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無銘の英雄譚 - The Legend Memory of…?  作者: 紫紅魔
真偽を撃ち抜くか、あるいは
7/20

Ep-7 Side-R 見習い冒険者、ジン

 オレが保護されてから二ヶ月になる。

 市壁を出て、道なりに進み、森を抜け。カルティア自治都市群とイルミスト帝国を分かつ大壁をくぐり、進んで、進んで。

 冒険者一行の中に、赤髪の少年の姿はある。目指すは比較的中心部にある『クリサンセマム』。

 ちなみオレは元々は緑髪だ。マインドに詳しい人曰く、激しい情動の変化が起きた場合に、元々所持している属性の適性から別の適性に変化する『マインドイリーガル』が発生した可能性があるとのこと。その時の副次効果に「体の一部が変化後の属性にイメージされる色へ変化する」というのがあるらしい。

 赤から推察される属性は炎。対象となる情動は…『憎しみ、復讐』。どうにも、あの事をかなり根に持っているらしいな。オレ自身に自覚は無いが。

 クリサンセマムに着いてから、ここにあるフェネクスの拠点へ向かう。川沿いの道は花がなかなか綺麗に咲いて、心が少し洗われるようだった。この道の何処かにあると聞いたんだが…あった。フェネクスのエンブレムが描かれているから、間違いはないだろう。扉をあけて、中へ。


「こんにちは。」


「初めまして、ジン・フィッツェンハーゲンと言います。本日より、こちらでお世話になります。」


「ああ、話は聞いている。俺はバレット・ドゥルイットだ。ここで君の指導に当たることになる。よろしく。」


 手を差し伸べられる。一瞬取るべき手なのか迷うも、取らないことの方が失礼かと思って、握る。


「物を考えるのはいいことだ。」


 一瞬迷ったのは流石にバレたか。


「いいぞ。初対面の人間に対して警戒をするのは悪いことじゃない。さて、じゃあ色々と見せてもらおうか。」


 とりあえず、標的となる案山子を持ち出して試しに攻撃してみろとのこと。


「行きます!」


「良し!」


 ん…?いや良しじゃねぇ!なんか動き出したよあの案山子!とにかくやるだけだッ…!


 ザッ!ザッ!


 攻撃してこないことが前提になっているが、できるだけ死角から斬りかかる。


「んッ…!」


 あれ、思うように刃が入らないし、引き切り辛い…?メンテナンスしてなかったからか随分鈍い感触だ。


「そこまで。動きは悪くないな。後、武器は修理してもらおう。それまでは教導チームの備品を使うように。次はマインドで攻撃してみろ。」


 距離を取って、イメージする。備品の杖を掲げ。初めてだが、やってみるしかない。一瞬で敵を焼く、真紅の炎。アイツですら焼ける、燃え盛る炎。


 ボンッ!ドドドドドッ!


「ほー、速攻魔法か。珍しいことできるんだな…って、なんでお前が驚いてんだ…?」


「あ、いえ。マインドでの攻撃は、今のが初めてで。」


 確かに杖には魔法陣が残っていない。あと身体に脱力感がある。これは…連発できないな。杖を使った速攻魔法で、燃費が悪い。長所が全部かち合っちゃってるな、これ。

 ちなみに炎に飲まれた案山子は焦げてはいるが無事だった。かなり頑丈にできてるんだな。


「後は体力だが…それは教導開始後でいいか。基礎体力づくりから徹底的にやるからな。まぁその様子じゃ一年でモノになるだろう。一週間後に備えとけよ。」


 今回はこの辺りで引き上げることにして、協会への教導開始申請。ついでに、カットラスの修理を請け負ってくれそうな人を探すことにした。

 協会では、教導ライセンスを所持している者、もしくは協会公認の冒険者養成学校の下で一年以上の指導を受けることを入会の絶対条件としている。生半可な人材では死傷者が出るだけだ、という見解らしい。傭兵も多くは冒険者で構成されていて、傭兵と一般的な冒険者の違いは『クローズドクエストの受注頻度』だとされている。また、『フェネクス』などの傭兵団は、形式上は協会公認の『チーム』という形をとっていることで、組織として活動しやすくなっているんだそうだ。

 そんなところで冒険者協会クリサンセマム支部に到着する。もうすぐ昼時だというのに屋内はかなりの人の数だ。四つある窓口も全て列が出来ている。

 並んでみると面白いな。受付嬢ににこやかな顔でパーティー数オーバーを伝えられて頭を抱える者。ちょっと冒険とばかりに高難度のクエストに挑戦する者。逆にオープンクエストを依頼していく者。多分そのうち見飽きるんだろうが。


「いらっしゃい。今日はどんな?」


「見習い冒険者としての登録がしたくて。」


「あ、お師さんの方がいないと。書面手続きでサインが必要だから。」


「あらかじめ書面の記入は終わらせてます。これで大丈夫ですよね?」


「ん、リオー、ちょっとこれの確認やってー。」


 奥の方から一人でて来て書面を受け取った後、また戻っていく。


「こほん、それじゃあ説明させていただきますね。」


 …この人はどうやら事務的な説明の時は敬語になるらしい。

 さて、見習い冒険者について軽くまとめよう。見習い冒険者の権限は、一般冒険者のそれに比べて大きく制限される。その制限は二段階にわけられて、教導終了までずっとかかる制限と、教導開始から半年で解除される制限の二つだ。

 まずは終了までかかる制限。一つは受注可能なクエストの制約だ。オープンクエストは協会から出されている見習い向けの物しか受注できない。無論報酬も大したことはない。二つにパーティー参加の制限。これは基本的に見習い同士で組むことを前提にしろとのこと。明確な制限はないが、身内でもない限りパーティーは組めないと考えた方がいい。三つ、クラスシステムがオミットされる。多くの同胞と触れ、多くの経験を積み、多くの選択肢を持て。とのことだが、危険だとオレは思う。教導を受けている奴は多くても、パーティーバランスは大切だろ。

 半年を越えるまでは、クエストの受注自体が制限される。基礎を固めるまでは参加するなってことらしい。後は基本的に各支部の管轄範囲を超えないようにとか、あんまり縁のなさそうなものが大半だ。


「一通り説明ましたが、大丈夫ですか?」


「ええ。」


 そして、タイミングを見計らったかのように奥から確認を行っていた協会の人が出てくる。彼女は手元の冊子なんかをまとめて渡すと慌ただしく去っていく。


「ありがと。それじゃあ確認。登録名はジン・フィッツェンハーゲン。教導者はフェネクス所属、バレット・ドゥルイットでいいのかな?」


「はい、問題ありません。」


「それじゃあ、この冒険者カードを。有効期間は教導開始日にあたる丁度一週間後から。無くさないようにね。」


 先述の注意事項を書き留めた冊子とカードを渡されて登録は済んだ。さて、バレットさんに紹介された『友の手』に向かってみるとしよう。

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