 美術部 うっかり者でマイペース
針山良 サッカー部 お調子者で明るく、リーダーシップがある
八雲糸成 卓球部 頭が良く、学年順位2位
京子 菜乃花達とは同じ小学校で毒舌家